表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/224

178 翻弄される1

 サグリヤンマの一匹をカドリは単身で使者に出した。親書を持たせて、である。

 わけのわからない感情がこみ上げては消えることを繰り返していた。同胞であるレアンが国家反逆に転じ、ダメ押しのように聖女フォリアをアレックスに逃がされたせいだ。だからこそ逆に聖女フォリアの善意を活用する。そのための親書だった。

「さて。この気持ちはなんなのか」

 ポツリと呟く。

 苛立ちなのか怒りなのか。カドリ自身にもまだ見極めがつかない。

「いずれにせよ、彼なら最低限、上手くやるだろう」

 カドリはあのサグリヤンマを高く評価していた。

 ヘングツ砦での激戦を息抜き、その後も戦い抜いている。歴戦の勇士なのだ。

(もし、私が本当に、全てを出し尽くすのなら。果たして、どこまで出来るのか)

 どう頑張っても魔窟を封じることは出来ない。

 しかし、魔物を根絶やしにすることはできるのではないか。

「むしろ、根絶やしにしてやろうかな。この、どす黒い感情をぶつけて。思い知らせてやらなくてはならない」

 カドリは魔窟のある方角を見やる。

 小細工を弄し過ぎたのかもしれない。あの魔窟がなければ自分のカドリとしての人生はもっと分かりやすいものだったはずだ。

「凶々しいっていうのは、そういうところなんですか?」

 下から質問が投げかけられる。見るまでもない。アレックスだ。

「で、君は何をしているのかね」

 カドリは縋り付いている甘えん坊の槍使いに尋ねた。背負っている槍が刺さりそうで怖いのである。あまりくっつかないでほしい。

「見張りです」

 アレックスが悪びれることなく答えた。

「カドリ殿がまた悪巧みをしていないか。悪い人のフリをしていないか」

 更にアレックスが言い足す。

 遠回しに、悪巧みをするなと言いたいのだろう。聖女フォリアを攫って監禁したことを言っている。

「彼女は既に私の手を逃れ、ブレイダー帝国に逃げ込んでいる。同じ手はおそらく食うまいよ」

 カドリは嘆息して告げる。聖女フォリアも甘くない。

 次は徹底的に聖女フォリアが鉄鎖獅子を相手取らず、ブレイダー帝国の剣士か誰かをぶつけようとするだろう。他の同胞たちは聖女フォリアが片端から強烈な神聖魔術で消し飛ばすのだ。

(犠牲が大き過ぎる。そうなれば)

 覚悟を決めた。自分が力を出し尽くすほうがまだマシなのではないかと思う。

 だからもうアレックスの言う『悪巧み』をすることはない。

「私にとって、君を出し抜くなど容易い」

 しかし代わりにカドリは言い返すのだった。素直に『悪巧みをしません』と告げるのも、間が抜けているように思えてならない。

 身体接触を増やされたことも素直に応じられない理由にはなっている。自分はそういうことをされると素直になれないのだ。

「じゃ、してるんですか?」

 とても悲しそうにアレックスが言う。

「していない」

 カドリは即答した。

 自分は今、さぞ苦虫を噛み潰したような顔をしていることだろう。

(だが)

 安心させないと泣き出しかねない。アレックスの涙は苦手だ、と自分についても判明している。

(別に、女性から好意を寄せられたことも初めてではあるまいに)

 アレックスも女性だと発覚してからはどうしても目で確認してしまう。女性らしい部分が無いでも無い。むしろ可愛らしい容貌をしているというのに。

(まったく、私はどうしてしまったのだ)

 カドリは自身のありようについて、訝しく思うのだった。

 自分はアレックスだから動揺しているのだろうか。

「良かったぁ」

 無防備な笑顔をアレックスが見せる。

 本当に安心した、という顔がどうしても自分の心を揺らす。

(こんなことをしている場合ではない)

 カドリは苛立つ。

 今は、自分の心を見極めなくてはならないのだ。本当に魔窟に対し、すべてを出し尽くすのか。それが本当に出来るのか。

(そして、私には出来ないことがある以上、聖女フォリアを信用できるのか。そして向こうが私の提案に乗るのか。信用してくれたとして、私は命を預けられるのか)

 カドリはじぃっと考え込んでいる。

 以前、話したところで言うところの、想定の段階にあるのだった。

 操り人形の木偶となる聖女抜きで、魔窟を倒さなくてはならない。

「まったく、君の言いなりになると、私はとんだ苦労をすることとなりそうだよ」

 カドリはさすがにボヤくのであった。

「え?どういうことです?」

 アレックスがキョトンと首を傾げる。

 可愛くする理由も分かった。容姿が可愛らしい女性だったからだ。判明してみれば何ということはない。

 自分に『大好きだ』と言ったのが本当ならば、可愛いと思われたかったのだろう。

(まったく、私は)

 カドリは苦笑した。自分もまんざらではないのではないか。

「考えれば考えるほど、聖女フォリア抜きで勝つのは大変だ。そう思えてならないのだよ」

 カドリは言い放つ。

「それは」

 アレックスが俯く。

「なに。やれるだけはやってみるさ。そのため、北に残ったのだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ