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恋か死か

 学園のある霧宮島に到着する。

 俺たちはディンゴ先生に案内され、海沿いを歩いていった先で門の前に着いた。


「ようこそ霧宮学園へ」


 ディンゴ先生が手をやった先に古城があった。

 それも日本に似つかわしくない西洋風だ。


「城? これが学園なのか?」


「驚いたか? まあ無理もない。でも城であるのは理由がある。我々には面倒な敵が居るからな」


 俺は身をすくめる。もはや引き返せないほど、吸血鬼のテリトリーに足を踏み入れている。


「それじゃあ俺は時間がない。君たちは教室に行きなさい」


「あの!」


 声をかけたが、さっさと歩いてディンゴ先生は行ってしまった。


「あの、教室の場所は……」


 残された俺はココを見る。


「ごめんなさいっ! わたし、寮に着替えを取りに行かなくちゃならなくて!」


「そうだよな。俺たち遅刻してるんだし」


「ごめんなさい~っ」


 ココも立ち去る。

 一人になった俺は教室の場所なんか探さず、ポケットからスマホを出した。

 ノーニャに連絡を取るとしよう。


「ノーニャ」


『プリヴェット! 無事に潜入できマシタカ!?』


 ウサギ姿のマスコットキャラが画面にぎゅうぎゅう詰めになっている。

 近すぎだ。音割れもしている。


「落ち着け、無事だ。少しトラブルがあって連絡が遅れた」


『ホッ。何かあったらと思うとケーキしか喉を通りマセンデシタ……』


 今はおやつの時間を過ぎて、夕方だった。


「のんきなティータイムも終わりだぜ。報告だ。ターゲットを見つけた」


『ホントデスカ!? さすがデース! 近くにいるバロックを今スグ出動させられマース!』


 あの顔が怖いオッサンにココは討伐されるのか。

 ……それは嫌な気分だ。

 ココを守ってやりたい気持ちがむくむくと湧いてきた。


「あ、ああ。できれば苦しませずに殺してくれ……」


『吸血鬼とはいえ恋に落ちた相手デスカラネ。でもご安心を。それは偽りの恋心デース!』


「そうは言っても気分が悪いよ」


『復讐を忘れてはならないのデース! バン! 敵を見誤らないで』


 首に嵌めたチョーカーを触る。そいつは俺の吸血鬼化を食い止めてくれている。


「そ、そうだよな。吸血鬼は敵だ。ターゲットを殺さなきゃ、俺は……」


 その時、ビビッと電流が体に走った気がした。

 思わず振り向く。

 夕日が霧で乱反射して、オレンジ色に染まった世界で、黒いシルエットが見えた。


「ねぇ、殺すって誰を?」


 カラッとした少女の声だった。逆光で顔は見えない。なのに。


 ドッドッドッドッ


 なんで心臓がこんなにも高鳴るんだ?

 少女は俺に近づいてくる。きっと学園の生徒だ。同じ制服を着ている。

 まずい。ノーニャとの話を聞かれてしまったかもしれない。スマホの画面を落とした。


「あ、ああ。えっと、ゲームの話だよ」


 誤魔化すのは訓練済みだ。ノーニャがウサギ型のアバターを使っているのもそのためだ。

 しかし、少女は興味がなさそう。


「ふーん」


 少女は気のない感じで近づいてきた。目と鼻の先だ。

 ……宝石だ。

 瞳の色が血のように赤く、そのキレイな瞳に俺は見入ってしまった。だが、見入っていたのに気づいたのは、彼女がまぶたをジトリとさせて睨みつけてきてからだ。


「ごめん……」


「ふん。そんなことよりアンタ」


「ひぇっ」


 首がくすぐったくて変な声が出た。

 あろうことか少女は俺の首筋に鼻を近づけて、スンスン、と匂いを嗅いできたのだった。

 な、なんだこいつは。


 ドッドッドッドッ


 心拍数が上がる。これ以上、心拍数が上がると汗が出てくる。

 まずい。

 人間だとバレてしまう。くそ、なんでドキドキするんだ。もう俺を噛んだ相手はココだって分かってるじゃないか。


「ねぇ、アンタってもしかして――」


 まずいまずいまずい!


「ごめん、用事を思い出した!」


 俺は逃げた。


「え? ちょっと!!」


 背後からの声を無視してとにかく人気のない場所へ。

 そうしなきゃ、俺はおかしくなりそうだ。

 いや、もうおかしくなってる。


「ノーニャ、ノーニャ!」


 スマホに呼びかける。


『バン、急に通話を切ってどうしたのデスカ?』


「この任務、一筋縄ではいかないようだ。もう少し俺の標的を調べる時間をくれ」


『……分かりマシタ。でも、どうシマシタ?』


「分からない。少し戸惑っている。一度、自分で確かめてから連絡したい。良いか?」


『現場でしか分からないコト、ありマスカラネ。良いデショウ。定期報告にてお願いシマース!』


 そうして通話を切った。

 俺は足を止めて、自分の胸に手を当てる。


 ドッドッドッドッ……


 心臓の高鳴りは収まってきた。少女から離れたからに違いない。

 ならば。これはココの素顔を見た時にも感じたものと同じ。

 そんな、ありえない。


 ――二人に恋をするだなんて。


 恋した相手が俺を噛んだ吸血鬼で、殺すべき相手。

 標的は一人。

 だが、二人の少女。どちらかが標的で、どちらかが初恋なのだ。

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