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133 焼かれた村で2

 沈黙しているが、レアンとアレックス、カドリの同胞2人も現場を訪れていた。小柄な2人であるので、兵士たちの中にともすれば紛れてしまう。

(いつものように戦場で生き生きとしていれば、目に付くのだが)

 ベリーはそっと2人を眺めていた。すでにハロルドも指揮に戻っている。損害の確認と救助を優先して取り組んでいるようだ。

「やっぱり許せない。メイヴェル・モラントだけでも、姿を見たあの時、殺しておくんだった」

 まず、アレックスの呟きが耳に入る。槍を握りしめる手にも力を込めたのだろうか。ミシミシという音も断続的に聞こえてくる。

 凄まじい殺気であり、ベリーですら気圧されて身も凍る思いではあるのだが。裏を返せば、それだけ気持ちも強く保てているということでもあった。

(問題はレアン殿の方だ)

 いつもは頭を回すしっかり者であり、迂闊なアレックスをたしなめる側でもあるのだが。

 ベリーはレアンの心情を思うにつけて心配になってしまう。

(まさか、俺がこんな気持ちを抱く相手がこの世にいるとは)

 直接、目にするまでベリーは自身がこんなことになるとは思ってもみなかった。

(驚くほど、才能にあふれた、可憐な魔術師の少女だが。これを、この同じ国民からの裏切りをどう受け止めるのか)

 オオムカデを従えて、しかし本人は悄然と立ち尽くす。思いがけない出来事に間違いなく衝撃を受けている。時折、視線を動かすのも新たな死傷者の発見や被害の発覚に驚いて、のものだ。

 ベリーはそっとレアンに近付いていく。

 アレックスを見ても分かるが、レアンにせよアレックスにせよ、カドリの同胞とはいえ、カドリとは別の人間なのだ。物事の受け取り方も違う。

(もしカドリなら、多分、これを見てもあいつは揺らがない。それでも国体が大事だと言い切るだろう。しかし、彼女はどうか)

 レアンの横顔を見つめながら歩む。

「レアンさん、これをした奴らを、今からでも追いかけて皆殺しにしないと。手がかりみたいなのがあったみたいです」

 アレックスの方が早かった。ただ立ち尽くすレアンに進言している。アレックスならば本当にやりかねない。ベリーですら思うほどだ。

 レアンが首から上を動かしてアレックスの方を向く。

「それをやったって、何の意味があるのよ?」

 レアンがようやく言葉を発した。どれだけ沈黙してからの発言だったのか。若干、声がかすれていた。

「でもっ!」

 アレックスがレアンの前に立って言い募る。

「これをやろうって考えついた奴は、また別な奴に命令して、別な場所で似たようなことをするだけよ。向こうはそれだけでいいの。羨ましいわよね?簡単で。大事に守るより、台無しにするほうが簡単で、さ」

 皮肉たっぷりにレアンが言う。どこか自嘲気味で投げ遣りだが、声の底に芯のようなものをベリーは感じた。

 アレックスも口をパクパクさせて言い返せずにいる。武芸の方はともかく口論はあまり強くない。

「あたしは、こんなことの標的にするために北で魔物と戦い続けてきたわけじゃない。せっかくカドリ様に救われたんだから。それで頑張ってきたのに、こんなの許せるわけない」

 レアンがアレックスを正面から睨む。本当はアレックス越しにこれを目論んだ人間、つまりはヘリック王太子を睨んでいるのだ。

 ベリーには分かる。

(私にとっても、睨むべき相手だからね)

 手を組むならカドリではない。カドリ不在でも戦力を掌握して運営出来ているレアンの方だ。いつしかベリーはそんな結論にたどり着いていた。

 手を組むに際して自分は幸い、女性としてのレアンにも惹かれたのである。一石二鳥というやつだ。

「実行犯だけ殺して。報いを受けさせて。そんなので満足してやるの?黒幕がどっかにいて、ニヤニヤしてるのに?」

 レアンは更に言葉を重ねる。

「そんなつもりは、ないです」

 アレックスが言葉を絞り出す。圧倒されても尚、そんな言葉が出てくるあたり、アレックスの怨念もかなり深いのだろう。

「やるんなら、根本的なところも。実行犯はいくらやっても同じよ。かといって許すつもりもないけどね」

 レアンが肩を竦める。さらにはアブレベントの甲殻をそっと撫で始めた。

「でも、私たちがそう思ったって、カドリ殿は?あの人はその、多分、これが王太子がやったことなら」

 アレックスが口ごもる。

(カドリなら多数のために少数が犠牲になるのは仕方ない。そう言い切るだろうね)

 ベリーも頷く。そしてレアンやアレックスにとってはカドリというのは従うべき相手のはずだ。

「カドリ様は説得する。こんなことさせて、許すような人であってほしくない」

 レアンが暗い目をシュトルク村の焼かれた家や死傷者へと向ける。

(だがカドリは聞き入れないだろう)

 ベリーですら思う。

「少なくとも、あたしは許さない。カドリ様と袂を分かつことになっても、あたしはやるわよ」

 続く言葉にベリーは震えた。

「こんな国、要らない。それどころか有害。あたしはベルナレク王国なんて潰して、安心できる国で暮らしたいのよ」

 奇しくも自分と同じ結論にレアンが至ってくれたことに、ベリーは感謝するのであった。

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