49 新たな同胞の胸の内1
ハロルド伯爵軍の魔術師レアンは、カドリの傍に立って歩いている。
(ふふっ、妬いてる妬いてる。あぁ、面白い。生き延びられて良かった)
レアンは腹の中ではアレックスを笑っていた。
なりふり構わず、レッサードラゴンに部隊が襲われた時は、逃げ回っていたのだ。少しでも長く生きていようとしたところ、カドリ達に救われて助かった。
「ズカイラーという魔物を倒しに行く。すまないが君の力を貸して欲しい」
前を向いたままカドリが告げる。
ズカイラー、炎の魔人と称される巨大な魔物であり、レアンも図鑑でしか見たことがない。
「ええ、もちろん、喜んで」
当然、レアンは快諾した。
(今更、確認なんだ?でも命を助けてくれた、こんな綺麗な人に頼まれて。嫌だって言うわけないじゃないのよ)
部隊が数匹のレッサードラゴンに襲撃されて、壊滅した。救ってくれたのは妖しいほどに美しい、カドリという青年である。アレックスについては、なぜだかカドリの武器としか思えなかった。
(ハロルド伯爵なんかに雇われるより、この人と一緒のほうが絶対に面白いわ)
むさ苦しく陰気な集団だった。今回のように愚かな指示も飛んでくる。
「やっぱり、私だけで良いと思います。この人は、どこか安全なところに置いていきましょう」
問題なのはアレックスというこの従者だ。薄い桃色の髪に、淡い紫の瞳を持ち、レアンの目から見ても可愛い。小柄だが槍の実力も本物だ。
最初から、自分をカドリから引き離そうとする。
一見すると凛々しい風貌なのだが、どう見てもヤキモチ妬きなのだ。
「君は従者なのだから、少しはわきまえなさい」
すかさずカドリが言い、鉄扇でペシッとアレックスの尻を叩く。
「はうっ」
アレックスが尻を押さえて悲しげな顔をする。
どうやらカドリからの信頼も厚いらしい。レアンにはこの一撃も親愛の証にしか見えなかった。
(なに、この2人、無自覚なの?ほんと、面白い。でも、私もなんとか、あの間に割って入れないかなぁ)
レアンはじっと見ていて思うのである。
戦闘も楽なものだ。全て、アレックスが駆け回ってすぐに倒してしまう。まるで忠義で働き者の犬のようだ。
「しっ!はっ!」
空を飛ぶフレイムウィングすらも2匹を呼吸1つの間にアレックスが仕留めてみせた。眼球部分だけを槍で貫いたのだ。到底、人間業とは思えない。
「やりました、勝ちましたっ!」
ついでに嬉しそうな笑顔をカドリに、続けて自分に得意げな顔を向けてきた。
「戦闘で得意げな顔をするのはやめなさい」
しかし、すかさずカドリに叱られて悄気げ返っている。
(ふふ、怒られて落ち込んじゃってやんの。可愛い)
レアンはプククと含み笑いである。
「いいかね。君はその実力を高く身に着けつつあるのだから、人間性も同様でなくてはならない」
カドリがクドクドとアレックスに言い聞かせている。
「はい、すいません。はい」
反省している様子のアレックスだが、傍から見ていると、カドリに期待を寄せられているようにしか見えない。レアンとしては可笑しくてしょうがないのだった。
(いいなぁ、羨ましいなぁ)
レアンは今年で17歳になる。良い男がいれば気になってしょうがない。
(だって、カドリ様、すごい魔力。見た目もすごいけど)
自分も魔術師である。カドリが話したり、アレックスを援護したりするたび、強力な波動を感じるのだった。
「ところで君は何を使えるのかな」
アレックスへの指導を終えたカドリが、ぐるんと唐突に顔を向けてきた。
(わっ、ドキッとする)
ここまで他人事で高みの見物を決め込んでいたレアンはドギマギしてしまう。
「私は、氷と雷の魔術を得意としています」
レアンは答えた。氷漬けにした相手に対し、電撃を流し込んでやるのだ。決まれば、魔物相手に遅れを取ることはそうそうないものの、詠唱に時間がかかるなど課題も多い。
「ただ大き過ぎる相手は凍らせきれなかったり、素早い相手には躱されてしまったりするので」
レアンは分かりやすいところだけを弱点として挙げた。
カドリの涼やかな瞳が自分を見つめる。
(多分、全部言ってないのはバレてるし、多分、部隊の人たちを守ろうともせず逃げ惑ったこともバレてるわね)
別にバレても構わないと思える、不思議な雰囲気をカドリが醸し出しているので、レアンも気にしないこととしていた。
(分かった上で、同行させてくれてて、しかも協力まで求められているんだからね)
何かカドリというこの美男には考えがあるのだろう。
「やっぱり危険ですよ、カドリ殿」
一方、何も分かっていないアレックスが性懲りもなく口を挟んでくる。
(また、煽ってやろうかな)
どう話そうかレアンは考える。
「君はもう一度、叩かれたいのかね?」
さすがに若干の苛立ちをにじませて、カドリが応じる。
慌てて尻を押さえてアレックスが逃げ去っていった。
(いちいち面白いんだから)
おそらくは自分と同世代くらいだろう、とレアンはアレックスについて見ていた。からかい甲斐のある、カドリとはまた違った意味で面白い相手だ。
(この2人と一緒なら、いろいろ楽しいかもね)
レアンは思い、再度歩き出した2人に続いて歩き出すのであった。




