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登校日

「橘さん、これは一体何ですか?」


このタワーマンションに引っ越してきて、数日が過ぎた。


俺は橘さんから渡されたタブレットを見て、思わずそう尋ねてしまう。


そこに書かれていたのは、女性のスリーサイズや年齢、生年月日、氏名、血液型、身長に体重などありとあらゆる個人情報だった。


そして一緒に顔写真も表示されている。


「それは花嫁フォルダです。この特区に住む全ての女性のデータがそこに表示されます。是非、花嫁選びの参考にしてください」


俺がタブレットに映し出されている女性の写真をタッチすると、その女性の更に詳細な情報表示された。


ーーーーーーーーーー


名前:白峰 望 才能:『アイドル』


年齢:17歳 誕生日:4月14日

血液型:O型 身長:165cm

体重:45kg スリーサイズ:B89/W63/H89

好きな食べ物 : 牛乳 嫌いな食べ物 : コーラ

得意科目 : 英語 趣味:ダンスと歌うこと

交際経験: 無し、処女


性格:アイドルではあるが意外と内向的な部分もある。一度心を許すとかなり甘えん坊になる傾向がある。今まで男性経験はなしだが、ネットで情報収集したり、恋愛小説を読んで妄想を膨らませたりしては自己嫌悪に陥ることが多い。自信家ではあるが、それは本来の性格である寂しがり屋の自分を隠すため。


優馬様への好感度 : MAX

ヤンデレ指数 : 95 ストーカータイプ


〈桜井メモ :盗撮、盗聴などの行為を繰り返し行い、優馬様の生活を24時間365日監視しています。アイドルではあるが、処女ということは全て妄想で補っているようです。彼女にするとちょっと厄介なタイプかも! しかし、負けず嫌いで努力家の一面もあるので花嫁になったら家事や育児を完璧にこなすしっかり者になる可能性大!〉


ーーーーーーーーーー


えっ、なにこれ……個人情報まで載ってるんだけど?

しかも盗撮とか盗聴とかヤンデレ指数とかストーカータイプって不穏すぎるだろ……


そしてスリーサイズや身長、体重などのデリケートな情報も掲載されているのだがこれってどこまで正確なんだろうか。


あと処女かどうかとかも載せる必要あるの?


桜井メモと書かれていることから、この情報を集めたのは恐らく桜井さんなんだろうけど……


って、あの人はいったい何をやっているんだ……というか桜井さん、これどうやって集めたんだよ……


「優馬様、もしかして気に入りませんでしたか? もっと詳細なデータが欲しいと、おっしゃるのでしたらもう一度桜井に調査を命じますが……」


俺がタブレットを見て固まっていると、橘さんは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「いえ……別に問題は無いですけど……知らない人の個人情報をこうも簡単に閲覧できることに驚いてしまいまして……」


「この特区に住む女性には、個人情報を全て私達に提供することが義務化されています。そのため女性の方々は、優馬様に全てを知られることを覚悟しています。ですので、何も心配なさらず花嫁ファイルを活用してください。そして、花嫁選びに全力を尽くしてください」


橘さんは真剣な眼差しで、俺のことを見つめてそう言った。


「はぁ……」


なんだか丸め込まれたような気がするが……まぁ、別に問題は無いし良しとするか……


そんな風に考えていると、雪奈がリビングへと入ってきた。

雪奈は俺を見つけると、嬉しそうな表情で俺に近づいてきた。


「お兄様、おはようございます! 今日は待ちに待った登校日ですね! お兄様と一緒に学園に行けるのがとても嬉しいです! 早く学校に行きましょう!」


「おはよう、雪奈。ああ、俺も楽しみだよ」


俺が答えると、雪奈は嬉しそうに俺に抱き着いてきた。


そしてそのまま俺の唇にキスをしてきた……


「ぷはぁ……私はお兄様が花嫁を選ぶをまだ納得したわけではありません。ですが、毎朝私にキスをしてくれるのであれば、少しくらいは目を瞑ります ……」


雪奈は頬を少し膨らませ、モゴモゴとそう言った。

そんな可愛らしい妹を見て、俺は優しく頭を撫でるのだった。


「分かってるよ。それに花嫁は60人もつくらないといけないけど、妹は雪奈一人なんだ。俺は雪奈のこと大切にするって決めたから、心配しないでくれ」


俺がそう言うと、雪奈はパァッと表情を緩める。


「ありがとうございます!  お兄様、大好きです! さぁ、そうと決まれば早く学校に行きましょう!」


雪奈は俺に抱き着いていた手を離すと、俺の腕を引いて玄関に向かった。


「分かったから引っ張らないでくれ」


俺は雪奈に連れられるままに、部屋の外に出た。


橘さんと桜井さんは慌てて、俺たちの後を追うのであった。


******

***


ビルの外では、リムジンが待機しており運転手さんらしき人が車の扉を開けて待っていた。


そして車に乗り込むと、俺たちは学園に向かったのだった。


車が発進してから、少し経つと桜井さんが口を開いた。


「優馬様、学園に到着してもどうか慌て無いでくださいませ。学園には優馬様のファンクラブが存在するので、彼女たちが門で待ち構えています」


「桜井さん、ファンクラブって何ですか?」


「優馬様の熱狂的なファンの方々です。彼女達は恋愛に対して非常に積極的なので、優馬様に近づくために色々と画策しているようです。ですので、慌てずに真っ直ぐ教室に向かいます。優馬様のクラスは1-Aなので、私が案内します」


「はぁ……分かりました。ありがとうございます」


俺のファンクラブか……そんなものが存在していたのか……ファンクラブとか、漫画だけの話だと思っていたけど実際にあるものなんだな……俺はそんなことを考えながら、窓の外を眺める。


すると、学園が見えてきたのだった。


リムジンが校門前に停車する。


するとーーー


「「「「「「きゃああああああああ」」」」」」


リムジンがいつの間にか女子生徒で埋め尽くされていた。

彼女達の口から黄色い歓声が上がる。


そして、窓越しに俺と目が合うと、彼女達からさらに大きな歓声があがる。


うわぁ、めっちゃ見られてる……リムジンを降りるのが恥ずかしいんだけど……

いや、そもそもこの状況で降りれるのか?


リムジンを降りると、女子生徒達が俺に群がってくるんじゃないのか?

そんな風に俺が悩んでいると、桜井さんが先に降りた。


そして、桜井さんは群がる女子生徒を鋭い眼光で睨みつけ、両手を広げて身体全体で押しのける。


すると、女子生徒達がモーゼの奇跡のように道を開けてきた。


「優馬様、今がチャンスです! 車から降りますよ!」


「あ、はい!」


橘さんの声を聞き、俺はリムジンから降りる。

すると、周りから歓声が湧き上がった。


「「「「「「きゃあああああ、かっこいいい! 抱いてぇぇぇ!」」」」」」


リムジンを降りると、橘さんは俺の腕を引いて女子生徒の群れの中に突っ込んでいった。


そして、彼女達から逃げるように学園の中へと向かうのだった。


しかし、校舎の中に入っても女子生徒が待ち構えていた。


「お帰りなさいませ、優馬様!」「あっ! 優馬様だぁ」「きゃああ、優馬様、大好き!!」「私、優馬様に見つめられちゃった! きゃあああ!」


女子生徒達は俺を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってくる。


そんな彼女達から逃げるように俺たちは廊下を走った。そして校舎の1階にある階段まで走り抜ける。


「すみません、優馬様。この人数は想定外でした。まさか、こんなになるまで増えているとは……申し訳ありません」


橘さんは頭を下げると、階段の前の廊下で息を整えて謝ってきた。

俺も必死に走っていたので、息も絶え絶えである。


「いえ、気にしないでください。ただ、こんなに人気があるなんて思っていなくて……」


「どうやら、中等部の生徒もこちらに来ているようです。教室に着けば少し落ちつくと思うのですが……」


そんな風に少し休憩していると、ファンクラブの集団に見つかってしまった。


「お兄様! 私が盾になりますので、先にお逃げください!」


「ダメだ雪奈! 危険過ぎる!」


「大丈夫です。私はお兄様のためならなんでもできるんです……ですから行ってください!」


「妹を置いていく、兄がどこにいるんだ! 雪奈が残るなら俺も残るぞ!」


「お兄様は優しいんですね……でも、ダメです。お兄様は私が守ります!」


「雪奈!」


「次、また会えたら愛してるって言ってくださいね……」


「っく……分かった。約束だ、だから絶対に無事に帰ってこいよ!」


「はい、お兄様もお気をつけて!」


俺は雪奈に別れを告げると、廊下を走った。

……ふと気がつくと橘さんがいないことに気がつく。


しまった、橘さんを置いてきてしまった……俺は慌てて引き返す。


すると、廊下の奥で女子生徒達に囲まれている橘さんと雪奈を見つけた。


どうやら橘さんは俺を逃がすため、そして雪奈を守るために自分の身を犠牲にしてくれたようだ。


「……ありがとう」


橘さんのおかげで、女子生徒達を撒くことができた俺は急いで教室へと向かうのだった……


しかし、俺は重大なミスをしている事に今気がついた。


あれ? 1ーAってどこだ?


******

***


1-Aを探すこと数分……

俺はすっかり迷子になってしまった。

別に俺は方向音痴というわけでは無い。ただ、この学園が広すぎるのだ。


「はぁ、どうしよう……」


俺は廊下に座ってため息を吐く。


そろそろ時間的に授業が始まりそうだ……しかし、自分がどこにいるのかも分からずどうすることも出来なかった。


そんな風に悩んでいると、どこからか歌声が聞こえてきた。


俺はその歌に導かれるように、声のする方へと近づく。


なんだろう、この歌声を聴いていると心が落ち着く。


そして、俺がたどり着いた場所はどうやら体育館だった。


俺は閉まっていた扉を開けた。


「……っえ?」


そこにはたった一人の少女が立っていた。


少女は俺に気づくことなく、歌い続ける……それはとても美しい歌声で、聞く者を魅了してしまうような心地の良い歌声だった。


俺は彼女の歌声に心を奪われた。


俺は恋する乙女のように、じっと少女を見つめ続ける。

そして、彼女を見つめる度に心が満たされていく感覚を覚えた……


身に纏っているのは学園指定の制服なのに、彼女が着るとそれはアイドルの衣装になる。


黒く長い髪は、彼女が動くたびに美しくたなびく。


細いく白い腕は、とてもしなやかで触れたら壊れてしまいそうなほど繊細だった。

そして、彼女の瞳はどこまでも透き通っていて吸い込まれそうだ……

そんな感想が頭の中を駆け巡る。


彼女から目が離せない……いつまでもこのまま見ていたいと思ってしまうほどだった。


そうして見つめている俺はある事に気がついた。


いま体育館で歌っているアイドルが、花嫁ファイルに載っていた『白峰望』という事に……


俺は彼女の歌声に魅了され、彼女が歌い終わるまで一瞬たりとも目を離せなかった……そして、彼女のライブがついに終わる。


すると彼女はこちらに気づいたようで、こちらに視線を向けた。


一瞬目を見開き驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑顔になる。


そして、トップアイドルである白峰望は衝撃的な一言を口にするのだった。

それは、まさに晴天の霹靂であった……


「大好きだよ! 如月優馬君!!!!」


俺はトップアイドルに恋に落ちて、告白されたのだった。




残りの花嫁『60人』

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