37 謀り合い2〜カガミカガチ
フォリアはレックスの傍について歩き続ける。
(何かしら、これ)
フォリアは村の地面を見て、違和感を抱く。
人間1人分ほどの幅で、土が少し盛り上がっている。だが決して高くはない。くるぶしくらいまでだろうか。
レックスもさほど気にはしていないようだ。人の手であつらえた道か何かのようにも、見えなくもないからだ。
(これも多分、相手の仕掛けだと思う)
気にかけながらフォリアは歩き続ける。ただし、絶対に土の盛り上がった場所には足を踏み入れない。
(私の想像通りなら。まだ迂闊なことはしたくない)
見えない敵と自分は探り合いをしているのだった。
村を木柵で囲っている、その内側を道の盛り上がりが走っている。
「バーガン殿は、そんなにお強いのですか?」
フォリアは歩きながら、レックスに尋ねる。
「ん?」
急に話しかけられて、レックスがびっくりしている。
「いえ、さっき、バーガン殿がいるからって、油断するのはいけないと。それは、バーガン殿がお強いってことなのかなって」
フォリアは地面を気にかけたまま尋ねる。
いつ、何が出てくるか分からない反面、レックスといる限り、大丈夫だとも思えた。
「一人で雨のように矢を降らせる、達人です。速射が上手いのですよ。ちょっと、他に我が国でも同じことの出来る男はいません」
レックスが笑って答える。
矢の降り注ぐ戦場を思い浮かべ、フォリアは渋い顔をした。
「味方まで巻き込みそうな戦い方ですね」
フォリアは他に返しを思いつかなかった。
この地面の下に対しては全く役に立たなさそうでもある。
(狙いが正確とか、矢の威力が凄いとか、そういうのじゃないのね)
フォリアにとっては、一矢で敵を射抜くような能力が今回は望ましいのだった。
(矢の消費も大きそう。場合によっては無駄遣いかも)
どういうわけか、フォリアはバーガンについては心の内で欠点ばかりをあげつらってしまう。先の『保養』についてのやり取りのせいで心証が悪いのである。
「ええ、ですから、フォリア殿も迂闊には近づかないようにしてください」
レックスも苦笑いで頷き、否定はしないのだった。
(結局、本当にアテになるのは殿下だけなのかもしれない)
フォリアは歩きながら思う。
(そして、恐ろしいのは、村人を攫えば、私も看過することが出来ないって読み切られていること。もし、そうならカドリという人は本当に怖い)
フォリアはまた思考の迷路に身を沈める。
(それでも罠だと分かっていれば、私は無防備じゃない。それに、相手の予想を超える動きが、何か出来れば)
考え続けている間にも、三々五々、バーガンたち偵察部隊が帰ってきた。村の外は草地を開墾した畑が並ぶ。
特に異常を感知することは出来なかったらしい。
「やられたっ!」
点呼を取っていたバーガンが声を上げた。
何事かとフォリアはレックスと顔を見合わせ、バーガンの方へと向かう。
「剣士のギースがいません」
レックスを見るなり、バーガンが報告する。
言われるまでもなく、人攫いに遭ったのだとフォリアは察した。
「白い大蛇はいたのか?それに共に行動をしていた者は?何か気付かなかったのか?」
レックスが立て続けに尋ねる。いずれもフォリアも確認したいことではあった。
「いえ、そのようなものは」
弓兵の一人が首を傾げる。ギースと同じ班にいた者らしい。
「むしろ、ギースも集合場所の近くまでは間違いなく無事でした」
ギースのいた班のまとめ役と思しき、年かさの兵士も報告する。
(そうなのね、やっぱり)
フォリアは村をぐるりと囲む木柵を一瞥して思う。
「村長の話では、人のいなくなる現場には、これまで必ず白い大蛇があらわれていたらしい」
レックスがバーガンとギースの班員らに説明している。
「もし、そうならギースの件は初めて現場に白い大蛇がいなかった事例となりますが。本当にお前達、白い大蛇を見なかったのか?」
バーガンが応じたことから、班員たちへの細かい状況確認が始まった。
フォリアは耳をそばだてながらも思考していた。
(敵にとっても、私たちの出現で風向きが変わったっていうことなのかしら)
一連の流れを聞いていて、フォリアは思うのだった。
『シロヘビ様』を信奉している村人たちではなく、屈強な50人の兵士が現れたのである。そして標的である自分も。動きが変わって当然だ。
(カガミカガチ以外にも何かいる。気づかないでいると大変だったけど)
人を攫うというのが、カガミカガチの戦い方ではない。穴も掘らない性質のはずだ。
「もう一つ妙なことが。草原の各所に穴を発見しました。大量にあって、畑にまで何箇所も」
バーガンがレックスに纏めた情報を伝え始めていた。とりあえずギースの件は村人の件と同じように捜査をするつもりらしい。
「人一人くらいは簡単に落ちそうな大きさなんですが、蓋をしてあるんですよ。石なんかでね」
バーガンが更に説明を補足した。
「そうか。そこに村人もギースも落ちたと考えるのが自然だね」
レックスが鷹揚に頷く。
(違う。落ちたんじゃなくて引き摺り込まれたんだわ)
フォリアは聞いていて確信するのだった。
(少しずつ、カガミカガチでも倒せる人数にまで兵士を削る。そして、勝てるとなってから、カガミカガチとともに正面から挑んできて、私を攫う)
フォリアは敵の思考を読んでいた。
(これは多分、レックス皇子殿下への対策だわ。多分、隙あらばレックス皇子も地下に引き摺り込んで私から引き離すつもりだわ)
そして分断され地表に残った自分を、カガミカガチが攫うのだろう。
(サグリヤンマ10数匹を、たった一人で斬り倒してしまったのが、多分、敵にとっても脅威だったのね)
ちらりとフォリアはレックスを見て思う。
「じゃあ、私はどうすれば、この敵の裏をかけるかしら」
フォリアは呟いて思考し、結局、手段を1つしか思いつけないのであった。




