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お見舞い行列

ついにこの日がやってきた。

それは俺がこの病院を退院する日だった。


俺が退院すると知って、担当の女医さんや病院中の看護師、はたまたこの病院に入院している患者のほぼ全員が俺の病室に押しかけてきた。


特に彩乃とは、お互いの体調を気にしながらたくさん話した。


「彩乃も早く退院してね」


「はい! 私もすぐに如月君にいる学校に行きたいです! 待っててくださいね!」


さながら、人気アイドルの握手会のように次々と来る見舞い客を的確に橘さんと桜井さんが処理していく。


「はい、黒川様時間です。すぐに優馬様から離れてください。あとが控えてますので」


橘さんが言う。


「え! もうお別れですか! 早過ぎます!」


彩乃が駄々をこねる。


「これでも友人ということで少し長めなんです! 感謝してほしいくらいです!」


少し怒りながら桜井さんが彩乃を引っ張り、病室の外へ連れていく。


「いや〜! 私と如月君を離さないでください〜」


「はい、では次の方どうぞ」


「ようやく私の番が来ましたわね! そもそもここは私の病院なのですから列に並ぶなんておかしいですわよ! まったく……」


次にやって来たのは、金髪縦ロールのお嬢様だった。

大浴場で俺の未来の妻と宣言していた、ダイナマイトボディの女の子。


天上院天音だ。


「天上院! そう言えば俺がこの病院に入院できたのは天井院が病院に口利きしてくれたからだってな……ありがとう」


「え、えぇ……そうですわ! 優馬様のためならこれくらいお安い御用ですわ! おほ、ほほほ」


天上院はいつもよりも少し挙動不審な反応を返した。

そんな変な天上院を見て俺は思わず笑ってしまうのだった。


「もうっ! なんで笑うんですの!?」


「いや、照れてるのかなって思って。そんな天上院が可愛いかったからつい……嫌な思いさせてちゃったならごめんね」


「か、可愛いだなんて……そ、そんなこと言われたら私……嬉しすぎてどう反応したらいいか分からないですわ……」


天上院は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「おい、天上院。大丈夫か?」


俺は俯く天上院の顔を下から覗き込むようにして見る。


「きゃぁっ! 恥ずかしいので見ないで欲しいですわ……」


金髪縦ロールを左右に振り回し、俺遠ざけた。

天上院が髪を揺らすたびに、良い匂いが漂ってくる。


絶対これ、高級なシャンプーの匂いだよな……


「天井院様、それ以上は優馬様への攻撃とみなして排除の対象としますよ」


静止の声を上げたのは意外にも桜井さんだった。


彼女はいつもよりも鋭い目つきになり、声も落としていた。


「うっ! この乙女の純情な感情故にでる頭フリフリを攻撃ですって! 貴方には人の心が無いのかしら」


「いえ、乙女の純情は否定しませんが、優馬様への行動は度を超えています。正直私は貴女の行動を理解できません! 優馬様の顔に傷でも出来てしまったらどうするのですか?」


珍しく桜井さんが天上院に怒りを露にする。


そんな桜井さんを見たのが初めてだった俺は思わず息を飲むのだった。 


「ふん! これだから脳筋は困りますわ。この程度でその優馬様の顔に傷なんてつくわけないじゃない! そんなことも分からないのかしら?」


「それは貴方の判断ですよね! 私は客観的に見て言っいるんです!」


二人の口論が激しくなる。


今は俺のベットが両者を分断しているため、お互いに手は出ないが時間の問題かにも思われた。


いつもならここで橘さんが止めに入るのだが、思った以上に俺のお見舞いの列が長くてんてこ舞いになっていた。


これでは橘さんが仲裁は入るのは難しそうだ……


「桜井さんと仰いましたわよね、貴方。この私に楯突くというのがどういう意味か分かっているのかしら?」


「貴方がどのような存在か関係ありません。私の仕事は優馬様を守ること、ただそれだけです。優馬様を守るためなら例え軍隊が相手だろうと私は戦います。それが私の使命です!」


「あら、カッコ良いですわね。でも、私がその気になれば、貴方なんて一瞬のうちに消せますわよ?  そうなれば流石に貴方の使命とやらが、とてつもなく薄っぺらいものだと気がつくでしょう」


天上院さんが桜井さんを煽る。


「私に脅しは通じませんよ。伊達に鍛えてませんから」


「そう……なら証明してもらおうかしら」


天井院が指を鳴らそうと、手を肩の所まで持ってくる。


「ええ、構いませよ。いつでもかかって来なさい、お嬢さん!」


お互いの背景に龍と虎のオーラが浮かび上がり、睨み合う二人。


「ま、待って! ストップ! ストップ! 二人とも、喧嘩しないで!」


俺は慌てて二人の間に入る。


かっこ悪い話だが、俺は全くこの二人に勝てるイメージが湧かなかった。


だから、少し情けない怯えながらの静止になってしまった。


「優馬様……どうか安心ください。私がすぐさまそこの標的を排除致しますので」


「それはこっちのセリフですわ! この害虫は私が駆除しますわ! この様なお方は、優馬様には相応しくありませんわ!」


結局、俺の静止も虚しく二人はさらに険悪なムードになった。


この二人の仲の悪さは、俺が思っている以上に深刻なのかもしれない……


「二人とも仲良くしてよ! ここは病院だよ! 俺は周りに迷惑をかける人は嫌いだよ!」


俺は少し強めに言う。


ここは個室だし、別段室内に他の人がいら訳では無いので、周りの人に迷惑をかける心配は無い。


しかし、二人が喧嘩した場合、どちらかが怪我をするかもしれないし、病院内の物を壊すかしれない。


そうなってしまうと色々な人に迷惑がかかってしまう。


俺はそれが心配だった。


そんな思いで強く言ってみたのだが……


二人は俺の言葉を聞くと、急に石像にように固まった。


しかし、徐々に顔から悲壮感が漂い出してきた。


俺はそんな二人の様子を見て、さっきまでとは違った意味で心配になる。


そして二人は、少し目を潤ませながら俺に迫ってきた。


「いやですわ! 嫌いにならないで欲しいですわ! もう二度と優馬様の言うことに逆らいませんわ! お願いですわ! なんでいたしますので許して欲しいですわ!」


「優馬様! 二度と喧嘩なんてしませんから嫌いにならないでください! お願いします! 優馬様に嫌われてしまったら、辛すぎて死んでしまいます!」


二人の豹変ぶりに俺は困惑する。


そんな俺に二人は泣きじゃくりながら必死にすがりついてきた。


「え……いや、そこまで悲しむなんて……」


「優馬様……私は優馬様のためならなんだって致しますわ! ですから、どうかこの私を嫌いにならないでくださいますわ……うぇぇぇん……」


「ぐすん……私もです!  私が出来ることはなんでもするから、見捨てないで!」


そんな二人を見て俺は罪悪感に苛まれる。


嫌いって言うだけど二人ともこうまで取り乱してしまうものなのか?


流石のこの惨事に気がついて、橘さんが室内の様子を見に来た。


「ど、どうかしましたか優馬様? この現状は一体……!?」


橘さんは目の前の状況が読み込むことができず、慌てていた。


そんな橘さんを見るの珍しかった。


俺は今までの出来事を手短に説明した。

説明している間も二人は泣きじゃくり、大変であった。


「優馬様、なかなか酷いことを仰いますわね……」


橘さんは俺をジト目で見つめる。


あ、橘さんはそっちの味方なんだ……


その後、俺は二人が泣き止むまで必死に慰めるのであった。

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