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定期報告(1)

 あの後、教室に行って転校生としてのテンプレ展開を終えた。

 赤い眼をした少女は見つからなかった。


 寮にあてがわれた個室に入った俺は盗聴器やカメラの有無を調べ尽くしてから、やっと一息つく。

 ベッドに座った。ふかふかだ。スマホを取り出し、ソシャゲっぽい萌キャラのアイコンを押す。

 始まるのはゲームではなく、二頭身で白兎風の萌キャラがくるくる回るアニメーションで、それがピタッと止まった。


 プルルルル――プッ


「ノーニャ、聞こえるか?」


 偽装した通信アプリである。

 一介の吸血鬼ハンターに過ぎない俺はこうして上司に報告しなきゃならない。

 今日は困った収穫もあることだしな。


『プリビェット! 待ってマシタ~、バン!』


 スマホから聞こえてきたのはとびきり明るいお姉さんの声だ。

 プリビェットというのは挨拶らしい。

 画面上では白兎が両手を振る。


「し、静かにしてくれ、もう夜だぜ」


 もちろんこの部屋に盗聴器はないが、吸血鬼は類稀な聴覚を持つ者もいる。

 これくらいは用心しても足りないことはないだろう。


『それは失礼シマシター。ワタシ、バンのオネーサンとしてまだまだデース!』


「いつまでその設定で行くんだ、まったく」


 どう考えても外国人なのに俺の姉って設定、絶対おかしいと思うんだよな。

 まあでもスパイ活動する間だけだ。


『それにしてもウラヤマしいデスネ。学園生活デスヨ?」


「ああ。俺はほとんど学校に通えなかったし、とても良い機会だと思っている」


 吸血鬼になってから一度も外に出なかった。


『バン、楽しい。オネーサン、嬉しいデース!』


「ったく。ノーニャは本気でそう思ってそうだから照れるよ」


 今もこうして吸血鬼ハンターが出来ているのは、ノーニャのおかげだ。

 復讐という生きる意味を教えてくれた。そういう意味では信用している。


『本気も本気デース。吸血鬼の学園とはいえ、テンション上がりマセンカ? ナゼなら一年じゅう霧の湖にある有人島、ソシテ……、森の奥の古城が校舎の学園だナンテ……』


「ああ、たしかに漫画みたいだよな」


『それなんてエロゲなのデスカ!?』


「は?」


『ハ?』


 いや、信用しているのは撤回だ。

 可愛らしい白兎のキャラが真顔で俺を見ている。


「ノーニャ、漫画だろ。青春だろ! 学園! 同い年の男女が集まって、恋に悩み、人間関係に一喜一憂し、百人一首をするところだぞ!!」


『オー、弟くんそれは少女漫画の読みスギデース……』


 呆れたように言われた。白兎も目を丸くしている。


「いいだろ。学校のこと、漫画でしか知らないんだよ」


『アァ、ゴメンナサイ。でも、弟くんは学園生活、楽しみにしてマシタ! ワタシ、知ってるデスヨ。ナゼなら、ヴァンパイア、みんな美シ~デース』


「そりゃそうだろ」


 吸血鬼は美しい子供を好んで同族に引き入れる。


『弟くんはチョット美シ~。でも、オネーサン好きデース。キミのいつもシンドそうな顔」


「うるせえ。余計なお世話だ」


『でも、クレグレも人間だとバレてはダメデース! 弟くんを半吸血鬼にした相手を討伐するタメに入ったのダカラ。その時が来るマデ、力は見せてはイケナイのデスヨ』


 力。

 俺が修行で体得した吸血鬼ハンターとしての力だ。

 在学中、吸血鬼を演じなければならないのだ。


「分かってるよ」


『ならヨロシ~デース』


 軽い返事だ。でも、俺は違う。バレたら殺される。全校生徒は百人ちょっと。生きて島を出られない。

 早いところ標的を確定すべきだが。


「ノーニャ、恋って分かるか?」


『オヤオヤァ、オネーサンのこと好きになっちゃたのデスカ?』


 白兎がテレテレしている。何を勘違いしてるんだか。

 ……いや、そうか。吸血鬼は父さんを殺した憎むべき相手。

 俺が吸血鬼に恋をするだなんて、冷静に考えてみたら有り得ない。


「ごめん。やっぱり今の質問ナシ」


『ムフフーン。分かってマース、オネーサンは大人なのデース!』


 白兎が今度はニヤニヤしている。

 無駄に細かい表情まで作り込まれていて、ああ、クソ、癪に障る。


「そうだよ! そいつが俺を噛んだ相手か、俺には判別が付かないんだよ!!」


 そう。二人に恋をした。でも片方が偽物だとするなら、それをどう見極めるのか。

 俺にはその方法が分からなかった。


『デスヨネ~。偽りとはいえ初恋デース! 本人に直接聞くなんてもちろんダメデスヨ?』


「もしも命令されたら、頭はともかく体が動かなくなるんだっけ」


『その通りデース! 標的にはバレずに確かめるコト! そう思ってスマホに参考資料を入れておきマシタ!』


 白兎はデフォルメ化した何冊かの本を掲げた。


「ふむ、了解だ。読んでおく」


『次の報告、期待してイマース!』


 そう残して白兎は穴の中に消えた。

 俺はノーニャの指示通り、スマホで参考資料とやらを読み込む。


 ……なるほど。これなら女子との付き合い方の参考になるかもしれん。


 よし、まずは二人にときめいたかどうか確かめなきゃならないな。

 明日は姫里ココに会って、金髪の子についても探っていこう。

出会い編おわりです。

定期報告というサブタイで話は一区切りになっているので、まとめ読みする際は定期報告回を目安にすると良いかも知れません。

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