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9.その聖女、初心を思い出す。

 珍しく急かすように、早く早くと私のことを引っ張るアルに手を引かれて、私は町までやってきた。


「!! これは一体!?」


 町中がたくさんの花で飾られ、各家に色鮮やかに染められた布で作られた飾りがはためいている。


「シア! シアに1番に見せたかったんだっ」


 今日も相変わらずキラキラした、とてもまぶしい笑顔でアルは私にそういった。


「あ、シアお姉ちゃんだ!!」


 と、私を見つけたリトがたくさんの花を抱えて出てくる。


「これ、お花! やっと本物があげられる」


 その色とりどりの花を、満面の笑顔で私に差し出して、リトはそういった。


「このお花、僕が育てたんだよ」


 えらい? すごい? と聞いてくる、リトに圧倒されながら、私は目をぱちくりさせる。

 何が何だかわからない私は、アルとリトの顔をまじまじ見る。


「今日は、なんと収穫祭! なんだって」


 アルが楽しそうに笑いながらそういって、私の手にある花を1本とって、私の髪に生花を差した。


「うん、シアはいつも可愛いけど、花がほんとによく似合う。可愛い」


 アルはそういうけど、仏頂面の私よりどう見てもアルのほうが可愛い。そしてニコニコ顔のリトも可愛い。


「収穫祭では、生花を頭にさして祝うんだって」

 

 まだこの状況についていけてない私に、アルはそう説明してくれた。

 リトは髪に、アルはツノを隠すためにかぶっている帽子に花を差し合う。その2人の可愛さに、もうトキメキが止まらない。


 何この子たち、天使かな?


 えっ!? 私今日召される!? 


 ここは天国かなぁ!! って思わず拝みたくなる光景だった。聖女だったくせに、神様にも真剣に祈ったことないのにね。


「おんやぁーそこにいらっしゃるのは、引きこもりがちなセリシア様ではありませんかぁ〜」


 若干間延びした、聞き覚えのある声に振り返れば、そこにはシェイナがいた。


「この町で収穫祭だなんて、実に10年ぶり位ですよぉ〜」


 そう言って、シェイナは私に花を差し出す。


「いつもありがとうございます! セリシア様」


 そう言って、私の服に花を飾った。


「私別に感謝されるようなことなんて、何もしてないんだけど。それに様付けで呼ばれるような人間でもないわ」


 私は慌ててそういったけど、シェイナはフルフルと首を振る。


「何言ってらっしゃるんですかぁ? 全部あなたが来てくれたおかげです。町のみんなが今日健やかに過ごせるのも、今年の冬に飢えずに済むのも」


「それは全部、アルやみんなが農業や酪農をやったからでしょう?」


「でも、それができたのは、やっぱりセリシア様のおかげなのですよ〜。だから今日は、目一杯感謝させて下さいませませ〜」


 シェイナは初めて会った時と比べ物にならないほどまぶしい笑顔で私に感謝を述べた。

 

 アルに手を引かれて、私は町中をめぐる。行く先々で、たくさんの花を受け取り、感謝の言葉を告げられた。


「ねぇ、シア。俺の言った通りでしょ? みんなシアに感謝してる。それはね、シアがみんなのこと助けてくれたからなんだよ。みんなちゃんとシアが瘴気を祓ってくれたことも、作物が育つように祈ってくれていたことも知っているよ」


 私は自分の手の中にある、抱え切れないほど、たくさんの花の形をした感謝のしるしに顔を埋めて、なんだかとても泣きたい気持ちになった。


「シア、どうしたの? なんで泣いてるの? どこか痛い?」


 とても慌てたような声でアルが私に尋ねる。


「違うの。とてもうれしいの。うれしいのに涙が出るの、なんだかとても久しぶりな気がする」


 ああ、そうだ。思い出した。

 聖女だと言われたばかりの頃は、私はただ誰かの役に立ちたくて、ただありがとうと言われることがこんなにも嬉しくて、こんな気持ちをくれる誰かの為にも、私は聖女として立ち続けようとそう思っていたのだった。

 孤児院にいて、先生のそばで聖女として活動していた時は、いつもそんな気持ちだったのに、顔も見たことなかった父親だと名乗るノートン伯爵に引き取られ、教会に売られた後、いつの間にかそんな気持ちは擦り切れて、私は疲れ果てていたのだと今更ながら気がついた。


『シア、いいの。これでいいの。シアはシアの思う通りに生きていいの』


 と久しぶりに母の声が聞こえた気がした。 

 

「アル、聞いてほしいことがあるの」


 私は、唐突に聖女であったことをアルに話したいと思った。

 私の過去を聞いてほしいと思った。

 そして、私はアルときちんと向き合って、これからのことを決めていかなくてはいけないと、決意した。


「シア?」


 不思議そうな顔をして、きょとんとこちらを見つめるかわいい私の同居人に、私は初めて笑いかけた。


「アル、いつもありがとう。アルがいてくれて、本当によかった」


 私が笑ったことに驚いたような顔をしたアルは、私の言葉を聞いてとびっきりの笑顔と共に私に抱きついた。

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