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目覚め

会社からの帰り道、俺はトラックに轢かれた。

そしてあっけなく死んだのだ。


死因は交通事故による出血多量。

まあ即死だったんだろう。

痛みすら感じなかった。


それにしても俺って結構不幸な人生だったと思う。


親の期待に応えるために友達や彼女も作ることなく必死に勉強して超有名国立大学の医学部に進学して医者になったまではよかったんだけど……


その大学病院がブラック企業も真っ青なほど激務……当然のごとく残業代も出ないし休みもない。


そんなこんなで心身ともにボロボロになりながらも、ようやく仕事に慣れてきたところでこれだよ!


しかも死ぬ間際まで働いていたし!……もう嫌だ……死にたい。


でも死んでるから死ねないんですけどねー!

ちくしょう!!!

………………………………ん? あれ? なんかおかしくないか? なんで死んだはずなのに意識があるんだ?


てかここどこ?


目を開けてみるとそこは、俺の知らない場所だった。


まず目に映ったのは白い天井と蛍光灯。


そして鼻をくすぐる嗅ぎ慣れた消毒液のような匂い……ここは病室だろうか?


どうやら、俺はベットの上に寝ているようだ。


身体を起こして周りを見渡そうとした時、ふいに扉が開いた。


そこに立っていた人物を見て俺は言葉を失った。


……だってそこには、天使がいたんだ。


別に羽が生えてるとか、天使の輪があるとそう言うのではなく、とにかく天使のように可愛いかったのだ。


金髪碧眼の少女が驚いたような顔をしながらこちらを見ていた。


……かわいい。


しかしなぜこの少女は驚いているのだろう? まさか俺が起き上がってるとは思わなかったのかな?


でもそれならもっと驚くはずだよなぁ。


もしかして幽霊だと勘違いされてたりして……


とりあえず何か言わないと失礼かもしれないと思い、声をかけようとしたその時、少女が口を開いた。


「お兄様!」


えっ!? 今なんて言った!? お兄様って聞こえた気がするんだけど……


俺には妹はいないぞ?

いたら絶対に自慢しまくる自信あるし。


じゃあ誰のことなんだ? 俺の妹じゃないとすると……まさか……


俺の脳裏にある可能性が浮かんできた。

俺はトラックに轢かれて死んだはずだ。


そして、目が覚めたら見知らぬ場所にいて、そこで金髪美少女と出会った。


つまりこれはあれですか?

異世界転生的なやつですか!?


やった! 夢にまで見た異世界転生だ!


これで俺にも彼女ができるかも!! って違う違う! そうじゃなくて!!


何がどうなってるかわからない以上、下手なことはしない方がいいはずだ。うん。


取り敢えず今は様子見しよう。


「お兄様!お身体の方は大丈夫ですか!」


再び少女の声が響いた。

やはり、お兄様とは俺のことらしい。


「あのー……」


「ああ、ごめんなさい。私ったらつい嬉しくて!つい抱きついてしまって!」


「いや、いいんだ。大丈夫だよ気にしないで……」


「っえ!?」


天使のような少女は衝撃を受けたように驚いている。


……俺、そんなに驚くような事言ったかな?


「お兄様、私のこと怒らないの? 抱きついちゃったのに?」


悲しげな表情を浮かべながら少女は聞いてきた。


「え!? 抱きついたくらいじゃ怒らないよ?」


「でも……私はいつもお兄様に怒られてばっかだから……きっと嫌われてると思って……それに男性の方は女性と一緒にいるだけですごい嫌悪感が湧くみたいだし……」


えぇ……まじかよ……


もしかしてここ異世界は異世界だけど貞操観念逆転世界に来ちゃったパターンか!?


しかも少女の話から推測するに、男性はみんな女性恐怖症みたいな感じだ。


「いや、そんなことは絶対ないから安心してくれ。それよりもごめん。どうやら俺、記憶喪失みたいでさ、君の名前すら覚えていないんだ。良かったら教えてくれないか?」


俺は申し訳なさそうな顔をして謝りつつ、名前を教えてもらうことにした。


正直このままでは会話すらままならないからね。


「そんな……記憶喪失なんて……嘘……」


少女は信じられないという顔でこちらを見ている。


まあその反応になるのは当然だよね。


「本当なんだ。申し訳ないけど、君のことを教えてくれると助かるんだけど……」


「わかりました……」



ーーーーーーーーーーーーーーーー



俺が目を覚ましてから1週間ほどが経過した。


そして俺はこの一週間で、この世界のことについてだいぶ理解することができた。


まず俺の名前は如月優馬と言うらしい。

目の前にいるのが妹の如月雪奈だ。


どうやら俺は、交通事故で頭を強く打ってしまい、意識不明の重体だったらしい。


母は俺を精子バンクの体外受精で俺と雪奈を出産したが、昨年に病気で亡くなったとのことだった。


この世界は……やはり俺の予想通り、貞操観念が逆転したパラレルワールドのようだ。


男性は全ての女性から性欲の対象として見ているらしく、男性は女性が嫌いで近づくことすら嫌うようだ。


そのせいもあってか、男性の社会進出が進んでおらず男性は基本的にずっと家に引きこもっているのだとか……


さらに、俺の容姿についてだが……自分で言うのは恥ずかしいけどかなりのイケメンだった。


どれくらいイケメンかと言うと、この病院内ですでに俺のファンクラブが出来上がるくらいのイケメンだ。


まぁ、この世界じゃ男性ってだけで女性が全員振り向いてしまうくらい飢えているらしいけど……


完全にオーバースペックイケメンだ。


それに案の定、男性の数も少ないらしい。


男女比は1:1000くらいとのことだ。


ちなみにこの世界での俺の年齢は16歳で、身長は高く、180cmはありそうだ。


つまり、前世で満喫できなかった青春を存分に味わい尽くせる条件は整ってしまったというわけだ。


「なあ、雪奈。怪我は治ってきたけど、俺はいつ退院できるんだ?」


俺は、雪奈に向かって聞いた。

すると雪奈は困ったような顔をして答えた。


「それがですね、お兄様の容態が安定してきたのでそろそろ退院してもいい頃なんですが、お医者さんが言うには、まだ安静が必要だって言っていまして……」


「そうなのか……なら仕方ないな」


「はい……ですが、もうすぐ夏休みなので、それまでには退院出来そうとのことです!」


「そういえば、今って何月なんだ?」


「7月ですよ」


「へぇ〜、そんな時期なんだ」


「はい! 今年は去年より暑い日が多いみたいで、すでに気温が35度を超えている地域もあるようです」


「まじかよ……地球温暖化じゃなくて異常気象だよな」


「ほんとにそう思います」


そんな話をしているうちに時刻は正午になり、昼ご飯の時間になった。


いつものように無駄に露出の多いナース服を着た美人の看護師が昼食を持ってきてくれた。


俺が女性に対してあまり恐怖心を抱かないことを見抜かれたのか、この病院の看護師は俺に積極的にアピールをしてくる。


その都度に、雪奈が鬼ような顔で追い払うのが毎度のこととなっている。


どうやら今日は焼き魚定食のようだ。

相変わらず美味しそうな匂いが漂ってくる。


今日のメニューは白米、味噌汁、鮭の塩焼き、卵焼き、ほうれん草のおひたし、デザートはフルーツゼリーとなっている。


うん、文句なし。


味はもちろんのこと、見た目にもこだわりを感じる。


俺が前世で勤めていた病院ではこんな豪華で美味しい料理は出なかったので、素直に嬉しかった。


「それではお兄様、あーんしてください!」


「毎度のことだけど、もう一人で食べれるからあーんはいいよ……」


俺がそういうと、雪奈が目に涙を浮かべながら悲しそうな顔をした。


うっ……罪悪感が……


雪奈を悲しませるようなことはなるべく避けたい。


でもさすがに恥ずかしすぎるんだよな……


「だめ……ですか?」


「いや……そんなことはないよ……」


雪奈が上目遣いで聞いてきたので、俺はついOKを出してしまった。


「ありがとうございます!」


雪奈は嬉々として箸を手に取り、次々と料理を俺の口元まで運んできた。


そして、俺が口を開けてそれを頬張ると、雪奈は幸せそうな表情を浮かべていた。


それからも俺は雪奈にされるがままに食事をしていた。


雪奈は、毎日欠かすことなく俺の病室に来ては身の回りの世話をしてくれている。


そんな妹を邪険に扱うなんて俺にはできない。


「ごちそうさま。すごくおいしかったよ。いつもありがとね」


俺は笑顔を作り、感謝の言葉を口にする。


「いえ、私が好きでやっていることですから……」


「それでもさ、やっぱり俺は嬉しいんだ。本当に助かってる、ありがとう」


俺は心の底からの気持ちを伝えた。


「はい……///」


雪奈は照れたように俯いた。


ーーー食事も終わり、雪奈も家に帰った。


そして俺は、この一週間ずっと考えてきたある計画を実行しようとしていた。


その計画とは、隣の部屋にいる黒川さんという女の子とお友達になることだった。


雪奈が毎日見舞いに来る中、俺は密かに黒川さんのことについて調べ上げていた。


そしてわかったことがある。


それは、どうやら黒川さんは俺がこの世界で通っている高校の生徒ということだ。


しかも俺と同じクラスらしい。


これは薔薇色の青春を送るための第一歩だと思った。


「よし、行くぞ……!」


俺は決意を固め、ベッドから降りようとした。


しかし、そこで俺の身体に少しではあるが痛みがはしった。


「うぐ……くそ……まだ完治はしてなかったか……」


俺は痛みに耐えながらも立ち上がり、隣にある個室へと向かった。


そして、扉をノックした。


コンコン


「はい、どちら様でしょうか?」


「如月だけど、ちょっと話があるんだ。入ってもいいかな?」


「え!?ちょっ!待ってください!今着替えている最中なので!少しだけ待っていただいてもよろしいですか?」


「ああ、全然構わないけど」


「わわわっわ、わかりました。でっででは、5分ほどお待ち下さい!!!!」


「了解」


5分後……


「失礼するね……」


俺は恐る恐る、黒川さんの病室に入った。


「は、はい……」


そこには、パジャマ姿の美少女がいた。


肩にかかるくらいの黒髪ロングヘアーで、身長は150cmほどだろうか? 顔は小動物のように小さく、目はくりっとしていてとても可愛い。


肌は透き通るように白く、スタイルは小柄だが胸は大きい。


いわゆるロリ巨乳というやつだ。

俺は思わず見惚れてしまっていた。


すると、黒川さんは顔を真っ赤にして目を逸らしてしまった。


しまった! 見過ぎてしまった! 俺が慌てて謝罪しようとする前に、彼女は俺に向かって話しかけた。


「ああああ! あの、それでお話しというのはなんでしょう……」


「あ、そうだよね……」


俺は、緊張しながらも要件を伝えることにした。


「実は、俺。事故で記憶喪失になっちゃって、ほとんど何も覚えてないんだ。そしたら同じ高校に通っていた黒川さんが隣の病室にいることを看護師さんから聞いたんだ……高校での俺ってどんな感じだったかな?」


「えええ!? 記憶喪失って! 大丈夫ですか!? しかも隣部屋に如月君がいたなんて……最高すぎる! あっ! ごめんなさい! いきなり大きな声出しちゃって……」


黒川さんはとても驚いている様子で、途中から興奮して鼻息を荒げていた。


「ううん、気にしないで。それより教えてくれると嬉しいんだけど……」


「はい……。私なんかで良ければいくらでも!」


「ありがとう。じゃあ、まずは自己紹介からお願いできる?」


「はい。私は黒川彩乃と言います。好きな物はチーズケーキと、ききさらららぎぎぎ君で、嫌いな食べ物は特にありません! 趣味は読書で、よろしくお願いします!!!」


いや、初々しい反応が可愛すぎるしチョロすぎるでしょ!


すでに俺のこと大好きじゃん!!


それにしても、好きな物のきさららぎぎぎ君ってなんだよ!?


全く俺が好きなの隠せてないじゃん!

自分で言っちゃってるし!


もうラブコメだったら俺も好きだよって言ったら付き合って終わりの展開だよね!


「よ、よろしくね。俺は如月優馬。好きな食べ物はオムライスと甘い物全般で、嫌いな食べ物はピーマンと辛いものだよ。あと、趣味とかはないかな。これから思い出していくよ」


俺は、黒川さんの反応に戸惑いながらも挨拶をした。


「うわぁ、如月君とお話しできてるなんて夢見たい……もう私死んでもいい」


「いやいや、死んじゃだめでしょ……」


「ふぇっ!? すいません……つい嬉しくて……」


「まあいいか……ところで、黒川さんは俺のことをどう思ってるの?」


「へ?」


「いや、だから俺のことどう思っているのかなって……」


「そ、そんなの決まっていますよ。大好きに決まっているじゃないですか……/// 今にでも襲ってキスして、子作りしたい気持ちを必死に押し殺してる状況ですよ!」


「そっか……ありがとう。俺も黒川さんのことは好きになれると思うよ」


「えっ……それってどういう意味ですか?」


「ん? 言葉通りの意味だけど」


「うぅ〜、如月君って……天然ジゴロ!?……ああ、もうだめむぃ〜かっこ良すぎるよ……キスしたい」


「いやいや、ちょっと待って。今の会話のどこにカッコいい要素があったの?」


「全部です!」


「そうか……よくわからないけど、ありがとう?」


「はい! こちらこそありがとうございます!!」


「あはは、ところで学校での俺ってどんな感じだったの?」


俺は話を戻すために、本題へと入った。


「はい! もうみんな憧れの的と言うか、オカズでした! 学校に如月君以外の男子がいないのもそうですがこんな超絶イケメンなんてずるすぎます!それに成績も優秀で、運動神経もよくて……とにかく完璧超人です!!」


「そ、そうなんだ……なんかすごいね……」


「まさに神様です!!!」


「そこまでか……」


全校女子のオカズという話には少し引いていたが、この世界ではこれが当たり前のようだった。


「はい! でも学校では如月君に話かけるなんてとてもできなかったんです。だって、みんなが狙っていたから……いつも取り合いになっていました。それに中等部にいる如月君の妹である雪奈さんが、よく親衛隊を引き連れて女子から如月君を守ってましたから……」


「なにその軍団……」


「はい、なので如月君のことを諦めた人達は、影でコソッと如月君をおかずにオナニーをしてました。私もその一人なのですが……」


「マジか……」


「はい……」


この世界の女の子は変態ばっかりだな……


黒川さんは見た目は清楚系なのに、中身はとんでもないドスケベだった。


おそらくだが、この世界の女子はみんな同じようにドスケベなのだろう。


でもこんな可愛い子に好かれて嫌な気はしないけどさ。


でもやっぱり、黒川さんみたいな可愛い子が俺なんかに好意を抱いてくれるなんて信じられないな。


本当に夢みたいだ。


俺は、自分の頬っぺたを引っ張った。

痛かった。


ということはこれは現実だ。

つまりやはり、俺はこの世界ではモテモテのようだ。


「あ、あの! どうかしましたか!?」


突然、頬をつねり出した俺を見て黒川さんが心配してくれた。


「あ、ごめん。なんでもないよ……」


「そ、そうですか……」


「じゃあ、俺そろそろ戻るね。また明日くるから。バイバイ……」


「あ、あの! 最後に一つだけお願いがあります!!」


「え?」


「そ、その……私のことを名前で呼んでくれませんか……? できれば呼び捨てで……ダメでしょうか?」


「え!?」


「あっ! ごめんなさい! いきなり図々しかったですね! 忘れてください……」


「いや、全然大丈夫だよ。むしろ嬉しいくらい……」


「え……?」


「彩乃……」


「はうっ……」


「これでいい?」


「はい……ありがとうございます……///」


「じゃあ、改めて。ばいばい」


「はい……バイバイです……」


こうして、俺と彩乃は別れた。


しかし、この時の俺は甘く見ていたのだこの世界の女子の性欲の強さと愛の深さを。


まさか彩乃が、どんどんヤンデレ化してしまうとは……


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