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吸血鬼学園の授業

 翌日、教室にドラク(とその取り巻きたち)が復帰した。

 デュラハンのごとく首をもがれたくせに、すっかり傷は消えている。

 教室に入るなり、傍らのゴリラが俺に指さした。


「ドラク様! あの野郎、泳げないドラク様を水に沈めといて、のうのうと学校に来てやがりますぜ!」


「バカ! 余計なことを言うな!!」


「クシシシシ!」


 ドラクがゴリラに突っ込みを入れるとキツネ目のチビが不気味に笑う。

 どうやら漫才トリオは健在のようだ。

 というか、あのキツネみたいな奴、戦いの時いつの間にか居なくなってたよな。


「あの……」


 そんな三人の後ろで黒髪がピコピコと揺れている。

 彼らが邪魔になってココが教室に入れないでいるようだ。

 ドラクがそれに気づいて、眉間にシワを寄せてココをにらみつける。


 ……あいつ、何かまた難癖をつけて横暴を働くつもりか?


 しかし、ドラクはすんなりと道を譲った。


「あっ、ありがとうございます」


 ココは申し訳なさげにドラクの前を通り過ぎる。


「チッ」


 ドラクはココが通り過ぎた後、俺を見てあからさまな舌打ちをした。

 どうやらもうココに手を出すつもりは無いらしい。

 ココが微笑み、俺に行儀正しくお辞儀をした。


「おはようございます、バンくん」


 その姿勢は胸元が一瞬見えそうでドキッとする。

 いやいや、相手は吸血鬼。

 冷静になれ、俺。


「ああ、おはよう」


 誰かがツンツンと俺の背中をつついた。

 振り向くと関西人吸血鬼が八重歯を見せてニカッと笑う。


「おはよーさん。アンタやろ? ドラクの首いわしたの」


 そういえばこの子、ドラクが痛い目に遭ってたならスカッとするとか言ってた子だ。

 今まで俺が教室で誰かに話できる空気じゃなかったのに。


「おはよう。いや、それは俺じゃないよ」


 後ろの席の関西さん(今適当に命名した)は「ほーん」と訳知り顔で、元々いたグループに戻っていった。

 なんかちゃんと伝わってなさそうだが、まあいいか。

 それはともかく、俺の学園生活は順調に進みそうな予感がした。



 ◆



 順調に学園生活が進むと思ったが、それもつかの間だった。

 転校してから最初の体育で俺は絶句する。

 バスケットボールがコートじゅうをスーパーボールのように弾け飛んでいる。


「ドラク様! パスしやすよ! あっ」


「残念やったなァ! ダンクシュゥゥゥゥト!!」


 男女混合で縦横無尽に吸血鬼たちが己の身体能力を遺憾なく発揮する光景が俺の前に広がっていた。

 俺は体育館の壁際でボールにぶつからないよう神経を尖らせながらジョギングする。

 メンバー交代で暇になったココが俺の隣にやってきて、走る速度を合わせた。


「ふぅ、おつかれ~、バンくん。やっぱり羽あり組は強いですぅ」


「おつかれ、ココ。羽あり組って?」


「ほら、今ダンク決めた子の背中を見てください」


 あの子は今朝あいさつしてきた関西弁の子だ。

 俊敏な動きに目を凝らすと、薄っすらとトンボのような羽が生えている。


「ほんとだ。意識しないと見えなかった」


「ですです。私たちも成熟すると最初はああいう薄い羽が生えるみたいですよ」


「へえ、そうなのか」


 吸血鬼ハンターなので、成熟した吸血鬼は羽があるということは知っていた。

 ただ、羽の生え始めがあんなに薄いものだとは思わなかった。


「バンくんもまだ羽化していないんですよね?」


「あ、ああ。そうだな」


 あいにく人間だから羽は生えない。

 今朝だってきちんと香水を付けて人間の匂いを消している。


「私だって羽さえあれば、あれくらい高速移動できるのに。羨ましいです」


 あれが高速移動に見えてるのか。

 俺にはヤムチャ視点にしか見えないぜ。

 やれやれと肩をすくめていると体育教師が俺たちを指さした。


「ほらそこ話してる余裕あるなら走れ走れ」


 へいへい。

 俺たちは走る速度を上げる。

 話しながら走ったことやココのペースに合わせたせいで少しずつ汗ばんでくる。


「ん? くんくん……バンくん、何だか良い匂いがしますね」


「……はい?」


 ココが急に変なことを言い出してびっくりした。

 しかし、黒々とした瞳はちっとも冗談めいてはいなかった。


「なんだか美味しそうな匂いがします」


 鼻をすんすんと俺に近づけてくるココから俺は慌てて離れた。

 そうか、汗をかいて香水が流れたのか。

 こんな吸血鬼だらけの場所で人間の匂いをさせるなんて、サメのいる海で血を流すようなもの。


「あっ、走り込みすぎて腹が痛くなってきた。イタタタタ」


 俺は脇腹を抑えて痛いアピールをする。


「大丈夫ですか!?」


「だいじょーぶ、だいじょーぶ。少し休んでくるわ」


 そそくさとその場を離れて、更衣室へと向かう。

 危ない危ない。俺の名演技が無ければ完全にバレていたところだった。

 まったく、吸血鬼学園の生活は気が抜けないな。

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