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175 反乱へ向けて3

「王家にカドリが味方していない。王家側についていないと、それを知らしめることが大きいね。君を紹介しお披露目することには、そういった意味が大きい」

 真面目な顔で言うと、説得力を帯びてくるのがベリー・オコンネルの言葉だ。

(それは確かに)

 レアンは納得した。

 本当にベリー・オコンネルの言うとおり、カドリの力を背景に王太子が好き放題してきたというのなら。

(カドリ様には確かにそれだけの力がある。本人はただ、政治的信条とかいうのでやってただけ。そんなつもりはなかったんだろうなぁ)

 ただ王政を守ろうとしていただけではないかとも思う。少なくとも王太子個人を守ろうという意識などなかったはずだ。

 やがてハロルド伯爵の執務室に至る。

「さて、まずはハロルドだ」

 ベリー・オコンネルが笑って扉をノックする。

「どうぞ」

 返答があったので2人で中に入る。

「閣下、本気ですか?」

 ハロルド伯爵の第一声である。

 金髪の大人しそうな若い貴族、というレアンの印象だったが。目元が険しく、厳しさの見える顔立ちになりつつある。

 ずっと部屋の中をうろうろしていたのか。窓際でもなく扉寄りでもない、中途半端な位置に立っていた。

「あぁ、もう、勘弁ならん」

 険しい顔で腕組みし、ベリー・オコンネルが告げる。

(こんな顔も出来るのね)

 レアンはチラリと一瞥して思う。

「まさかレアン嬢とは。彼女は庶民ですが。本当によろしいのですか。結婚の相手が彼女で。それか結婚するとしても、どこかの貴族の養子としてからの方が家格としては」

 全く見当違いのことを言うのが、ハロルド・ベラルド伯爵なのであった。

「そっちか」

 さすがにベリー・オコンネルの意表もつかれているらしい。

「あぁ、反乱のことをおっしゃっているのなら、それは我々は全力で戦います。レアン嬢もそのための戦力としてなら誠に心強い。そこは納得出来ますが」

 ハロルド伯爵が言い切った。

「人間は血筋じゃない。レアン嬢は魔術、人間性、容姿ともに申し分ない。儀礼や慣習は。そちらが彼女に合わせろよ」

 カラカラと笑ってベリー・オコンネルが言い放つ。

(格好良いこと言うじゃない。理屈は滅茶苦茶だけど)

 自分が今後、儀礼を気にしなくても良くなるのは有り難いので、レアンは黙っておくこととする。

(私、本当にこの人と?)

 レアンは改めてベリー・オコンネルを見あげる。  

 反乱することを差し引いても良い相手だとは思う。

(むしろ私も反乱する気になったから、そのために話を受けようかなって)

 手放しで惚れ込んだわけではない。

「んおっ、そこにいるのはカドリ殿の魔獣ですか?」

 遅れてようやく、ハロルドがオニツメカギバチに気付く。露骨に怖がっている。最初から表情1つ変えなかったベリー・オコンネルとは大きな違いだ。

(安心感はあるのよね。親しみやすさも)

 レアンは息を1つつく。

「いいんですか?そんなことより、反乱のことは?私たちが北から離れれば、魔窟の魔物を撃退する戦力がいなくなります。大変なのは閣下の領土です。国境を下げざるを得なくなるかもしれません」

 口を挟むと、ハロルドから睨まれた。悪い人間ではないが直接応対すると身分にはうるさい。自分の働きも黙認であった。直接話をすると横柄だった気がする。

 レアンは睨み返す。今更、ハロルド・ベラルド伯爵などに怯えているようでは先が思いやられる。

 ハロルドがため息をつく。

「そうですね。今のままでは南北からやられる。それならまだ、南だけでも無力化したほうがマシだ。それぐらいは私にも分かります。それに、南の連中に直接やられたのはオコンネル辺境伯閣下ではなく、この私の領土だ。恨み骨髄というのなら、それはむしろ私の方だ」

 深い怒りを滲ませてハロルドが言う。

 レアンのことは、ベリー・オコンネル辺境伯の婚約者に準ずる扱いとでも決めたのだろうか。敬語と普通の話し方の入り交じった話し方をした。

 ベリー・オコンネルが自分に目配せして苦笑いだ。

「わが領土を傷つける国など、考えれば考えるほど要らないと分かる。本当なら私自ら、反乱軍の先頭に立ちたいぐらいだ」

 強い意志をハロルドが見せる。

 言葉通り、直接襲われたのが自らの領土だというのが大きいようだ。

「別にそうしたっていいんだぞ、ハロルド」

 嬉しそうにベリーが告げた。

「私では他のものを引っ張る、求心力が足りません。閣下でなければ、人を引きつけられませんよ」

 肩を竦めてハロルドが言う。

「そのためにも、レアン嬢なのさ。簡略でも私の婚約者としてお披露目をする」

 さらにベリー・オコンネルが加えた。

「そんなことをしている場合では」

 ハロルドが咎める。

「彼女もカドリの少なくない同胞である魔獣たちと5000もの軍勢を率いるのだ。不足はない。彼女はカドリの名代だ」

 ベリー・オコンネルが幾分か過剰に自分を売り込むのだった。

「なるほど。カドリが最早王家につかないと、知らしめることになります。つまり、閣下とレアン嬢の婚姻は、カドリと婚姻するようなものだ」

 とんでもなくおかしなことをハロルドが言い出した。

「それはさすがに気持ち悪いからやめろ」

 とても気を悪くした顔でベリー・オコンネルが言う。

 たしかに気持ち悪い。レアンも顔をしかめた。

「ともかく、ハロルド。お前は王家の一番の被害者で俺は当てにしている。よろしく頼むぞ」

 ベリー・オコンネルがハロルド・ベラルド伯爵と話をまとめた。

「もちろんです」

 ハロルドの回答とともに2人ががっちりと握手を交わす。

「では、われらはオイレン城へと向かう」

 そしてまた急いで北のオイレン城へと向かうのであった。

 


 

 

 

 

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