6万人のヤンデレと花嫁序列システム①
一悶着あったが、俺はようやく自分が暮らす部屋に入ることが出来た。
やはりと言うか、その部屋は贅の限りを尽くした豪華絢爛の空間が広がっていた。
まず目に飛び込んできたのは、一面を覆う大きな窓だ。
その窓の向こう側には、広がる美しい街並みが広がっていた。
そして次に、豪華な内装。
大画面のテレビ、高級ソファー、ベッドは天蓋付きだった。
床にはふかふかのカーペットが敷かれていて、部屋の至る所に高そうな美術品が置かれていた。
そして最後に、壁にかけられている額縁に入った一枚の絵。
そこには、一人の女性が描かれていた。
透き通るような白い肌、腰まで伸びた長い黒髪、切れ長の目に通った鼻筋、薄い唇。
絵の中の女性は、とても美しくとても妖艶な雰囲気を放っていた。
……あれ?
この女性、どこかで見たことがあるような……俺は、記憶を辿る。
だが、思い出せない。
一体どこで会ったんだっけな……
まあ、いいか……俺は考えるのをやめた。
「どうぞお寛ぎくださいませ。ここは優馬様のお部屋です。何かご用の際は一言、『美沙』とお声掛けください。すぐに駆けつけますから」
美沙は、深々と頭を下げた。
「分かった、ありがとう。頼りにしてるよ」
俺は笑顔で答える。
そんな俺を見て、美沙は頬を赤く染めながらウットリと俺を見つめてくるのだった。
「『頼りにしてるよ』なんて勿体なきお言葉ありがとうございます。では、早速お風呂の準備を致しますね。お食事もいつでも用意できるように手配をしておきましょう。それと、お飲み物は何になさいますか?」
「えっと……じゃあ紅茶をお願いしようかな……」
「かしこまりました。今すぐお持ちします」
そう言って、美沙は部屋を出て行った。
そして俺は豪華なソファに座り、少し休憩をしていた。
すると、橘さんが俺の前にある巨大なモニターの電気をつけた。
「優馬様、お疲れのところ申し訳ございませんが、今後のことで少しお話よろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫だけど……」
「ありがとございます。では、優馬様。まずは、こちらの映像を見ていただけますか?」
そう言うと橘さんは、モニターを指差した。
そのモニターには俺の新しい住居となるビルの全体像が映し出されている。
橘さんが話始める前に、お盆の上にティーセットを乗せた美沙が戻ってきた。
そして美しい所作で俺のテーブルの前にカップを置き、後方に控えた。
流石はメイドさん……全ての行動に無駄が無く完璧で綺麗だ……タイミングもバッチリだし……
俺は紅茶を一口飲み、橘さんの話に耳に傾ける。
「こちらは、優馬様の居住スペースとなりますタワーマンションです。地上120階地下10階の超高層建築となっています。セキュリティーも万全で、あらゆるところに監視カメラが設置されています。また、24時間体制で警備員が巡回していますので安心してください」
「へぇ〜凄いなぁ〜こんな立派な建物を用意してくれるとは思わなかったよ」
「はい、優馬様に快適に過ごしてもらうために、私が直々に選び抜いた最高の場所となっております。お気に召していただけて良かったです」
俺は改めて、モニターに映る超高層ビルを見る。
なんか、ここまで大きいと圧倒されてしまうな……
俺は、少し落ち着かない様子で再び紅茶を口に含んでホッと一息つく。
「ではこのビル内の説明ですが、エレベーターに乗って最上階に上がるとフロア全体が優馬様の部屋です。もちろん、お一人だけのプライベート空間です。60階〜120階が同様の居住スペースとなっています。地下のスペースは主に使用人の部屋となっております。そして1階から59階は、娯楽施設です。カラオケやシアタールーム、ゲームセンター、プール、温泉、スポーツ会場、美術館、アトリエ、トレーニングジムなど、様々な設備が揃っております」
「へ〜それは楽しみだな。でも、やっぱり贅沢すぎないか? 俺一人が暮らすのに60階以上全てを居住スペースにするなんて勿体無いと思うし……俺、本当にこんな所に住んでいいの?」
いくらなんでも、広すぎる気がする……
これだけの高級ホテルのような場所に、ただの高校生である自分が住んでいるというのが、なんだか場違い感があって落ち着きそうもないな……
俺は、苦笑いを浮かべながら言った。
「はい、問題ありません。むしろ、これくらいの環境でなければ、優馬様のお世話をする者として恥ずかしく思います。それに、この程度の広さであれば、私達使用人全員の住居としても余裕を持って生活できますので」
「そ、そうなんだ……てっきり、俺一人で住むのかと思ってたよ」
まぁ確かに使用人もすごい数だったし、その全員が住むと考えると広い方が色々と便利そうだけど……使用人の部屋は地下って言ってたよな……なんか格差みたいのを感じて少し嫌だな……
「申し訳ございません。優馬様のプライド空間には限られた者しか入ることが許されていないのです。もちろん、その者達は、全て私の厳選した優秀な人材のみで構成されています。ですので、優馬様の生活の邪魔は絶対にしないと約束致します」
「い、いや……そうじゃ無くて……」
「……? 申し訳ございません。では、他に何か気になることがございますか?」
橘さんは不思議そうな顔して首を傾げている。
どうも話が噛み合っていないようだ。
「えっと……その……俺は、橘さんとかももっといい空間。つまり俺の下の階とかに住めばいいんじゃないかなって思ってたんだけど……ほら、俺は120階を自由に使えるだけでも十分過ぎるし、他の階を余らしちゃうのは勿体かと思って……」
俺は、なんとか自分の考えを伝えようと言葉を紡ぐ。
しかし、そんな俺の言葉を聞いた橘さんは、目を見開き驚いた顔をしている。
そして、美沙はなぜか頬を赤く染めていた。
俺、何か変なこと言っちゃったかな?
俺は、橘さんの反応を見て不安になる。
すると橘さんは、突然俺の手を握り締めてきた。
そして俺の目を真っ直ぐに見つめて言うのだった……
「ほ……本当に良いのですか!? 私が119階に住んで!!」
橘さんは、鼻息を荒くして興奮していた。
俺はそんな橘さんの様子に少し気圧されながら答える……
「え……構いませんけど……」
「くっ! くぅぅ〜〜♡ 優馬様! ありがとうございます!! ああ、私の人生に一片の悔いなしです!!」
橘さんはそう言って、涙を流しながら歓喜していた。
そんな様子に俺は困惑してしまう……
そして慌てた様子で、橘さんの後ろに控えていた桜井さんが急に橘さん止めにかかる。
「た、橘さん! 落ち着いてください!」
「離して桜井! もう喜びが止まらないの!!」
桜井さんは、暴れる橘さんを羽交い締めにして必死に抑えていた。
「嬉しいのは分かりますが、優馬様にまだあのことは説明しておりません! ですので優馬様は119階に女性を住まわせる意味を理解していないかと……!」
桜井さんは、橘さんを落ち着かせようと必死に説得していた。
橘さんは桜井さんのその言葉を聞くとビクりと体を震わせた。
「……っえ!? そうだったかしら?」
「ええ、ですので早急説明した方がいいと思います」
そんな二人を見て、俺はある疑問が浮かんだ……?
あのことってなんだ? 119階に住む女性を住まわせる意味って一体……
俺は、橘さんと桜井さんのやり取りを黙って見つめていた。
そんな俺に対して、橘さんは気まずそうに姿勢を正して話し始めた。
「優馬様……取り乱してしまい大変申し訳ございません。先程のお話ですが、実は119階に住む女性を住まわせる事にはある意味があるのです……」
橘さんはそう言って、少し間を空けてから再び話し始めた……
「実はですね、優馬様にはとある使命があるのです」
「使命……ですか?」
俺は、橘さんの言葉に首を傾げる。
一体、俺にどんな使命が……
俺は橘さんの次の言葉を待つ。
すると、橘さんは真剣な表情で口を開いた。
「はい。その使命の内容というのが……最低でも花嫁を60人持つという使命です」
橘さんは、ハッキリとそう言った。
「……はい!?」
俺は一瞬、何を言われたのか分からず思考が停止してしまった……
花嫁を60人持つ? そんな使命が俺に課せられたというのか?
「いやいやいやいや! そんな馬鹿な話があるですか?」
俺は、橘さんの言葉を必死に否定する。
「いいえ、これは真実です。優馬様はこれから最低でも60名の女性と生涯を共にし、子作りに励んでもらわなくてならないです。そのための60階以上は全て居住スペースになっているのです……優馬様の花嫁を住まわせるための……」
橘さんは真剣な表情で俺を見つめる……
「いや! いやいやいや! そんなの無理に決まってるじゃないですか! そもそも、俺はまだ結婚できる年齢じゃないですよ!!」
俺は必死に抗議する。
そんな俺に橘さんは、諭すように話し始める……
「優馬様、これはもう決定事項なのです。既に首相によって通達がされています。そして、ここに女性は全員この使命進んでを受け入れています……なぜなら、それが人類存続のためだからです。それに優馬様のご年齢であれば既に結婚できますよ」
「え!? でも、俺はまだ高校生で……」
「はい。ですのでご結婚できますよ」
そっか! 結婚年齢が18歳以上なのは俺が前にいた世界での話か!
それなら、この世界の法律では俺はもう結婚できる年齢なのか……
でも、だからって急に言われても困るって! でも最低でも60人の花嫁だって!?
嬉しいよな気持ちもあるけど、不安の方が強いよ!!
橘さんの話を聞いた俺の頭は混乱していた。
「優馬様、混乱しているところ申し訳ないのですが、続きお話ししてもよろしいでしょうか?」
「え? あ……分かった……とりあえず、質問とかは全部話を聞いてからにするよ」
「ありがとうございます……60人の花嫁を持つと大変なのは、花嫁同士の嫉妬です。優馬様を巡って、様々な争いが起こると思われます。また、嫉妬以外にも、花嫁同士の対立や殺し合いなどが起きる可能性も十分に考えられます」
橘さんは真剣な表情でそう言った……
「え!? そんな……そんなことが本当に起きるの?」
俺は、橘さんの話を聞いて不安になる。
そんな俺の様子を見て、桜井さんが補足するように言う。
「優馬様、花嫁は全員が優馬様との子作りに積極的です。そのため、優馬様の子種を他の花嫁に渡すくらいならと、他の花嫁の命を絶つことだって考えられます」
「ええ!? そんな物騒な……」
俺は桜井さんの言葉を聞いて身震いする。
橘さんも、桜井さんの言葉に頷いていた。
そして、橘さんは再び真剣な表情で話し始める……
俺はそんな橘さんの表情に息を飲むのだ
った……
「優馬様、女性の嫉妬は恐ろしいものです。特にここに集められた女性は、優馬様のために集められた選りすぐりの女性達です。なので、彼女達が他の花嫁を殺害する可能性は十分に考えられます」
「ちょ、ちょっと待てくれ。俺のために集められってどういうこと?」
俺は橘さんの言葉に疑問を抱く……
「ここと言うのは、優馬様のために作られたこのタワーマンションから約半径4キロの敷地内のことです。ここは特別行政特区に指定されており、優秀な遺伝子を持つ6万人の女性が優馬様の花嫁候補として集められております」
橘さんは淡々とした口調で説明する。
俺は、そんな説明を聞いて頭を抱える……
「え? 優秀な遺伝子? 6万人の花嫁候補だって?」
桜井さんが、そんな俺の反応を見て補足するように言う。
「はい、優馬様。ここにいる花嫁候補は、全て優馬様への好感度が非常に高いく、更に各界隈で優秀な成績を残している天才です。その天才の遺伝子を次世代に自然的な形で紡いでいく、そのためにこの行政特区は作られました」
「え!? じゃあ本当に俺と子作りするために6万人もの女性が集められたってこと?」
「はい。その通りです! ですが……その集められた女性達というのは天才故と言いますか……なんとも癖の強い人たちばかりでして……優馬様への愛情が強くなり過ぎてしまう傾向にあるんです……」
桜井さんは、困った表情で俺に言った。
俺は、そんな桜井さんの言葉に首を傾げるのだった……
そして橘さんが再び話し出す。
「えっと、つまり……こういう言い方が適切か分からないのですが……6万人の女性は全員ヤンデレなんです!」
「……はっ?」
俺は、橘さんの言葉に目が点になる。
え?
ヤンデレって……あのヤンデレだよね?
愛情が強すぎて病んでしまうっていう、あれのことだよな……
そんなヤンデレだらけの場所で最低60人の花嫁を作れだって?
いや、絶対に殺されるでしょ!
「えっと、橘さん……ヤンデレってあれですよね? 愛が強すぎて病んでしまうっていう……」
「はい。そのヤンデレです! しかも優馬様への好感度が高い分、愛情もとても深いのです。優馬様を独り占めしたい、他の花嫁は邪魔だ……そんな思いが花嫁の中に渦巻いてしまうんです!」
「あはは、俺の方が病んじゃいそう……」
俺は、橘さんの言葉を聞いて乾いた笑いしか出なかった。
「はい……でもご安心ください! 優馬様が病まないように私たちは必死考えてある方法を考えました! それが、このタワーマンションにおける花嫁序列システムです!」
「花嫁序列システムですか……?」
「はい、花嫁序列システムとは、花嫁のランクを住む場所によって明確するシステムのことです! つまり、優馬様が住む120階に近い階に住むほど花嫁としてのランク高いと言うことになるんです!
」
橘さんは、自信に満ちた表情で言う。
「へ、へぇ〜つまりどういう事?」
「はい! つまり、優馬様が子作りしたいと思った女性を上の階に住まわせるんです。そうやって明確に優劣をつけることによって、花嫁同士の争いを抑制させるんです!」
「……つまり、上の階に住まわせることで、その花嫁の嫉妬を抑制させるってことですね?」
「その通りです! さすが優馬様、ご理解が早いです! そして、この花嫁序列システムによって花嫁たちの争いを抑制し、優馬様には1人ずつとじっくり子作りに励んでもらうのが目的です! ちなみ、花嫁は他の階に住む花嫁の階に降りることは出来ません! ですので、物理的にも優馬様と他の花嫁の間を邪魔することが出来ないんです」
橘さんは、胸を張ってそう言った。
俺は、橘さんの説明を聞いて納得する。
確かに、その方が争いは起きにくいかもな……
じゃあ、俺の住む120階の次に高いのは、119階だよな……
その119階に、俺は橘さんに住んで欲しいとお願いしたか!!
俺は自分が口にした言葉を思い出し顔を青ざめる……
「あの……橘さん、俺って119階に住んで欲しいって言ったけど……それって……」
俺は恐る恐る、橘さんに聞く。
「はい! 119階は花嫁オブ花嫁! つまり、正妻を住まわせる階です! きゃあーーーー♡」
橘さんは、嬉しいそうに飛び跳ねた。
俺はそんな橘さんを見て、苦笑いをするしかなかったのだった……
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