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168 肉薄2

「ムカデの女王は、今日はまだ村にいるようです。オコンネル辺境伯やカドリ本人と何やら話し込んでいるようですね」

 レーアが話題を変えた。

『ムカデの女王』というのはレアンという名の少女であり魔術師だという。カドリの腹心の1人だ。

(ベリー・オコンネル辺境伯もこちら側か)

 ベルナレク王国の領主たちの中では気骨のある人物だ。ただブレイダー帝国の国境から領土が離れており、レックスもそこまで親しいわけではない。

「あの魔術師が村にいるのなら、迂闊に村へは手出しできませんな」

 マクシムが呟く。

 魔力の規模だけならマクシムを優に超えると、その魔術を一目見て告げていた。氷属性と雷属性を使い分けており、死角がない。

 レックスもレッサードラゴンの群れを消し飛ばす姿を目の当たりにしていた。

「正面から挑むのは得策ではありません」

 首を横に振りながらマクシムが加えた。

「ベリー・オコンネル辺境伯は、フォリア殿の拉致を認めているのかな」

 レックスはふと思いついて呟く。

 ベルナレク王国との外交の場で軽く言葉を交わす程度だったが、曲がったことがいかにも嫌いそうではあった。オコンネル辺境伯の助力は期待できるのではないか。

「カドリが独断でフォリア様を攫った、と。それはあり得ますが、まだ辺境伯殿がどう出るか分かりませんから」

 レーアが慎重に言う。最後の手段としておきたいということらしい。

「一応、部下にそこも考えて動くように指示は致します」

 悪い考えではないということらしい。

「槍使いは岩地を飛び回っていましたね」

 バーガンが口を挟む。

 もう1人の腕利きである。黒い槍と鎧兜が特徴だ。細身で小柄だが刺突の威力は尋常ではない。突進がそのまま魔術並の威力を持っている。

「あいつが一番読めねえ」

 ポツリとバーガンがこぼす。

 カドリの魔獣たち以上に行動が読みづらく、気まぐれだ。意味もなく走り回っていることもあれば、大したことのない小物を追いかけ回していることもある。一方で全く動かずボンヤリしているとしか思えない時間も長い。

(いざ、フォリア殿の救出となって、一番、鉢合わせになりそうな相手だ)

 そしてレックスでも勝てるかどうかという相手でもある。手こずっている間に別の魔獣たちも殺到してくるだろう。

 出来ればいずれの強者にもぶつからず、フォリアだけを取り戻すのが理想だ。そうマクシムもレーアも主張している。

 とにかくフォリアを救えればいいというのがレックスであり、バーガンに至ってはカドリに怯えているようにすら思えた。

(無理もない)

 レックスは強張ったバーガンの横顔を見て思う。

 恋人の命を盾にされ、失うことを想像させられた。追うことも本来、あの場で禁止されてもいる。その代償はレーアの命と言われたのだから。その心の傷は深く、計り知れない。

(だが)

 レックスも同じ立場だが、自分は今、フォリアを奪われていて、このままでも酷使されて使い潰されることは明白という状況なのだ。

「そして、次に会うフォリア殿が、我々の知る、本来のフォリア殿である保証はどこにもない」

 声に出してレックスは呟く。

 あの可憐な聖女が、ヘリック王太子に寄り添い、メイヴェルという低俗な女性に蔑まれ、酷使される姿を思い浮かべた。

 自分を魅了した笑顔も失われるのか。

(くっ、フォリア殿)

 到底、受け入れられない。

 体を内側からねじ切れられそうな思いになる。じっとしてはいられない。

「殿下、気を落ち着けてください」

 マクシムがたしなめてくる。交代で皆が自分を落ち着かせようとしてくれるのだった。

「魔獣たちの動きにも法則があります。それに不規則な動きをする槍使いもあまり賢くはないとか。付け入る隙は必ずあります。その好機を潰すことも逃すことも許されないのですよ」

 レーアが言う。落ち着くのはフォリアを救うためなのだと思い出させてくれた。

 だが、今のところ、力を尽くしているのはレーアの部下たちだけだ。人任せに近い状況が自分を落ち着かせないのかもしれない。

「しかし、聖女を洗脳する術など本当にあるのだろうか」

 ポツリとマクシムが呟く。もともと好奇心や探究心の強い男だ。気にはなるのだろう。

「フォリア殿ご自身の持つ神聖なる魔力は彼女自身を守ると思うのですよ。或いはフォリア様ご自身がそのように力を使うでしょう」

 正論ではあった。魔窟でも毒素を浄化していた気がする。

「だが、そこをなんとかする目処が立っていたから、カドリは攫ったのだ。で、なければカドリもさらうまい。その手段が間違いなくあるのだと考えるべきだ」

 レックスは仕方なく思考して答える。

「仰るとおりでしょうが、時の猶予はある、と私はそう考えるべきだと思います」

 マクシムが無理矢理見つけた、好材料を披露するのだった。確かに間違えてはいない。

「そうだな」

 仕方なくレックスは頷くのであった。

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