『捨てられ聖女は働かないっ!』コミカライズ配信開始記念SS
2025.3.15 講談社様漫画アプリ「パルシィ」にて『捨てられ聖女は働かないっ!』配信始まりました!
犬丸先生ランキング入りおめでとう御座います♪
よろしければお付き合いください(*´꒳`*)
ルルベル王国最果ての地"ラスティ"。
魔ノ国と接しているが故に瘴気が濃く、ろくに農作物が育たないその土地に1人の女の子が追放されてきた。
罪状:詐欺罪。"聖女"を偽り、本物の聖女の功績をかすめ取り、王子の最愛である彼女を貶めた。
とされているが、実際は過重労働を押し付けられて疲弊し切っていたところに、アホな王子が王様の不在を狙ってやらかしてくれたので、全力で茶番に乗っかって首都から逃げてきただけである。
心残りはあのアホの顔面にグーパンを決められなかったことだが、"聖女に非らず"という証明書の発行と身分剥奪の通達をしてくれたのでよしとする。
そんな彼女、セリシア(通称、シア)は現在非常に悩ましい顔をしていた。
「どうしたの? シア」
うーん、とうなるシアに優しくそう尋ねたのは同居人のアル。
彼はこの土地でシアが拾った訳ありの魔族である。
「困っていることがあったら言ってみて? 俺なら大抵解決できると思うよ」
そんなアルは自分で言うだけあって有能で、大抵のことは本当に秒殺で解決してしまう。
本来なら魔族なんて討伐対象なのだが、聖女を辞めたシアには関係ないどころか、がっつり彼に胃袋を掴まれているので、もはやアルなしで生きていける気がしない。
いくら働かない宣言をしているとはいえ、ダメ人間の一途を辿りそうなこの状態はそれはそれでどうなんだ、と思わなくもない。
が、にこにこにことキラキラオーラ全開で笑うアルに勝てる気がしなかったので、
「なんか、謎の植物が育ってて」
シアは素直に悩みの種を打ち明けることにした。
シアが差し出したのは楕円形の茶色の実。
ラスティに居着いて以来、薬草を集めたり瘴気を払ったりするために定期的に山歩きをしているのだが、魔ノ国寄りのいっそう瘴気濃度の高い土地でコレを見つけた。
聖女の務めという名の下、国内様々な場所に問答無用で行かされたシアだがこのような植物は見たことがない。
「瘴気が濃いこの土地では碌な植物が育たないって聞いていたのだけど、大きな木に鈴なりになっていて」
うーんと悩ましげにため息を吐いたシアは、
「どうやって食べようかな、って悩んでるんだけど。アル食べ方知ってる?」
煮て焼いたら食べられるかしら? と真剣な顔で尋ねた。
「悩むとこはそこなんだ」
見た事のない植物なのに。
しかも一際濃い瘴気に晒されて育った植物なのに。
普通なら嫌厭するか異常事態にざわつきそうな場面で、食べる一択。
昔から食には貪欲な子だったが、よく今まで無事だったなとシアが聖女の力を持って生まれたことに、アルはちょっと感謝したくなった。
「これはカカオって言って元々魔ノ国の植物なんだけど。瘴気濃度が上がったせいでこっち側でも育っちゃったんだね……って、シアそんなにコレが食べたいの?」
魔ノ国の植物と聞いて期待に満ちた眼差しを向けてくるシアにアルは苦笑する。
普通なら濃い瘴気に晒されたモノを人間が口にするのは難しいが、シアは聖女の力で全て浄化してしまうので問題ない。
何よりこれほどまでにシアが熱望するなら期待に応えたくなってしまう。
数年前、まだ小さかったシアが自分に絶対的信頼を寄せ、満面の笑みではしゃいでいた頃の姿を思い出し、クスッと笑ったアルは、
「ちょっと時間かかるけど、待っててね」
ポンっとシアの髪を優しく撫でてキッチンに向かった。
**
「ふわぁぁぁーー! 何コレ!?」
出されたのは見た事のない茶色の食べ物。
可愛らしくデコレーションされた一口大のそれからは甘い匂いがした。
「アレがどうやったらコレになるの!?」
なにこれどういう魔法? と興奮気味のシア。
「チョコレートだよ。加工はちょっと手間だけど、甘くて美味しいお菓子だからシアは好きなんじゃないかな?」
ハイ、どうぞ、と一粒手に取ったアルは当然のようにシアにそのまま食べさせる。
「んーーーーっ!! 美味しいっ!! アル天才!」
初めて食べるそのお菓子の余りの美味しさに感動し、目を輝かせるシア。
そのまますごい勢いで手を伸ばして何個も食べるので、アルは慌てて取り上げる。
「もう一個! もう一個食べたいっ!!」
「あんまり食べ過ぎると太るよー? 虫歯になるし」
夕飯前だよ? と保護者の如く注意するアルに、
「えっ!? とりあえず20キロ走ってくるから食べていい? 歯もちゃんと磨くから!」
真顔で解決策を提示するシア。
「そんなに走らなくていいから」
アルはそんなに気に入ったんだとクスクス笑うと、
「じゃあ、あと1個だけね。残りは明日のおやつにしよう」
そう言ってシアの口にチョコレートを放り込んだ。
「はぁ、美味しいっ。何でコレみんな食べないんだろう?」
「んー、普通は瘴気に晒されたモノを浄化してまで食べようなんて思わないから手をつけられなかったんじゃないかな?」
「えー勿体ないっ! こんなに美味しいのに」
幸せーっと美味しそうにチョコレートをもぐもぐするシアに、
「まぁ、でも、もう少ししたらコレも育たなくなるだろうし」
食べ納めだねぇと、アルは急に爆弾を投下する。
「えっ!? なんで!?」
「なんで、ってコレ育つのに瘴気がいるし」
そこまで言われてシアは日頃の行いを振り返り、
「ハッ、犯人私じゃんっ!」
と気づく。
なんてこった。
良かれと思ってあちこち浄化魔法をかけて住み良い領地にしたというのに、そのせいでこんな美味しいものが滅んでしまうなんてっ!!
ガクッと肩を落とし、悔しそうにううっと項垂れたシアは、
「もうこうなったら魔ノ国まで取りに行くしかっ!!」
チョコレートを諦められないからギルドに冒険者登録しに行ってくる、と宣言した。
「危険だから絶対ダメっ」
あと冒険者登録しても他国に侵略しに行っちゃダメだからっ! とにこやかな笑顔で止めたアルは、
「元の木もあるし、瘴気なくても育つように品種改良してみるよ」
今にも飛び出して行きそうなシアの肩を掴み代案を出す。
「そんなことできるの!?」
「んーやってみないとわからないけど」
シアに魔ノ国に行かれても困るし、と内心で付け足したアルが、
「シアも協力して」
欲しいなぁと協力要請するより早く。
「チョコレートのためなら喜んでっ!!」
食い気味でやる気を示すシア。
チョコレートに夢中な聖女を微笑ましげに眺めたアルは、聖女の力が有れば魔ノ国の植物が瘴気の薄い人の国で根付くなんて奇跡も本当に起きそうだなぁと楽観的に笑った。
そんな完全私欲100%で始まった聖女と魔王のコラボ企画が成功し、チョコレートがラスティの名産になるのはもう少し先の未来のお話。
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