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182 レアンとマリー・オコンネル3

 小休止を終えてから、またレアンはアブレベントに乗って北上する。ベリー・オコンネルもシロガネ兵団も一緒だ。

(少し、冷えたかしら?)

 荒野の真ん中にそびえる、城の尖塔にレアンは気付く。同時に肌に冷気も感じ取っていた。

 いよいよベリー・オコンネルの本拠地オイレン城を視界におさめたのだ。特徴的な水色の屋根の尖塔でレアンは気付く。

「寒くないかい?」

 眼下からベリー・オコンネルが大声で尋ねてくる。

「大丈夫です」

 レアンは即答した。

 確かにハロルド伯爵領よりも寒さが厳しいのかもしれない。肌に刺すような冷気だ。

「無理をしないように。城へ着いたらとにかく身体を温めると良いよ」

 更に助言までベリー・オコンネルがくれるのだった。

(歓迎されれば、そりゃお湯ぐらいは甘えさせてもらえるのかしら?)

 場合によっては自分は身分だけで疎まれかねないのである。

「分かりました」

 口論をしても仕方がない。素直にレアンは頷いた。

 進行してオイレン城城下町への門扉に至る。

 先触れを出していた。既に城の正門前には主要と思える人々が並び立っている。

「お兄様っ!おかえりなさいませっ」

 真ん中に立っていた黄色いドレス姿の少女がベリー・オコンネルに駆け寄っていた。

 見た目だけでもレアンは察せられているのだが。

 ベリー・オコンネルを『お兄様』と呼ぶ人物などこの世に1人しかいない。

 大きめの澄んだ紫の瞳も顔立ちもとても可愛らしい美少女だ。

「ただいま、マリー。よくぞ私の留守を見事に守り抜いてくれた」

 飛びついてくるマリー・オコンネルを抱き止めて、ベリー・オコンネルが告げる。

(この人が妹君のマリー様ね)

 レアンは横からじっと2人を、主にマリーを観察する。2人とも秀麗なので、とても絵になる光景だ。

(こんな綺麗な妹様を毎日見ていて、よく、あたしを口説こうと思えたわね)

 レアンは呆れてしまう。

 マリー・オコンネル、『辺境伯領の太陽』という二つ名に恥じぬ、眩いばかりの可愛らしさだ。その高名はレアンの暮らしていたハロルド伯爵領にまで聞こえてきている。

(アレックスとはまた違った美人だけど。私も当然、この人のことは思い出しておくべきだったわね)

 レアンは自分のローブ姿とマリーのドレス姿を見比べた。あまり並び立ちたいものではない。だが何かの式典ともなれば、そういう機会もあるのだろうか。

(とりあえず、しばらくは隠れてようかしら)

 しれっとレアンはアブレベントの陰にでも隠れようと後退る。

 かえって裏目だった。

「この御方が?」

 ハタとマリー・オコンネルの瞳が自分の方を向く。澄んだ、汚れのない青い瞳だ。形の良い鼻も口も顔の全てが羨ましいぐらいに整っている。

「あぁ、私の婚約者となる予定のレアン嬢だ。お前の義姉になるのだから、敬うように」

 なんとも偉そうにとんでもないことをベリー・オコンネルが言い放つのだった。

(この人、私を家族にちゃんと紹介する気があるの?)

 レアンは思わずベリー・オコンネルの隣に並び立つやその足を踏んづけてやった。

「ぐあ」

 あえなく悲鳴を上げるベリー・オコンネルだが大袈裟なのたった。物理的には非力な魔術師のレアンである。痛いわけがない。

「紹介に預かりました、レアン・バートランドと申します。オコンネル辺境伯領の太陽と誉れたかい、マリー・オコンネルに敬っていただけるわけもない女ですが、閣下の特別な厚情で、ここに至りました。よろしくお願い致します」

 久し振りにレアンは姓までも名乗り、頭を下げた。自分は貴族ではない。貴族の人がするようなお辞儀などできるわけもなくて、頭を下げたのだった。

「まぁ、お兄様をちゃんとたしなめて、皮肉まで食らわすなんて、素晴らしい御方ですわ」

 兄が踏みつけられたというのに、マリー・オコンネルも思わぬ反応を返す。無邪気にポン、と手を合わせている。

「それに私も、『ムカデの女王』との呼び声高いレアン様のお名前はかねがね」

 挙句、嬉しそうにレアンをしげしげと眺めてくるのだった。

(それって高名なのかしら?)

 レアンは首を傾げざるを得なかった。

 このマリー・オコンネル嬢も兄と同様、貴族としては異端なのかもしれない。

 平民である自分にも肯定的な雰囲気で接してくれる。

「私は申し遅れました。ベリー・オコンネル辺境伯の妹で、マリー・オコンネルと申します。こちらこそよろしくお願い致します」

 自分に対して、しっかりと貴族式のお辞儀をした上でマリー・オコンネルが挨拶をしてくれる。平民の自分が見ても、ほぅっと息をつくほどに所作の一つ一つが美しい。

「この妹はこのとおり、美しいのだがね。私は心配だよ。私としては実力者に嫁いでほしいからね。実力のない軟弱者となど縁続きにはなりたくないよ」

 ベリー・オコンネルが素敵な妹を前にして、とんでもないことを言い放つのであった。





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