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定期報告(2)

 一度、森で応急処置を済ませ、他の吸血鬼にバレることなく自室に戻った俺は、匂い消しの香水をこれでもかと体に付ける。

 香水は機関が作ったハンター道具の一つだ。

 同じく機関特製のスマホを開き、萌えキャラのアイコンのアプリを立ち上げる。


「こちら霧宮学園の黒曜バン。定期報告だ」


『プリビェッ~ト……』


 えらく元気が無さそうな声と共に、ぐったりした白兎風のマスコットキャラが画面に表示された。


「大丈夫か、ノーニャ?」


『ニッポンは夜でもコンナニ暑いのデスカ~?』


「はは、なんだ。そんなことか。今日は特に熱帯夜だし、九月はこんなもんだろ」


 幸いなことに霧宮島は湖上の孤島で年中霧がかって涼しい地区だ。

 たぶんノーニャが居るのは都心部なのだろう。


『オーウ……。早くバンは任務終わらせてクダサ~イ』


 ノーニャの奴、すでに帰りたいモードじゃないか。


「そんな私情で任務を催促するなよ」


『ダメデス! バンの仕事はとてもキケン! 長居は無用デース! オネーサン、心配なのデスヨ?』


 白兎が片目を閉じて腕を組む。


「ごめん。そこはノーニャの言う通りだな。今日はクラスの吸血鬼と交戦してしまった」


『ええ!? 怪我はないデスカ!?』


 食い気味にノーニャが返答すると、ガタッとマイク越しに何か崩れた音がした。


「あ、ああ。大した傷じゃない。もう血は止まっているし」


『ほっ……。気をつけるのデース! 奴らは血の匂いで集まりマス。血を飲めば飲むほど、相手は力を付けるのデスヨ?』


 そういえばエルゼも血の匂いがしたと言っていた。


「分かってる、いやと言うほどな。ところで血液ドリンクって知ってるか?」


 俺は昼間ドラクが飲んでいた物の詳細を伝える。

 それから奴が強化されたこともだ。


『ンン~、分かりマセーン。そもそも吸血鬼は血そのものデハナク、血を通して生気を吸収するのデス。強くなるとは考えられマセーン!』


「でも実際、強かった。ドラクは俺の体術まで見破っていたからな」


『バンに手傷を負わせるホドの相手。侮れないデース。充分に気をつけてクダサーイ!


「ああ、そうするよ」


 十二血族の直系と言ってたが、相応の戦闘力はあったのだろう。

 やつの力は認めざるを得なそうだ。


『それで、運命の相手は見つかりマシタ?』


「え? ああ……」


『ンン? どうしたのデスカ? まだ見つかってないのデスカ?』


 流れで見つかったと答えそうになったのを既のところで飲み込んだ。

 吸血鬼に恋しちゃったかも、だなんて話せない。

 ノーニャ、もとい白兎がいぶかしげな目で俺を見ている。


「なんというか、それが微妙な感じでな」


『オヨ? 自分を噛んだ吸血鬼と居る時、恋愛感情が生まれるのデース! それを頼りに探しているノじゃないデスカ?』


「そうなんだが……」


 候補が二人いる。

 ココは面倒見が良くて仲良くなれそうだし、エルゼはぶっきらぼうだが俺を助けてくれた恩人だ。

 主人に感じる恋愛感情と、本物の恋愛感情の違いが俺には分からない。


『やれやれ。オネーサンにドーン! と聞いてみるのデース!』


 弾けるような声色で、白兎が胸を叩く。

 ついさっきまで元気が無さそうだったくせに。

 ……まいったな。


「なあ、ノーニャ、吸血主人に対する恋愛感情ってどんな感じなんだ?」


『フゥム、ナルホドナルホド』


 白兎は訳知り顔で腕を組みながらうなずく。


「なにか分かるのか?」


『さては、恋をした経験が無いのデスカ?』


 ギクッ


「いや俺はただ、吸血主人に対する恋愛感情をだな……」


『隠さなくて良いのデース。バン、ムズかしく考えなくて良いのデス。目をつむって、思い浮かべてミマショウ』


「ああ」


 俺は目をつむった。

 ノーニャの深呼吸する音がスピーカー越しに聞こえる。


『良いデスカ? 一緒に話して落ち着く人……、くだらないことで笑い合える人……、話しかける前は少し緊張しちゃう人……』


 そんな言葉に合うような人物を頭の中で考えて、ぼんやりと像が浮かび上がる。

 ノーニャは続けて話した。


『怒ったり悲しんだり一緒に居ると感情豊かに見える人……、時には親身に話を聞いてくれる人……、自分では理解できない強さを持った人……』


 うん、うん。すごく分かる。会ったことないけど、たぶんそういう人のことが俺は好きだ。

 ふたたびノーニャは続けて話した。


『目をつむったままでいいデース。バンの心に浮かんだ人は誰デスカ?』


「ああ、顔は分からないんだが一人だけ思い当たる人がいる。それでも良いのか?」


『ダー! 上出来デース。それは誰デスカ?』


「……いや、やっぱ居ない」


『ええ!? どうしてデスカー!』


 言えるかよ。だって頭に浮かんだのはノーニャだったのだ。

 嫌いではないが、恋愛感情と言うと違う気もする。

 ただ、ノーニャくらい話せるようになれば、自ずと恋かどうか分かりそうだと思った。


「いろいろ事情があるんだよ。それにおかげで恋愛感情の雰囲気は掴めそうだ。恩に着る」


 明日はエルゼに話しかけよう。

 偽物かどうか見極めてやるのだ。


『なら良いのデス。でも、ワタシ、バンの思い浮かべた子、知りたいデース!』


「ダメダメ。さて報告は以上だ。明日からの方針が決まったしな」


『残念デース。……あ、そうデシタ。昨晩、霧宮島に討伐対象の吸血鬼が紛れ込んだ、という情報がアリマス』


「ほう。そいつの血等(ランク)は?」


 血等というのは真祖にどれだけ血が近いか、という等級だ。


『C級の可能性が高いデス』


 Cか。俺が訓練で倒せた最高の血等である。

 ちなみに真祖の息子がA、孫がB、ひ孫がCという感じ。


「よし、俺に任せろ」


『ダメデス! バンは今の任務を優先するコト』


「訓練の成果を見せる時だろ?」


『忘れたのデスカ? 吸血鬼が成熟したら、バンは完全に吸血鬼化するのデース! 一刻も早く標的を見つけナサーイ!』


「ぐう」


 ノーニャの言う通りなので何も言い返せない。


『それに、すでに担当のハンターが付いてマース。もしナニか情報を掴んだら、ワタシに報告するのデース!』


「了解」


 ノーニャを含めた機関が担当のハンターとやらに連絡するのだろう。

 俺はノーニャとの通信を切り、明日のことを考えながら眠りについたのだった。

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