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5.その聖女、魔族の子を拾う。

 聖女をやめたというのに、私の身体は勝手に早朝目を覚ます。

 2度寝してやると布団を被ってみたところで眠れそうになくて、硬いベッドの上で無駄に寝返りを繰り返す。

 この5年ですっかり早起き体質になってしまったらしい。……いや、5年じゃないか。孤児院にいた時も、ノートン伯爵家に引き取られた後も内容が違うだけで結局は朝から晩まで働いていた。

 そのまま芋蔓式に嫌な事まで思い出してしまいそうになった私は、頭を振って舌打ちをし、仕方なくベッドから起きた。

 特にすることもないので、マロの散歩がてら私は周辺の森を散策することに決めた。


 最果ての地ラスティに来て数日、分かった事がある。

 ここの住人はやたらと世話焼きだ。治癒魔法の対価分だけ働いてくれたらよかったのに、自分達だって食べるのに困っているくせにやたらと差し入れしてくるし、対価に貰った農地や酪農施設や空き家の手入れにも来てくれる。


「……私、聖女なんかじゃないのに」


 ぽそっと私がつぶやくとマロが私の背中に頭を押し付けてグリグリと擦り付けてくる。

 気にするなよ、って言われているみたい。ホントに賢い子。

 馬はいい。それに引き換え人間なんて、欲だらけで醜い生き物だ。

 私の存在(ヒーラー)をありがたがるのも最初だけですぐに慣れて、どんどん要求が大きくなるに決まっている。

 そして拒否すれば罵られる。

 聖女であったときに、嫌と言うほどそれを見た。ようやく離れられた今、それともう一度直面するのは嫌だ。

 だから正直必要以上に関わる気なんてなかったのに、なんだってここの住人たちは押しかけてくるのか。理解に苦しむ。


「必要以上に治癒魔法なんて、かける気ないのに」


 治癒魔法はこの前の疫病のように緊急性が高く命に関わる時ならともかく、軽症でかけていいものではない。そんな事をすれば、本来持っている自然治癒力が落ち、結果寿命を縮めることにもなりかねない。

 たかが膝を擦りむいた程度で治癒を望んだ貴族を拒否して、罵られた時の事を思い出し、気分が沈む。


『〜……貴様の様な性根の腐った下賎な人間……〜』


 断罪イベントの時王子に言われた事が今更ながら思い出される。

 ホント、その通り。ちゃんとした貴族の一員で、教会に囲われて清く正しく育成された純粋培養の聖女ならともかく、私みたいな孤児院出身者が一時でも王太子妃候補だったなんて笑える。

 そんな聖女だったなら、意義を唱えて反抗ばかりして疎まれる事なんてなくて、清く正しくみんなを導けたのかしら。

 まぁ、もうどうでもいいことね。終わった事だし。きっとあとはあの新しい聖女様がお役目を果たしてくれるでしょう。多分。


 ああ、考え事をしていたら、ここら辺一帯の瘴気を全部祓ってしまった。朝のお勤めも聖女の祈りもする気なかったのにうっかりしてたわ。

 濃い霧が晴れて、森全体の空気が澄んでいる。瘴気を祓うのは農場予定地と家周辺だけにするつもりだったのに、習慣っておそろしいと私は憂鬱な気持ちでため息をついた。


「そろそろ帰ろうか」


 とマロに話しかけたとき、マロがヒヒーンと控えめに鳴き私の服を引っ張る。

 何事かと思って視線を先にやれば、ヒトが倒れているのを見つけてしまった。

 マロはホントに賢い子。

 聖女様じゃないし、見捨てた方がいいかしらとも思っていたけれど、マロが背を押すので一応生存確認だけでもと思い近づく。


「……!! この子、は」


 そこに倒れていたのはまだ線の細い少年で、黒い髪をしていた。そして、その髪から人間では見られないツノが生えていた。

 私はその容姿に息を呑む。紛れもなく魔族の子、だ。

 規則正しく呼吸はしているが、痛むのか時折呻き声が聞こえ、表情が険しくなる。破れた服の隙間から所々に見られるかすり傷と打ち身による内出血。

 内臓がやられていないといいけどと、治癒魔法をかけようとして手を止める。

 魔族に光属性の魔法かけたらマズイのでは? 

 うっかり、浄化魔法で瘴気を祓うみたいにダメージ負わせてしまったら、すでに怪我しているのに瀕死、下手したら死亡するのでは?

 そんな可能性を考えて、魔法を詠唱できなかった。


『数年前までは、こうじゃなかったんですけどねぇ。魔ノ国の王がいなくなってしまって、高濃度の瘴気が流れてくるようになってしまったんです』


 そう言っていた時の、シェイナの言葉と表情を思い出す。

 魔王を討伐した時だって、ラスティがこんな事になるだなんて考えもしなかった。

 この子もひょっとしたら、魔王がいなくなったせいで、こんなところで行き倒れる羽目になったのかもしれない。

 巡り巡って、コレは私のせいなのかもしれないと急に罪悪感を覚えた。


「……どう、しよう……?」


 その時、その魔族の子の目が薄っすら開いた。その虚な紅茶色の瞳が、私を捉えて微かに笑った気がした。そして、直ぐに気を失う。


「あーもぅ、どうにでもなれ、よ!」


 こんなところで死なれても後味が悪い。私はマロに手伝ってもらって、その子をうちに連れて帰ることにした。

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