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149 アレックスの戸惑い2

 カドリの顔には疲れが見えるのだが、一方でとても機嫌が良いようにも見える。顔色一つ取っても相反する状態なのだった。

 アレックスは結果、カドリの秀麗な顔をマジマジと眺めてしまう。

「何かな?私の顔に何かあるのかね?よく、人から眺められる顔であることは自覚しているつもりだが」

 カドリから冗談めかして指摘されてしまう。

「いえ、その、なんというか」

 具体的に何を言うべきなのか、告げたいのか自分でもアレックスにはわからなかった。だからつい口籠ってしまう。

 レアンのようにはキビキビと話せない。

「ご無事そうで、いえ、無事に戻ってきたことも嬉しくて、お元気そうで」

 アレックスは辛うじて心に浮かぶ言葉を口に出した。

「私はそんな危地に赴くと、君達に告げたのだったかな?」

 笑ってカドリが訊き返してくる。

 確かに目的地も何も告げられていなかった。それでも心配をするのもおかしなことだったのかもしれない。

「いえ、ろくに説明をしてくれてなかったです」

 アレックスは答えるも、答えてから説明がろくに無かったことを不満に思う。

「正直、さほど危険なことではなかったのさ。それでいて、とても良い結果を得られた。だから、無事で良かったというなら、それはむしろ、私から君達に向けて贈る言葉だよ」

 カドリがとても饒舌だ。よほど良い結果だったらしい。

「それなら、それは良かったです」

 アレックスはなんとなくカドリの秀麗な顔が眩しく見えて俯いた。

「あぁ、そのとおりだよ」

 カドリがはっきりと微笑んだ。

(あっ、本当に喜んでくれてる)

 作り笑いではない方の笑顔だ。なぜだかアレックスはとても安堵する。

 本当は南のことなども話さなくてはならないのかもしれない。自分の守る国の王太子が守るべき国民を虐げたのだから。

(カドリ殿は生粋の王政派だと分かっているから、とても話しづらいんだけど)

 レアンですら、その話はまだしていない。

 会話が止まってしまった。あまりアレックスは考えることが得意ではない。かつて年齢が近いということで聖女フォリアの護衛に抜擢された時も、緊張してかえってあまり話を出来なかったことを思い出す。

「君達を対魔物の最前線に、置き去りにしてしまった。一番の危地に、ね。大変だったろうに、皆、無事でいてくれた。それだけでも嬉しく有り難く幸せなことさ」

 改めてカドリが労ってくれる。カドリらしくない気もした。まるで、もう終わったかのような口振りなのだ。

 違和感を覚えつつもアレックスとしては、素直に労われて嬉しい気持ちもある。

「レアンさんが凄かったので。魔術以外にも。カドリ殿とはまた違ってて。ヘイドンさんとか顎で使うんです。それなのに喜んで、皆、人が増えてきて、レアンさんがまた纏めて。とうとう、辺境伯閣下まで来てくださいました」

 アレックスは自分なりに懸命に言葉を並べた。どう喋るのが正解なのだろうか。自分でも首を傾げてしまうのであった。

「あぁ、懸想したみたいだね。ベリーの奴は私にレアンを嫁にくれと言ってきたよ」

 センスで口元を隠すおなじみの姿勢のままカドリが言う。恋することを懸想するというのが、いかにもカドリらしい。

「お、お嫁さんですかっ」

 懸想する以上、行き着く先が結婚であるのは、分かりきったことだ。アレックスにも分かる。それでもびっくりした。

 ただ、これは作り笑いだ。

(あ、カドリ殿、この件はかなり怒ってる)

 何より目が笑っていない。

 アレックスは察した。同時に不安になる。レアンがベリー・オコンネル辺境伯に取られ、その妻となることではない。

(カドリ殿、まさかレアンさんのこと)

 アレックスとしては、つい勘繰ってしまうのであった。

「彼は、私に許可を求めて、それでレアンを口説こうとしていたが。そもそもはレアンに彼が受け入れられ、レアンから私に報告をするのが順序というものだ。彼から私にいきなり話すものではない。ましてや許可を材料にしようとは」

 カドリが珍しく腹を立てていることを隠さない。

(いつもと違う)

 まるで娘を嫁に出す父親のようだ。アレックスはきょとんとしつつ思う。

(レアンさんもそうだけど、あの2人は仲が良いし。話も合うみたいだけど)

 アレックスはいよいよ考え過ぎて頭が痛くなってきた。

「でも、2人とも仲良くなってます」

 アレックスは辛うじて言葉を返すことが出来た。ここまではまだ扇子でペチッと叩かれていない。どうやらちゃんと話せているのだ。

「だから大目に見ているのさ」

 今度は楽しそうにカドリが返す。

「2人とも活動的だからね。気は合うのではないかな」

 半ば投げやりにカドリが言う。

「カドリ殿、同胞でも、その、レアンさんが結婚するのはいいんですか?他所の人と。その、決まりごとみたいなのって」

 アレックスはふと気になって尋ねた。

「私は同胞が子孫を残すことについては寛容だ」

 カドリが気分を害した顔をする。

 何やら侮辱に当たってしまったらしい。

「グロンジュラにアブレベントだって、いずれ同種と結婚して構わないし、イビルスコルプに至っては既に一度、産卵している。レアンとて例外ではない」

 平等を重んじるカドリなのであった。

「そう、なんですね」

 ただ一方でアレックスとしては少しもやもやしてしまうのであった。

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