40 地の底にて〜アナホリギス2
フォリアはアナホリギスと対峙している。
狭い穴の中で自分と戦うこととなった。もう勝負は見えているのだ。
「もし、あなたに言ったことが、カドリという人にも伝わるのなら」
フォリアは魔力を練り上げながら切り出した。杖を握る拳の、放つ光がより一層、強くなる。
「甘く見ないでちょうだい。私、神聖魔術がちゃんと効く相手には滅法、強いのよ」
口調も崩していた。だが、相手は敵なのだ。丁寧に言うこともない。
フォリアは自然と微笑んでしまう。
「聖なる力よ。我が敵に裁きの鉄拳を見舞え」
フォリアは祈りを込めて告げる。
白い光が自分の右拳より溢れ出て、拳の形となす。
遅れてアナホリギスが動き出す。
(速い)
もう一瞬で目前にまで迫っている。しかも側面に回り込むように動いていた。
「でも光のほうが速い。聖拳ゴリガメ」
狭い穴の中、逃げ場などもとよりない。穴も掘れるのかもしれないが、間に合うわけもなかった。
敵は最初から、自分を相手にここを戦場に選んだ段階で詰んでいたのだ。
光の巨大な拳がアナホリギスの身体を呑み込み、消し飛ばした。
「もし、カドリという人にも泣き所があるのなら、それは全部を遠隔でやらなくてはならないということよ」
フォリアは呟く。
直接、本人がここに現れて、自分と戦ったなら、どうなっていたかは分からない。
(そう思わされるぐらい、今回は手が込んでた)
恐ろしく手強いだろう、とフォリアはどこまでも続く横穴を見て思うのだった。
「ぬぁっ」
ちょうど、レックスが落ちてきたところだった。尻餅をついてしまっている。
どことなく微笑ましくてフォリアは笑ってしまう。
「フォリア殿っ、無事ですかっ?」
すぐに自分に気づいて、レックスが尋ねてくる。
「はい。敵はアナホリギスという虫の魔獣でした。村人や剣士さんを攫ったのは、この魔獣でしょう。一匹だったので、とりあえず消し飛ばしてやりました」
胸を張ってフォリアは告げる。
「なんという無茶を」
レックスが恐ろしいほどの速度で抱き締めてきた。
身体能力では勝負にならない。フォリアはされるがままである。
「で、殿下、苦しいので」
フォリアはあたふたとして告げる。
「では、無茶はもう、やめてください」
耳元で囁かれるように言われた。
「分かりました、分かりましたから」
フォリアは口先ではとにかく了解するしかないのであった。
ようやく解放されるも、レックスからは疑わしいと言わんばかりの視線が向けられる。
「本当に、無茶はだめですよ。私は心臓が止まるかと」
レックスがさらにしつこく念を押してくる。
「分かりました」
また抱き締められてはたまらない。嫌ではないが苦しいし照れくさいし、こそばゆいのである。
「凄まじい魔力をお持ちなのは重々承知ですがね。上からでも下の凄まじい光が見えましたよ」
ようやく少し冷静になったのか、羞恥心をにじませてレックスが言う。
「ごめんなさい。でも、まずはアナホリギスからと思って。カガミカガチには神聖魔術の光を鏡みたいな鱗で弾かれてしまうから」
フォリアは縮こまりながら説明する。
「そんな相手がいると分かっていて、ここに残ったのですかっ!」
また抱き締められそうな流れだ。慌てて数歩、フォリアは後退る。
(危なかった)
案の定、カガミカガチとの相性のことを知られていたら、皇都に戻されていたのだ。カガミカガチとアナホリギスが連携していたなら、倒すのはかなり難しい。
「だから、奴らを私、分断してやったんです」
肩をすくめてフォリアは告げる。
ふと、上が気になった。まだ戦っているのではないか。かなり地下まで下っているので、音も届かない。
「言いたいことはいろいろありますが、バーガンたちを今度は援護しないと。あそこから上へ戻りましょう」
同じく地上の方を見上げてレックスが言う。
落ちてきた穴の近くに階段が作られているのだった。土を固めただけの簡素なもので、傾斜も急だが垂直な縦穴を上るよりは遥かにマシだ。
「どういうつもりかは分かりませんが、魔獣どもはカドリが来たときに備えて、律儀に人間用の通路も作っていたようですね」
カドリというのは魔獣には慕われているらしいと、窺える階段の設置であった。
「私が後ろから押しますから、フォリア殿は先に上がってください」
なぜだか横を向いてレックスが言う。
フォリアも気付く。一見して、狭くて傾斜の急な階段を2人で上るのだ。
(もし、つまづいたら)
レックスの方が体力面では優れている。いざというときのため、後ろにいてもらったほうが安全だが、つまり尻を押されるか支えてもらうことになるだろう。
「それか、私に抱きかかえられて上るかのどちらかですよ」
レックスがダメ押しのように、もっと恥ずかしい提案をしてきた。
(それに、殿下の疲労を考えると、自分で歩くほうがまだマシだわ)
フォリアはこうして、自力での歩行を選択し、狭い階段を一つ一つ、上がっていくのであった。




