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1-1.ルールと世界

俺、志田 涼真(しだ りょうま)の人生はそれなりに平凡で世間一般的に見れば幸せな人生だったと思える、友人もいたし、親や弟妹との仲もいい、学校の成績も決して良くはなかったが悪いなんてことはなかったように思う、思うのだが………


眼前に広がるのは若草色の大平原、六足三つ目の鹿のような生き物に動く白い粘性の物体、空にはゲームでしか見たとのない赤い鱗を持つ飛竜、遠くに見えるのはなんだろうか、巨大な樹木を1つ目の巨人が切り倒してる。


「………なんでさ」


自分の状況に頭が痛くなる、状況は飲み込めない、しかし弱音を吐く暇も与えられない、立って先に進まなければ、なんせ俺の肩には恐らく──────────


78億人と、無数の生命がのっかっているのだ


今からおおよそ12時間前


─────────────────────────


肌寒くなってきた10月頭のある日、今日必要な大学の講義も終え昼食を食べに一人で池袋のラーメン屋に向かう俺に、素っ頓狂な明るい声がかけられる。


「すいませーーーん!少々よろしいですかぁ~?」


歩きながらファンタジー系のソーシャルゲームの素材周回をしていた俺は面倒な客引きかと思いながらもちらりとそちらに視線を移すとそこには腰までの長い桜色の髪に髪色とは逆に地味な鼠色のコートとカーキ色のロングスカートを履き、「笑顔」と検索すればそれが出てくるような少々胡散臭い笑顔を貼り付けた女がそこに居た


「は、はぁ」


「あのぉー少しだけお時間よろしいですか?少々アンケートに協力していただきたくて」


「アンケート」


このご時世、この時代に街頭アンケートかよと思いつつも20歳、特にういた話も彼女もない俺は訝しみながらも耳を傾けてしまう


「はい、お時間取らせませんので、さぁさぁさぁ、答えてくだされば大サービスもしてしまいますとも今日最期のノルマなのです是非是非」


ぐいぐいとタブレットを押し付けてくる、タブレットでやるならオンラインでやれよと思いつつ俺はそれを受け取る、名前年齢出身地……


「あっ、出身地は気にするようでしたら書かなくても大丈夫ですよ」


ずいととなりから画面を覗き込む女、ちょっといいにおいするな、軽い生返事をしながらそのアンケートとやらに目を通す、政治に興味はあるか、勉強は好きか……貴方の人生は幸福ですか……?


「これ、なんのアンケートなんすか」


「さぁ、意識調査?だとか」


わかってねぇのかよ、怪しい宗教みたいなのじゃないだろうな、人生は…どちらかといえば幸福、人生に満足感は…どちらとも言えない……今後この世界はいい方向に行くか…どちらとも言えない……人生に不安は有るか……ある


「………こんな所かな」


「はぁいどうもーでは最後そこの送信をポチッと」


「ん」


何の気無しにタップした瞬間、周囲が真っ暗になり、手にもつタブレットだけが光る、足元の緑色の妙な光も何だこれは


「はぁーい世界平均者種族番号第100号志田 涼真様の決定により!暫定名称ヴィネ、消滅しましたー!」


女は妙な色のペンライトを取り出すと、なにかのライブの応援のようにブンブンと振り回す


「………は?」


「はい、アンケートご協力ありがとうございます!第7次 異空世界存続アンケートの結果により志田様の世界は綺麗さっぱり跡形もなく無くなりました!」


言葉が頭に入ってこない、何を言っているのだろうか、あれかなYouTuberの怪しいドッキリ企画か?


「あー…えっと、すいません俺昼飯食べに行かなきゃ行かないんで」


「あぁちょちょちょちょっと待ってくださいよ!」


無視して歩く、この暗いのもなんだ、上から箱でもかぶせたのか女を無視しながら店の場所は何処だったか……スマホの電波が立っていない


「もー話は最後まで聞いてくださいよ、まだ志田様にはやってもらうことが有るんですから、言ったでしょう大サービスしますって大サービス」


はっと顔をあげる、女の声が前から聞こえた、俺は女をおいてあるき出したはずだ、気がつけば足元の緑色の光もついてきている


「では、サービスの内容をはっぴょうしまーす!」


ぱちんと女がペンライト同士を重ね叩くと周囲の風景は一変する見覚えがある、窓の外は玉虫色の奇妙な風景だがこれは俺が通っていた中学の教室だ


「では適当な席におかけください」


「い、いやここ何処でお前何を言って……」


情けない声が出る、それはそうだ意味がわからない、異空世界存続アンケート?綺麗さっぱり無くなった?お前は何者で、俺は何をさせられたんだ?そんな無数の言葉が喉まで出かかって、出ない。

何か妙な力がとかそういうわけではない、ただ疑問が有りすぎて声が出ないのだ


「どっ……ドッキリ?」


唯一出たのはそんな言葉、聞きたかったのではなく、そうであってほしいというそれだけの言葉


「ノン!ノンですよ志田様、これは現実、起こってしまった事実なのであります」


気がつけば女教師のような服装になっていた女は指示棒を持っている


「色々聞きたいことはあると思いますがまずはおかけになって、あ、此方ミネラルウォーターですこれでものみながらまずは説明から致しましょう、おっと、改めまして私、観測天使のイーリスと申します」


追いつかない、追いつかない、が、今は大人しく席に着く


「まずそうですね、異空世界存続アンケートとは!定期的に行われる平行世界の存続を許可するか、許可しないか!そういうのを現地の『平均よりちょっとだけ上な』環境の人達に今の世界はどうか?というのをそれとなく聞いて、マイナスにふれればその世界はその後存続、繁栄しても意味はないな、と消滅させてしまおう、というアンケートでして」


「そっ……それ、が、さっきの?」


確かに人生に満足感だとか、そんな先の不安とかはあった、まさかそれだけで


「あ、志田様、『そんな事先に言っていれば』とかおもってはいけませんよ、公平性、平等性を保つためには皆様のフラットな思考で答えていただかなければいけませんから」


「……それは、そうだ、それはそうだが、わかった今えっと、イーリスさんが言っていることが事実だとして、存続、繁栄しても意味がないと言うのはそのアンケートの結果とは言えそちら側が決めた事、基準デっていうのはちょっと、横暴じゃないか?」


なんとか絞り出した俺の言葉に、イーリスは想定していたと言うようにうんうんと頷く


「その意見もわかります、ですが可能性といいますか、そんな軽率なものではございませんが分岐点一つで平行世界、平行宇宙というのは生まれてしまうのですよ、志田様、例えばそうですね、志田様の世界で言う本能寺の変で織田信長が死ななかった、明智光秀が事前に討ち取られた、中国大返しが間に合わなかった、明智光秀が山崎の戦いに勝利した、エトセトラエトセトラ、本能寺の変一つ分岐点にしてもおおよそ20、30の平行世界が生まれてしまいます、可能性の話ですよ?勿論」


「おおよそ20年という歴史の中で2~3ほどの分岐点があると考えてください、そうなってくるとどうしても……そうですね、わかりやすく言いますと、神、というか観測者といいますか、そういう方々からすると許容範囲、容量を超えてしまうわけですよ」


言い分はわかる、盆栽や木々で言う剪定、もっといえば学校の入試みたいなものだろう、だからといってだとしても、いや、ならば何故


「……じゃぁ、なんで俺は、ここに居る、俺のいた世界とともに消されなかった…」


絞り出すような声、それはそうだ、もし神というものが居てそういう結論が出たのであれば俺もろとも消してしまえば良いあの一瞬で消えたのだとしたらそのほうが……


「そこがだいっっサービスなのです、志田様!」


こちらに来て机をバンとたたき此方を覗き込む


「志田様、ご自分の世界を取り戻したくは有りませんか」


「お前、さっき意味がないから消えたって……」


「はい、ですがそれはそれ、これはこれ、取り戻したいか、そうでないかです志田様」


「……取り戻したい、世界が、とかそうじゃない、もしお前の言うことが本当なら!後悔もあるに決まってる、家族にも友達にももう会えないなんて、俺は世界じゃない、そういうものを取り戻したい!」


決して俺は友人思い、家族思いというわけじゃない、カッコつけてクールぶったりそんな人間だ、けれど絞り出した言葉は本心だった、まだ信じれたわけじゃない、これがドッキリなら大恥だ、それでも


イーリスは自分の手に落ちた雫を見るとにいとわらって俺の手をつかむ


「では、ゲームをしましょう、志田様、貴方の世界をチップとし、貴方と貴方の世界の可能性を見せていただくゲームを」


悪趣味な言い方だゲームだなんて、だが俺は強くうなずき、睨む


「乗ってやるとも、説明しろ、イーリス」


俺の怒りとも何とも言えない表情を見、それとは真逆の最初に彼女を見たときのような笑顔を貼り付けイーリスは微笑む


「はい、もちろん、志田様を含めた今回消滅した世界の代表者のみなさまには───」


「……いくつかの世界を救っていただきます」


初めて見せた彼女の素の笑顔は、口角を吊り上げ薄っすらと歯を見せる、少し不気味なものだった



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