白峰望は脳筋アイドル?
「どうして急に告白を?」
アイドルに告白された嬉しさよりも驚きの方が強かった。
「えっ!? なんて!? 距離が遠いから全然聞こえない!」
白峰はマイクを持ってるため、彼女の声は体育館中に響き渡る。
というか声を張り上げてるせいか、めちゃくちゃうるさい。
「だから! なんで急に俺に告白なんかしたのー!? 初対面だよね!?」
俺は白峰にそう叫ぶ。
「待って! まだよく聞こえないから、今からそっちに行くね!」
白峰はステージから降りて、俺の立っている体育館の奥まで向かってくる。
そして、俺の目の前に来た。
近くで白峰のことを見る。
黒髪ロングでサラサラの髪をしており、キリッとした顔立ちをしている美少女である。
身長は平均くらいだが、全体的に細身なのでスタイルがいい。
白峰は俺の前に立つと、マイクを握っていない方の手を胸に添えて息を整える。
体育館の端から端まで走って来たのだ、息が切れるのも仕方がない。
「はぁ、はぁ。お待たせ、優馬君! それで告白の返事聞かせてくれる?」
白峰は息を整えると、キリッとした表情で俺を見る。
いや、よく見ると平然とした態度をとっているが、頬は赤くなり手足は震えている。
明らかに彼女は緊張していた。
「えっと……俺たちって初対面だよね……?」
「うーん、 こうやって話すのは初めてだけど、初対面と言うとちょっと違うかな? 私は優馬君のことそこそこ前から知ってたし、この学園に来た目的も優馬君の花嫁になりたいからだよ」
白峰はニコニコと笑顔で話す。
「アイドルって、恋愛禁止とかじゃないの?」
「うーん、別にそんな決まりとか無いかな? 仮にあったとしても関係ないかな? 優馬君と付き合えるなら私、アイドル辞めちゃうもん!」
白峰は屈託のない笑顔で、アイドルを辞めると宣言する。
凄い破壊力だこれがアイドルスマイルか……言ってることはアイドルとしてあるまじき事だけど……
「いやいや、辞めちゃ勿体ないでしょ! 歌もダンスも凄く上手なんだから」
「私は優馬君を諦める方が嫌だから……って! なんか告白の返事をはぐらかそうとしてない? ダーメ! ちゃんと答えて! ちなみに返事は『はい』もしくは『YES』のどちらかで答えてね!」
笑顔で圧をかけてくる白峰。
「いやそれどっちも同じ意味だから!」
「もう、優馬君は細かいんだから!」
「逃げ道ないじゃん! 付き合うこと確定してんじゃん!」
「うん、そうだよ! 別に振られても、付き合ってもらえるまで告白するから私と付き合う未来からは逃れられないよ!」
「それ、告白って言うの? 告白というより脅迫だよ!」
「うーん、じゃあ付き合うのは確定してるから……結婚して!」
「結婚!? そんな簡単に言わないでよ……」
確かに俺は60人の花嫁を作らないといけないけど……話が急すぎて判断できなかった。
白峰はめちゃくちゃ可愛いよ。それにアイドル活動しているくらいだから、やはりオーラというものを感じる。
現に俺は彼女の歌っている姿を見て、心を奪われてしまった。
それに彼女に告白されて嬉しいと感じている自分がいる。
「別に、簡単じゃないよ? 私も最初は一目惚れだったし……でも、優馬君のことをもっと知りたくていっぱい調べたんだよ! いっぱい調べて優馬君と結婚したいと思ったの! 私の生きがいだったアイドル活動を辞めていいと思えるくらい好きなの! それにね……この特区にいるみんな、優馬君となら結婚したいって思ってるから……積極的にいかないと優馬君を取られちゃう……だって60人しか選ばれ無いんだよ! 6万人のライバルがいるのに……手段なんて選んでられないよ!」
「そ、そうなんだ……」
白峰の必死な説得に頷くしかなかった。
「分かったなら返事して欲しいな……優馬君♡」
そして白峰は俺に返事を迫った。
「あー、うーん。えっと……まずは友達からじゃダメかな?」
恋愛初心者の俺は、情けない事に告白を受け入れることができなかった。
「……ダメです! 花嫁か妻からのスタートじゃ無いと許しません!」
もっと泣いたり、悲しんだりする反応をするかと思ったが、白峰のメンタルは鋼だった。
俺のそんな情けない返事を白峰は許さない。
「いやいや、友達からでもいいじゃん! せめてもう少し仲良くなったらにしようよ!」
「絶対にイヤ! そんな悠長な事言ってられないの! それとも……優馬君は私の事嫌いなの?……」
白峰はうるうるとした瞳で、こちらを見つめる。その瞳には涙が溜まっていた。
こういう時の女の涙は卑怯だろ!
その涙を見て、俺の心は揺らいでいた。
白峰は可愛いし……それに性格もとても明るくて一緒にいて楽しそうだ。
今のところ、彼女を振る理由が全く見当たらない。
まぁそもそも、美少女に告白されて、嫌な気持ちになる男はいないだろう……
こっちの世界の男の常識は知らんけど。
「嫌いではない! むしろめちゃくちゃ好印象だよ!」
「本当に! やったー! 嬉しいよ優馬君!」
そう言って、嬉しそうな表情を浮かべる白峰。
そして俺は勢いよく彼女に抱きつかれる。
「ぐはぁ!」
当たりどころが少し悪く、肺ダメージを負った。
しかしそんなダメージを忘れされるような柔らかい感触と甘い香りが漂ってきた。
白峰の髪が頬に触れてくすぐったい。
めっちゃいい匂いするし、なんか気持ちいい。
やばい、めちゃくちゃドキドキして来た……このままじゃ心臓が持たん!!
俺は抱きつかれたまま硬直していた。
「もう、可愛いな優馬君は♡」
そう言って白峰はさらにぎゅっときつく締め、頭をスリスリしながら俺を抱きしめる。
「うっ……ちょっと白峰? 強く抱きしめすぎかな? 少し力を緩めてくれなか……」
俺は絞り出すよな声をあげる。
「……私ね、嬉しいんだ……だって初めて告白したんだもん! 緊張したけど、それ以上に今は嬉しくてドキドキしてふわふわしてるの! だって優馬君と結婚できるんだもん!」
「待って! 俺の話を聞かないだけじゃなく、曲解しないでくれない!? 俺、好印象って言っただけだよね!? それと、どんどんキツく締めるのはなぜ!? ……っぐ!」
白峰はさらに強く、俺を抱きしめてくる。
その力は常人のものではない……まるで万力に徐々に締め付けられるような感覚だ。
これが女の子の力なのか!?
俺は必死にもがくが、全くビクともしなかった……これは絶対に人間の力じゃない!
こんなに好きな人を苦しめてるのに、笑顔とか白峰はサイコパスなのか!?
「もう、優馬君ったら照れちゃって、本当に可愛いな」
全然俺の話聞いてねぇ!……このアマ絶対に許さん!!
「ちょっと、白峰? そろそろマジで離せ! 頼む、離して!」
「本当に優馬君は照れ屋さんなんだから、こんな可愛い一面もあるんだね。なんか得した気分だなー」
白峰は笑顔だ。
……こいつわざとやってやがるな!!
そう確信した、白峰は俺が結婚すると言うまで締め上げる気だ!
なんていう脳筋プロポーズだ!
「白峰……俺が悪かったマジで離してくれ……」
「えー、どうしよっかなー?」
白峰は意地悪な表情をする。
「マジで痛いの! 本当に離して……死んじゃうから!」
「……そっか、痛いんだ……分かったよ。でもそれは優馬君が悪いんだよ? 私の告白兼プロポーズを断ろうとするから……離したら私と結婚してくれる?」
「はい、はい! するから離してくれ!」
俺はもう一刻の猶予も無いため、即答するしかなかった。
「やったー!! じゃあ約束だよ? 結婚だからね! もう取り消しは無しだよ?」
「分かったから!」
俺はコクリと頷く。
白峰は満面な笑みを浮かべた。
そしてーー
「うん、よろしい!」
そう言ってようやく離してくれた。
俺は解放されると、その場で崩れ落ちる。
「ごめんね優馬君! ちょっとやりすぎちゃった……いっぱいナデナデしてあげるね♡」
白峰は申し訳なさそうな表情で謝る。
いや、謝るくらいなら最初からしないで欲しかった……それに本当に死ぬかと思ったし……飴と鞭の落差が激し過ぎてPTSDになるところだったわ!
「はぁ! はぁ! 死ぬかと思ったよ……」
「もう、優馬君ったら大袈裟だな〜でも、そんな所も可愛いし大好きだよ! ダーリン!」
そう言って白峰は再び俺のことを抱きしめようとしてきた。
「ヒィ! ちょっ!? やめっ!?」
「あははは、流石にもうしないって! でも……私と結婚するって約束ちゃんと守ってよね。じゃないと……また抱きしめちゃうから♡」
白峰は笑顔だったが、目に光はなく、背筋が凍るほどの恐怖を感じた。
「は、はいぃ!」
俺は、白峰の怖さに押され、返事をしてしまう。なんか俺って尻に敷かれるタイプなんだな……
「うん! ちゃんと言質とれたし、よしとしようかな? 今日は指輪は持って来てないみたいだから、指輪は明日までにはちゃんと頂戴ね! マイダーリン♡」
「はい……分かりました。マイハニー……」
こうして俺の1人目の花嫁は、トップアイドルの白峰望に決まったのだった。
残りの花嫁『59人』
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