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122 魔窟の外で1

 帰りの足取りは軽い。一刻も早く外の者たちにも勝利を知らせたい一心だ。

 休憩もそこそこに、フォリアたちは外へと来た道を急ぐ。

 最奥から中層、上層と抜けて、いよいよ外の光が見えてきた。

「もう少しで外ですね。フォリア殿、大丈夫ですか?」

 レックスが声をかけてくる。

 帰りの道でもフォリアは光球を出し続けていたのだった。

「ええ。もうここまで来たんですから」

 微笑んでフォリアは返す。ここまで来てしまえば、もう意味のない懸念だ。

「そうですよね、失礼しました。私も高揚しているようだ」

 レックスも察して苦笑いである。

 5人で無事、魔窟を抜けて外に出た。

「うーん、やっぱり、広くて明るくて、。外はいいわぁ」

 大きく伸びをしてレーアが告げる。やはり狭いところが苦手なのだろう。表情すらも別人のように明るくなっていた。

「そりゃそうだ。魔窟と外じゃ比べ物にならねぇだろ」

 バーガンも笑顔で相槌を打つ。

 荒野ですらも、魔窟の中に入るより、今の方が明るく感じるほどなのだった。吸う空気も澄んだものに感じられる。

「もう、これからは魔窟に煩わされる必要もなければ、北に軍を置いておく必要もない。それで浮く軍費は計り知れませんぞ」

 マクシムも違う面のことを、嬉しそうに告げる。

 確かにいつまで続くか分からない滞陣というのも、軍人にとっては嫌なものだろう。

(そう、この人たちにとっては、本当に問題が解決して、終わったっていうことだけど)

 自分は違う。フォリアは思った。

 ベルナレク王国の魔窟など他人事なのだ。

 嬉しさの度合いがどうしても違うのだった。

(いずれ、殿下やマクシム様、皇帝陛下に助力を要請すべきなのたけど。いつ切り出すべきなのかしら)

 フォリアは今から早速、思いあぐねているところなのだった。

 落ち着かない気分と寂寥感が、喜びの半面で忘れられない。自分はベルナレク王国の魔窟も当然、浄化したいのだ。

(あちらのほうが歴史は古いし、外の段階から、もう、こっちよりもキツかった。中にいる魔物も比べ物にならないぐらい、強力に違いない)

 フォリアは思い返すにつけて、ほのかに恐怖すら抱くのだった。

 自分がいなくなって結界が綻んでいるのになお、ベルナレク王国が滅んでいないことも嬉しい反面、意外なのであった。

「そのとおりだな、マクシム。フォリア殿、本当に貴女がいらしてくれたおかげです。私は果報者です。貴女をこの国にお連れできて」

 レックスが嬉しさのまま、何度目かになる言葉をくれた。

 手放しで喜ぶ姿を見るにつけ、フォリアとしては水を指すようなことは言いづらい。

「いえ、私の方こそ、あの国にいたらどうなっていたか」

 フォリアは俯いて告げる。

 魔窟は潰したい。かと言って自分も使い潰されたくなかった。

 だからこの国にいる。

(とりあえず一仕事終えて、一段落がついたのだから、気持ちも身体も、少し休めればいいの)

 そして次に向かえば良い。

 フォリアは意図的に肩の力を抜こうとする。

「フォリア殿っ!」

 レックスが不意に鋭い声を上げる。

 更にふわりとした浮遊感が来て、自身が持ち上げられたことをフォリアは悟った。

「なにごとですか?」

 フォリアは動揺して思わず声を上げる。

 だがすぐに理由が分かった。自分の立っていた場所を何か大きな影がよぎったからだ。

 襲撃された。

(ならば反撃しなくちゃいけないわ)

 フォリアは習慣で黒い影を目で追った。

 灌木に止まった、鳥型の魔獣。黒い羽毛でずんぐりとした身体を覆う。頭部も丸っこくて黄色い目は真ん丸だ。

(アサシンオウル)

 羽音を立てずに闇夜でも飛ぶことの出来る、北の森林帯に棲む魔獣だ。

(それがなぜこんなところに)

 本来なら荒野にあらわれる魔獣ではない。

「くっ、こんなときに」

 レックスが歯軋りする。

 魔窟を潰した開放感が台無しにされた。気持ちはフォリアにも分かる。

「大丈夫です」

 それでもフォリアはゆっくりとレックスから降りて地に足をつけた。

 視線はアサシンオウルから外さない。視界から消えると本当にそれきりで見失ってしまう。

「倒し方は頭に入っていますし」

 フォリアは大体のところを既に察していた。

(まさか、こんなところにまで)

 本来、いるはずのない場所にいる魔獣など、カドリが差し向けたに決まっている。

(でも無駄よ)

 こちらには今、バーガンもレーアもマクシムもいる。フクロウの魔獣1体ぐらいはどうとでも倒すことが出来るのだ。先程まで魔窟で戦った疲労を差し引いても勝つのは自分たちである。

「今更、ベルナレク王国に使い潰されるなど御免ですから、私は何としても」

 フォリアは込み上げる闘気のまま告げた。

 だが、敵はアサシンオウルだけではないのである。

「流石、我が国の誇る聖女様です」

 からかうような、皮肉な声が響く。

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