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夕食時。それはシアの唐突な発言から始まった。
「……スローライフっぽいことがしたい」
「どうしたの? 急に」
アルはテーブルにカトラリーを並べながらシアに話の続きを促す。
ちなみに本日の食事当番はアルなので、ダイニングテーブルには、色とりどりのカナッペ、卵いっぱいポテトサラダ、ビーフシチューにふわふわ焼きたてパンなどなどシアの好物が所狭しとずらりと並んでいた。
「今日ギルドに行って気づいてしまったの。私、スローライフっぽいことしてなくない!? って」
遡ること数時間前。
ギルドにて、ギルドマスター(代理)のシェイナの手伝いをしていた時のことだった。
「新しい広報誌?」
「そうですよー。セリシア様が来られてから短期間でラスティも随分様変わりしましたからねぇ〜。観光地として売り込むのですよ!」
ふふふっとドヤ顔でバーンと広報誌のラフを机に広げたシェイナ。
確かに疫病もなくなり、田舎暮らし的ないい町になりつつあるので、需要はありそうだけど。
「待った。なんでこんな前面に私の特集組んでるの!?」
「えっ? せっかく有名人がいるので使おうかな〜って思いまして! セリシア様の御威光をお借りしたいのですよ」
勇者様の時みたいに! とノエル滞在中のギルドの売上を提示して、シェイナはふふふっと黒い笑みを浮かべる。
「いや、勇者様はともかく。断罪された偽聖女出しちゃダメでしょ」
「そこは聖女の文字出さなきゃいいんじゃないですかぁ? 功績は全部本物ですし」
本当逞しいなとシェイナの商魂に感心しつつ、追放されてから今までの思い出を振り返るシア。
色々あったなぁーと思いを馳せること数秒。シアは気づいてはいけない事実に気づいてしまった。
結局スローライフっぽいことを何もしていない、と。
「このままだと本当にタイトル詐欺にっ!?」
回想を終えたシアはわなわなと肩を震わせる。
"聖女"と偽り、本物の聖女である王子の彼女を貶めた。罪状:詐欺罪。
という冤罪をでっちあげられ、追放されてきたのに、このままでは本当に詐欺師になってしまう。なんてこった、と訴えるシアに、
「そんなことないと思うけど、シアは本当に真面目だねぇ」
クスリと笑ったアルは、
「じゃ、今からでもスローライフっぽいことやっとく?」
と提案する。
「何よ、スローライフっぽいことって」
自分で言っておいてなんだが、年がら年中過重労働、能力搾取されまくっていた元聖女にスローライフっぽいアイデアなんて浮かばない。
縋るような目をアルに向ければ、
「んー例えば。お昼寝用のお布団自作する、とか? ほら、ちょうど羊達の毛刈りしなきゃだし」
どうだろう? とそんなイベントを提案された。
シアはその光景を想像してみる。
太陽の光を浴びたいい匂いのするふかふかのお布団。
自分達で育てた可愛い羊の毛を使い、手間暇かけて自作したお布団に包まってするお昼寝は最高だろう。
「やるわ!」
さすが短期間でラスティを発展させた魔族の王様。スローライフぽいイベントを即座に思いつくなんてシゴデキ過ぎる。
拳を握りしめやる気満々で即決したしたシアを今日も元気だねぇと呑気に眺めたアルは、
「とりあえず、ごはん食べてからにしようか」
そのまま飛び出して行きそうなシアを制して取り分けたポテトサラダを差し出した。
翌日。
早朝からお昼寝用布団を作成するぞ、とやる気満々で作業にあたっていたシアは、
「こ、こんなに毛刈りが大変なんてっ」
早くもめげそうになっていた。
可愛くてモコモコの羊達だが、結構力もあり何より思いの早い足取りで広い柵の中を逃げまくる。
やっと捕まえた、と思っても。
「めええーー」
何するの!? と可愛がっている羊にうるうる目で鳴かれては、普段荒くれ者を容赦なく足蹴にするシアだって怯む。
結果、あっという間に逃走されてしまい全く作業は進まない。
どうしよう、とシアかガクッと項垂れたところで、
「情けないな、聖女! 鍛え方が足りんぞ!!」
そんなどでかい声が辺りに響くと共に羊が宙を舞った。
「はっ? え!? 勇者さま??」
なんで勇者がここに? と呆気に取られていると、
「秘技! 羊毛連斬」
ノエルが風魔法を乗せた聖剣で羊達に斬りかかった。
ちなみに落ちてきた羊は地面に衝突する前に全てアルが回収し、ついでに刈られた羊毛は山のように1箇所に集められていた。
「終わったぞ」
ドヤっと堂々と胸を張るノエルは、
「約束通り生姜焼き大盛りで奢れよ」
アルに聖剣を向けた。
「なっ、なんてスキルの無駄遣い!!」
聖剣で毛刈りしていいの!? と思わず突っ込むシアに、
「この方が早いかなって」
助っ人を呼んでおいた、とアルは爽やかな笑顔を浮かべる。
「そうだよ、シア。僕らはシアと違って時間がないからね」
時短だよ、と当然とばかりの声が牧場に響いた。
「って、大賢者様まで!? えっ、なんでここに?」
「僕らの可愛い妹分が詐欺罪で裁かれそうって聞いたからね。来るでしょ。政務放り投げてでも」
解決策を持って来たとドヤ顔で箱を渡してきた。
「何コレ?」
疑問符いっぱいで蓋を開ければ、フリルが沢山の真っ白なドレスが出てきた。
「ん? なんか見た目聖女っぽい感じのドレスだよ。せっかくカフェあるんだし、コレを着て働かずに優雅にお茶してたらスローライフっぽいんじゃないかなって!」
ほら、コレで当初の目論見通り! と働いてない感を見た目で補おうとするラウル。
「いや、可愛いけども! そういう問題じゃなくない!?」
なんか違う! と抗議するシアに、
「だって布団作り大変だよ? シアはここから先の工程本当に分かってる?」
と、ラウルはびっしり書き込まれたお布団の作り方を渡して来た。
「うわっ、結構大変。これ、何日がかり?」
頑張れるかな、と作り方を読んでいるシアに、
「そう言えば、ここに来る途中でノエルが魔獣倒したんだけど、毒ある奴だから浄化魔法かけといた方がいいんじゃない?」
アレ、とラウルが指差す。そこには疫病の原因にもなる大型の魔獣が積んであった。
「って、それを早く言いなさいよ!」
広範囲でかけなければせっかく浄化した土地に瘴気が満ちてしまう。
もう! と焦ったシアがうっかり全火力で浄化魔法をラスティ中にかけてたところで。
「羊毛の浄化作業まで済んだね。さすがシア。聖女の力は健在だね!」
素晴らしい威力とラウルは親指を立てた。
「はっ!? え? どういうこと?」
「せっかくだから、浄化魔法と魔族の魔力を組み合わせて相殺させたらどうなるか実験してみた。結果、程よくふわふわな感じに仕上がったよ!」
そう言ってにこやかに笑うラウルは大量に出来上がった羊毛の山を指差す。
先程ノエルが刈った羊毛の周りには見たことのない魔法陣が描かれていた。
「おおー本当にできてる」
興味深そうに浄化作業済みの羊毛に触るアルに、
「やぁーおかげでいいデータが取れたよ」
と楽しそうに話しかけたラウルは結果を手帳に書きつける。
聖女として働かないと公言しているシアだが、どうやらまんまと利用されたらしい。
「って、こんなに工程無視してここから先どうするのよ!」
「ふふふっ。それは私にお任せください!」
収拾つくの、コレ!? とツッコむシアの元に現れたのは算盤を片手に持ったシェイナだった。
ばっとアルの方を見れば、
「必要かな? って思って呼んでおいた」
褒めてとばかりににこやかに笑う。
もはやアルの手のひらの上でコロコロされ過ぎてやっぱりか、としか思わないシアに、
「勇者様と聖女様のスキル使用! 絶対過剰にできると思っておりましたが予想以上ですね。布団への加工、販売、すべてギルドにお任せください。取り分はこの通りで」
ギルドで仕事を発注しておきました! とシェイナは受注証を差し出す。
「お二人の分は最速で仕上げさせて頂きますので、どうぞご安心くださいませませ〜」
「さすがギルドマスター。仕事が早い」
契約書にサラッとサインしたアルが羊毛を引き渡したのを確認すると、
「じゃあ、出来上がるまでカフェで過ごすとしようか。僕への報酬はスイーツセットで」
大賢者を利用するのは高くつくよ? とラウルはニヤリと笑った。
「シア、良かったね! 無事ふかふかの手作り布団で寝られそうだよ」
確かに布団はできたけど。
「思ってたのとなんかちがーう!!」
スローライフとは、という疑問とともにシアの叫び声が山に消えていった。
こうして製作された勇者と聖女(+魔王)のスキル無駄遣い布団はギルドで限定販売され、高額にもかかわらず秒で売り切れる大ヒット商品となり、一部界隈を騒がせたりラスティの知名度が上がったりしたのだがそれはまた別のお話。
ちなみに布団の再販予定はとくにない。




