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4.その聖女、報酬を要求する。

 領主の家はよく言えばレトロで趣がある、率直に言えば広くてボロい屋敷だった。どう見ても改修工事必要そうなのに、いたるところそのままで、中も外観と同様。

 権力者にありがちな絵画だの彫刻だのといった装飾すらない。


「いやぁ、お恥ずかしい。色々売っちゃったんですよねぇ。せめて、冬までに資金繰りしないとまた領民飢えさせちゃうしって」


 シェイナは家を案内しながら、そう言うが私としては自分だけ私腹を肥やして領民からお金を巻き上げる領主よりずっと好感が持てる。

 そして多分こうなってしまった原因の一端は私が担っているし。魔王討伐に参加してましたなんて、口が裂けても言えないけど。


「父は、もうちょっとしたら戻ると思うんですよねぇ。それまでお茶でも飲んでお待ちください」


 お茶受けなくてすみません、と差し出されたそれは、お茶っていうかもはや色ついただけの水だった。まぁでも正直飲み水タダで出してくれただけでもありがたい。 

 私はお礼を言って、念の為浄化魔法を口の中で詠唱してから飲んだ。


「領主はどこに行っているの?」


「疫病感染者を隔離している収容所ですねぇ。とりあえずこれ以上蔓延させないために、町外れに全員集めてます〜」


「領主自ら? 領主は治癒師(ヒーラー)なの?」


「ただの気のいいおっちゃんですよ。結構な人数倒れてるから、父が行くしかないんです。私が行くって言ったんですけど、聞き入れてくれなくて」


 視線を落としたシェイナの声のトーンが落ち、間延びした喋り方が止まった。ただの気のいいだけの人間なら、いつ疫病に罹患するか分からない。

 シェイナが無事なのは、きっと家でも接触を避けているのだろう。


「そう。じゃあ領主に交渉するつもりだったけど、やめるわ」


 無駄足にはなったけれど、屋敷や道中の人の様子が見られて良かった。ここの領主一家はまともだ。少なくとも、町人に好かれるほどには。


「ねぇ、ギルドマスター。取引しない? 私が疫病、全部治してあげる。その代わり治療費を請求するわ」


 シェイナは驚いたように私の顔を見たから、私は自信ありげに笑って見せる。何せこっちとら年がら年中治癒魔法使いまくってたからね。これくらいの規模の町人の数なら多分秒で治せる。


「訳ありが流れてくるんでしょ? 私も訳ありなのよ」


 そこで私は初めて被っていたフードを取った。

 ちょっとばかり目立つピンクグレーの髪と碧色の瞳。


「……断罪された偽聖女、セリシア・ノートン」


「あら、ちゃんと最果てまで情報来てるようで良かった」


 私は印籠のように"聖女に非"という証明書を見せる。

 もう、私は聖女なんかじゃない。治癒魔法って結構魔力消費してキツイのに、ただ働きなんてごめんだわ。


「ご存知の通り、私は聖女じゃないわ。だから、正当な報酬を要求する。どこでもいいわ。瘴気は気にしなくていいから農業や酪農ができるだけの広い土地と家、労働者の雇用をさせて欲しい」


「……全員分の治癒魔法に払うお金なんて、うちにはないです」


「それは私に治して欲しい人に払ってもらう。体で払ってくれていいわ。労働力が欲しかったの」


 私は治癒魔法の相場とそれに準じた労働日数を提示した。本来なら働けば得られる賃金で相殺しようという相談だ。スローライフ実現のために人を雇用したくても、所持金0だと無理だし。

 まぁ、首都価格だけど、初回の売り込みだから、わりと良心的な価格設定にしたつもり。

 私の提示した条件を見て、シェイナは顔を高揚させる。


「ホント? ホントにたったこれだけで、助けてくれるの!?」


「断罪されたノラの無免許治癒師なんて、信用ないだろうし、初回はオマケしてあげる。支払いは完了後で構わない。急いで決めて」


 シェイナは契約書をよく読んで、そしてサインをした。


「了解。じゃ、案内よろしく」


こうして、聖女ではない私は、スローライフ実現に向けて初めて自分の魔法に対して報酬を要求した。


「奇跡だ!」


「聖女様っ!! ありがとうございます」


「ありがとう! 聖女様」


「いや、だから聖女じゃないってばっ!! 聖女じゃないから無償労働お断り。私は働きたくないのっ!!」


 鳴り止まない聖女コールに私は思わず声を張り上げる。せっかく聖女を辞めてきたのに聖女なんて冗談じゃない。


 隔離施設には結構な人数がいて、勝手に足を踏み入れたシェイナと私は領主に怒られたけど、事情を説明。

 訝しんでいた人も重症な子どもを一人治してあげたら、あっという間に私と契約したい人で溢れた。

 もう面倒なので隔離施設事まとめて完全回復魔法をかけてあげた。おかげでここら一体の空気まで浄化された。さすが私、やればできる子。でもさすがに疲れたっと隅でぐでっていると、


「ありがとう、お姉ちゃん! リト、元気になったよ」


 と最初に治してあげた子が寄ってきた。小さくて、それにかなり痩せている。


「お花、あげる」


 それは紙の切れ端に殴り書きされた、色のない花だった。


「ホンモノじゃなくて、ごめんね」


 そう言ってリトはしゅんと顔を伏せる。


「こら、聖女様に失礼よ」


「……聖女じゃないってば。シアでいい」


 母親らしきヒトがリトを嗜める。


「リトが真っ先に私に報酬くれたわね。分かってるじゃない。そう、労働にはそれに見合った対価が必要なのよ」


 私は描かれた絵の花を受け取り、リトの頭を撫でる。ありがとう、なんて感謝されたのいつぶりだろう?

 聖女なんだから当たり前。そんな毎日で擦り切れた精神が、少し回復した気がした。


「ありがとう、リト。お花きれいね」


 お礼を言うと、リトは笑顔でどういたしましてと言ってくれた。

 とびっきりの笑顔と感謝の言葉と手製のお花。対価としては悪くない。


「私は、セリシア! ただのセリシア。聖女なんかじゃないわ。だから、ここにいる全員に報酬を要求します。せいぜい、対価を払い終えるまで私に尽くしてください」


 でも、私は知っている。今は治癒魔法が物珍しいだけで、いつかはきっとそれが当たり前になって、感謝の気持ちなんてなくなって、そして聖女(わたし)は消耗されて使い倒されるんだって。

 そんなのは、もう2度とごめんだわ。

 首都で暮らした5年間の聖女生活を思い出して、私は拳を握りしめ、改めて決意する。


"もう、聖女としてなんか、絶対働かない"


と。

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