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花嫁ファイル1 トップアイドル『白峰望』

第二章『学園編』のスタートです。

私、白峰望はアイドルだ。誰よりも輝き、誰よりも可愛い存在。

歌うのは小さい頃好きだった、踊るだって大好き。だから、私にとってアイドルとは天職であり生きがいだった。

みんなが友達と遊んでいる時は、私はレッスンで汗を流していてた。おおよそ友達と言える存在は一人もいない。

だけどそんな自分を、私は寂しいとは思わなかった。だって、ステージに立てば何千人、何万人っていう私のファンがいるんだもん。

ファンがいれば友達なんて全く私には必要なんかなかった。これは強がりではなく、事実だった。実際に私は生まれてから16年間、友達がいなくても楽しく生きていくことが出来ているのだから。

友達一人いない私だから、恋人なんているわけもないし恋をしたことすらなかった。恋や友情、すべて捨て私はアイドルを選んだのだ。

アイドルよりも熱中出来るものなんてこの世には存在しない!私は一生アイドルとして生きていくんだ!

……そう思っていた時期が私にもありました。

私のそんな意志は彼に出会って粉々にされてしまった。

一目見て私は恋をしたのだ。

彼のすべてを手に入れたい、彼の隣に立ちたい。彼だけのアイドルになることさえ出来れば、他に何もいらない!

彼に恋をした日から私の生活は彼を中心に周り始めた。

え? レッスンやライブはどうしたって? そんなの知らないし、興味ないわ!

え? ファンを見捨てるのかって? ファン100億人と彼を天秤に掛けても圧倒的に彼に傾くわ!

私は彼と結婚するために生まれてきたのだと、確信していた。

だってそうでしょ、世界的なトップアイドルの私クラスじゃないと、彼にはつり合わないはずだ。

いや、トップアイドルの私でさえもつり合いがとれるか怪しいほどだ……

もう私の目には彼しか映っていなかったのだ。


だから私はマイクを手放し、アイドルを引退した。

そしてまず私は、彼の全てを理解しようと盗聴器、発信機、小型カメラに望遠鏡カメラ……ありとあらゆる秘密道具をネットで購入した。

一つ一つは大した値段ではないが、数多く買ったため結構な額になった。

でも幸いに、アイドル時代に稼いだお金は腐るほど手元にあった。そのため、私にとっては雀の涙ほどの出費だった。

しかし、問題はここから起こる。何度、彼に盗聴器や発信機を仕掛けても鬱陶しい彼の妹によって処分されてしまうのだ。

おかげで成果といえるものは彼の写真くらいしかない……

あああああ! 写真の中から彼が出てきてくれないかな……この顔にキスしたいよぉ……私はお気に入りの一枚を手に取り、彼の顔に目掛けて唇を近づける。

ちゅっ♡

全身が熱くなる感覚に襲われる。上手く呼吸が出来ない。

心臓がバクバクと高鳴り、圧倒的な多幸感が襲って来る。

写真にキスするだけ、こんなに気持ち良くなれるのなら一体生身の彼にキスをしたらどれほど幸せになれるのだろうか……

考えるだけで顔が赤くなってしまい、布団の中で見悶えてしまう。

恋というものが、こんなにも自分自身を制御出来なくさせるとは思わなかった。

世界中のほとんどが私に夢中だというのに、なぜ彼は私に夢中になってくれないのだろ……

それが悔しくて悔しくて仕方がなかった。


どうすれば彼は私に振り向いてくれるのか、私は毎日のように考え続けた。


でも、良い案は浮かぶことは一度もなく、気が付けば彼をストーキングすることが日課になり始めていた。


私は彼をストーキングすることで彼の情報を収集し続けた……その結果、私はとんでもない場面に出くわしてしまった。


それは、いつも通り登校中の彼を追っていた時だった。


彼が、帽子を深く被った人と一緒に歩いていたのだ。

私は思わず、電柱の影に隠れて二人の様子を伺うことにした。


会話の内容は一切聞こえてこないが、二人は凄く楽しそうに会話をしている。


何よ……あんなにデレデレした顔しちゃって……もしかして彼女じゃないでしょうね?


彼と一緒に歩いているのは、身長が高い人物だった。


明らかに彼よりも背が高いことから、恐らく年上であることは間違いなかった。


彼が帽子をかぶっている人物に笑いかけると、相手も同じように笑い返す……私と話している時には見せたことのない表情だった。


まぁ……よくよく考えてみれば私が彼と会話出来たことなんて一度も無いんだけど

ね……


私の握手会とかに来てくれたら、沢山お話しして、いっぱいサービスだってしてあげるのに……


どうしたら彼は私を見てくれるの?


もう私にはどうして良いのか分からなくなっていた。


そんな時、帽子を被っている人物が何かを手渡していた。


いや、手渡しているのでは無い。彼に向けているのだ……


「うそ……」


私は思わず声を出してしまう。

彼に向けられているのはなんと拳銃だったのだ……治安の良い日本でたまたま道端で拳銃をちらつかせる人なんているはずない。


じゃあつまり……帽子を被った人物は彼を殺すためにわざわざこんな所までやって来たというの?


私の心臓は、危険を察知する動物みたいに激しく鼓動していた。

彼を助けるために、私はあの場に飛び出して行くべきなのか……でも私が出て行ったところで状況が好転するわけが無い。


私はどうしたら良いか分からないまま、固まってしまい動きことが出来なかった……


帽子を被った人物が銃口を彼に向けると、彼は両手を頭の後ろにやりその場に膝をつく……そして二人は何かを話しているようだったが私には聞こえなかった。


彼が殺される……それだけは嫌だ、そんなの絶対に許さない!

私が二人の前に姿を見せる勇気を振り絞っていると、彼は拳銃を地面に向ける。


そして……引き金を引いたのだ!


放たれた弾丸は、大きな音を立てて地面にめり込む……その威力は凄まじくアスファルトが抉れていた、もし彼が帽子の人物に反撃していたら銃弾が当たっていたかもしれない……


死の恐怖が再び私を包み込む、私は足が崩れるように地面に座り込んでいた。

その弾痕は、まるで私の心にもぽっかりと空いた穴のようだった……


もう、私は彼を助けることが出来ない……

彼を助けることが出来るのは自分だけだと思っていたのに、私は何も出来ないのだ。


私は自分の初恋を自分で終わらせてしまったのだ……こんなに恋焦がれた彼を命を張って守ることすら出来ないのだ。


自分の命よりも大切で大好きだと思っていたのに、実際はそんな状況に陥ると何も出来ないのだ。


これは自分で自分の恋を否定したの同じだ……

私は失恋したのだ……


そう思うと私の目からは涙が溢れていた……


そして帽子の人物は彼を車に乗せて、無理やり連れ去ってしまった。


私はそれを黙って見ていることしか出来なかった……失恋の痛みで、動くことが出来なかったのだ。


それから私は、放心状態のまま警察に連絡することもなく、ただただ自分の家へと一人帰って行った。


私はもう死のうと思った。


こんな自分なんて生きていても仕方がない……彼と一緒になれない人生なんて、生きてる価値がないのだ……


私は彼をストーキングするために買ったロープを自分の首に巻きつけると、その輪に頭を通し、椅子の上に立って上を向く。


これで死ぬ準備は整った。


最後にこの写真の中に写っている彼にお別れのキスをしてから死のう。

私は、写真の彼と最後のキスを交わす……


ちゅっ……ああ、これが私のラストキスなんだぁ……まぁ仕方ないか、初恋は叶わないとも言うしね……


そう思った時だった、盗聴用のイヤホンから彼の妹の声が聞こえた。

私は、慌ててそのイヤホンを耳に入れる。


そこで私は思い出したのだった、盗聴器を全て処分された腹いせに一つだけ盗聴器を彼の妹のカバンに設置したのだ。


それ運良く見つからず、こうして盗聴をすることが出来ていたのだ。


だけど、彼と妹は仲が悪く滅多に有益な情報や会話は聞けないのだが、今日だけは違った。


彼の妹はすごく慌てた様子で、誰かと会話をしているようだった。


その相手は医者らしかった……私は彼の妹からの情報を聞き漏らさないよう、イヤホンを耳に深く押し込む。


どうやら彼は生きているらしく、今は病院で入院しているとのことだった。


私は、彼の無事を知ると安心したからか全身の力が抜けて地面に座り込んでしまう……


ああ……良かったぁ彼は生きていたんだ。


今度は目から涙が溢れる。


私は彼が生きていることに心底安心していた……


そして私は、この時に決意した、今までの私は死んだんだ!


今日からは、新しい自分として生きていくんだ!


私はもっともっと努力して彼に振り向いてもらえる存在になるんだ!


そう思った私は、今までに無いような活力が湧いてきていた。


こうして私は再びマイクを握ったのだった。


そして今日、私の初恋から一ヶ月が経った日……私は決意を新たにステージに立っていや。


いや、ステージと言っても学園の体育館にあるステージだった。


観客は誰もいない。


だけど、私にはこの時、この場所で歌うことに意味があるのだ。

そしてーー私は、歌い始める。


失恋しても私が彼を好きだということは変わらないし、私が変わることもない……

だからこれからもずっと好きでいさせて欲しい……


そんな気持ちを込めながら歌うと、私の心が満たされていく気がしたのだった。


そして曲を歌い終えた前を見る、すると歌い始める前は閉まっていた体育館の扉が開いていた。


その奥には、私の初恋の彼が立っていたのだ。

ああ、やっと彼に会えた……


私はこの時のためにこの一ヶ月頑張って来たのだ……

そう思うと自然に笑みがこぼれる。


「大好きだよ! 如月優馬君!!!!」


私は力いっぱいに彼の名前を叫ぶのだった。



残りの花嫁『60人』

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