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174 反乱へ向けて2

 まともな国で暮らしていれば、カドリも本当に歌って踊るだけの存在だったはずだ。

「アブレベントたちだけじゃさ、手の回らないところもあるから。本当に助かるわ」

 重ねてレアンは告げた。実際、今もアブレベントでは入ることの出来ない城内で自分は守ってもらっている。

 人間の襲撃者など、容易くオニツメカギバチなら倒すことが出来るのだから。

(でも、あたしはカドリ様とは違うから) 

 自分はこの、南下してベルナレク王国打倒に賛同する同胞たちの、代表に過ぎない。あまり勝手なことを繰り返せば離反されるか。悪くすれば殺されるかもしれない。

(そもそも、あたしがアブレベントからも認められてるのは、きちんと同胞に気遣いが出来るからなんだから)

 アレックスとは違うところだ。

「レアン嬢、私は?」

 感謝の言葉が欲しいらしい。図々しくもベリー・オコンネルが尋ねてくる。

「閣下はむしろ、私たちに感謝する御立場でしょう?」

 レアンは前を向いたまま告げる。

 軍事力だけではない。カドリの魔獣たちとともに味方する自分には数字以上の価値がある。

(それが分からないとは、言わせない)

 横目で秀麗なベリー・オコンネルを見やる。

「手厳しいな」

 ベリー・オコンネルがおどけて笑う。

 わざと剽軽にしているのだ。カドリと離れて気落ちする自分を力づけようとしているらしい。話し相手ではあろうとしてくれているのだ。

 だからあまり腹も立たない。オニツメカギバチもそこは分かるのか、ベリー・オコンネルに手出ししようという気配すら見せなかった。

「国一つ滅ぼす。その戦いに手を貸そうというんですから」

 レアンは肩を竦める。

 だが、自分たちだけでも足りない。

 ハロルド・ベラルド伯爵を皮切りに北部の領主たちで結束する。

(だからまずは、南下してハロルド伯爵を説得、それは分かるけど)

 問題はその後だ。

 西へ進んでからまた北上する。ベリー・オコンネルの居城オイレンを目指す。家族にレアンを紹介するというのだ。

(拙速を欠くと思うんだけど。それともこの人の頭の中では、そんなことをしてても間に合うって言うの?敵に備える時間を与えることになるっていうのに)

 レアンとしては首を傾げてしまう日程であった。

 不意討ちという側面では、迅速なほど良いのだから、今のうちに早馬を出して、オコンネル辺境伯軍の総勢も南下させるべきではないか。

 北上する時間の無駄も省ける。

「楽しみだよ。君を家族に紹介するのは。見合いはほとんど却下してきたし、会ってみてもまるで心が動かなかった。父母も妹も、私の妻など諦めていたようだからね。ここ最近は」

 レアンの危惧に気付いてか気付かなくてか。呑気なことをベリー・オコンネルが言う。

「なにせ、恋人の一人もいない人生だったからね」

 はっは、とベリー・オコンネルが笑い声をあげた。

「なるほど。だから私を口説くのが、あまりお上手ではなかったんですね」

 皮肉たっぷりにレアンは言い返してやるのだった。

「最後にはこうして、受け入れてくれてるじゃないか。私の口説きが上手だったか。口説くのが下手でも魅力を感じたのか。どちらかではないのかな?」

 対して、余裕たっぷりにベリー・オコンネルも返す。

 オニツメカギバチが触角をふるわせる。阿呆な話に呆れ果てたのかもしれない。

 レアンを家族に紹介するため、時間を浪費してでも北上するということだ。魔獣にだって考える頭ぐらいはある。ベリー・オコンネルの意図に呆れ果てているらしい。

 伝わる思念でレアンには分かる。

「どちらでもありませんよ」

 素っ気なくレアンはベリー・オコンネルに告げた。

(私も悠長だって、思っているわよ)

 レアンはオニツメカギバチの赤い複眼に目配せした。今ひとつ、何を考えているのか、オニツメカギバチも視線からは読みづらい。

 敵に準備をする時間を与えないことよりも、自分の紹介の方が大事だという。

「君自身とカドリの強力な同胞とが、我々の仲間だと知らしめるのは、君が思う以上に大事なことなんだよ」

 ようやく真面目なことをベリー・オコンネルが告げる。

「南の連中はカドリがいるから、ヘリックに従っていたのさ。それが我々の方だというのは、なかなかの衝撃だろう」

 さらにベリー・オコンネルが言い、隣に立つと腰に手を回そうとしてくる。無表情にレアンはその手をたたいて睨みつけてやった。

「まぁ、この子や私はともかく、アブレベントの迫力には驚くでしょうね」

 レアンは横を向いて答えた。

「君もだよ。その『ムカデの女王』の名前は君が思う以上に広く知られつつある。現に各地からの義勇兵は君たちのもとを目指した」

 確かにヘイドンとカートンの軍勢は膨らむ一方だった。献金もバカにならない額にのぼっていたものだが。

「さらに派手に暴れ続けていれば、アレックス共々、どこかの貴族が養子にしようとしていたかもしれないよ」

 思わぬ言葉をベリー・オコンネルが言う。

(でも、まぁ、そうか。驚くことじゃないわ。今となっては。なにせ養子どころか妻にするってのたまうお貴族様が隣にいるんだからさ)

 レアンは思うのだった。

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