第5話 主賓登場
王弟であるランスフォード公爵が主催するパーティーの主賓は、ランシェル・ハワード第一王子。
ゴールデンパールを溶かし込んだかような美しく艶めく金髪と、まるでサファイアのように神秘的な輝きを放つ深みのある紺青の瞳。
黒地に細かな金銀の刺繍が施された軍服風の夜会服は、細身ながら均整のとれた長身を優美に包んでいた。
ただ立っているだけでも人目を引く強烈な存在感は、一国の王子としてふさわしい。
王家の特徴が色濃く出た美貌の王子の登場に、陶然と見惚れる令嬢達が続出した。
「なんて素敵なの。このパーティーに来て良かったですわっ」
「ええ、こうした機会でないと間近でお目にかかれませんものね!」
「側近の方々もタイプの違う美形で素敵ね。婚約者の方がうらやましいわ」
と、令嬢達がはしゃいでいる傍で貴婦人達も色めき立つ。
「近頃は益々、陛下のお若い頃に似てこられて。わたくし、年甲斐もなくときめいてしまいそうですわ」
「ホホホッ、子爵夫人ったら。お気持ちは良く分かりますけれど」
「……これで邪魔なお荷物がいなければ、もっとよろしいのにと思ってしまうのはわたくしだけかしら?」
「いいえ。勿論、皆様そう思っていらしてよ」
「やはり例の噂通り、エスコートはあの女を……」
「ええ。本当に目障りですわ、あの毒花令嬢」
女性陣の熱い視線を集めている彼が同伴してきたのは、三人の令息と一人の小柄で愛らしい雰囲気の令嬢だった。
三人の令息はランシェル第一王子の側近で、王子の右後ろに控えているのが宰相の息子でもあるリアン・ブラッドリー公爵令息。側近達の中では殿下の右腕的存在だ。
男性にしては少し長く伸ばされたストレートの蒼髪が特徴的な優男風の青年で、ダフネ・マリー侯爵令嬢の婚約者でもある。
その隣を歩いているのがアンジュリーナ・ロウ伯爵令嬢の婚約者で、魔法省長官の息子でもあるジョナス・ハーバー伯爵令息。
内包魔力が多く、コントロールにはまだ難があるものの、稀少な複数属性の使い手として将来有望だと言われている若者でもある。
そして最後尾で鋭い視線を放っている大柄な青年が、ルイーザ・ヴァレンチノ辺境伯令嬢の婚約者で、将軍の息子でもあるクレイグ・バラミス侯爵令息。
騎士として鍛え上げられた立派な体の持ち主で、剣の腕も確かだということだ。ランシェル王子の警護も任されているらしい。
いずれ劣らぬ美青年揃いなため、彼らが一堂に会するととても華やかである。
それに今は、愛するサリーナのそば近くに侍れているのがよほど嬉しいのか、無駄にその美が輝いていた。
幸せオーラ全快の彼らの周りだけ、背景もキラキラして花でも飛んでいるように見える。
それぞれの婚約者のエスコートは直前でキャンセルするという暴挙に出たくせに、堂々としたものだ。
「はぁ、呆れましたこと」
「ええ、本当ですわね。ですがこれくらい、予想通りですわよ……」
「……言ってて悲しくなりますわね」
覚悟をしていたとはいえ、間近で見る羽目になったシルヴィアーナたちの目からは、完全に光が消えたのだった……。
そして、エスコートする王子の腕に絡みつくようにして身を寄せ、熱心に何かを話しかけている令嬢……。
彼女こそが、その素行の悪さから、影で毒花令嬢と呼称される、サリーナ・ボートン子爵令嬢である。
両手に花どころか、ランシェル王子以外に三人もの麗しい青年貴族を従え、ニコニコと微笑みを振り撒いている。
彼女が何か話すたびに好ましげに微笑んで聞いてくれる王子達を侍らせ、実に楽しそうだ。
フワフワとした柔らかそうな髪と大きな瞳は、共にピンクゴールド。
この国ではあまり見かけない、珍しい色彩だ。手折れそうなほど細い首や華奢な体つきは、一見して異性の庇護欲を掻き立てるような可憐さがあった。
サリーナは年若い令嬢らしく、身を飾ることが大好きらしい。
一度袖を通したドレスは着たくないのか、それとも毎回、社交場へいく度に新しいものを纏えるくらいの衣装持ちなのか……いつ見ても真新しいドレス一式を身につけているのだと言う。
それだけ彼女に貢ぐ男が多いのだろうともっぱらの噂である。
そんな彼女の今宵の装いは、ピンクダイヤモンドをメインに使った草花モチーフの装身具と、沢山の小花がちりばめられた、甘い雰囲気のピンクのプリンセスドレス。
オフショルダーなため、華奢なデコルテや、ふっくらと豊かに盛り上がった双丘を強調するデザインとなっており、守ってあげたくなるような愛くるしい顔立ちとも合わさって、アンバランスな魅力を放っていた。
――苦言を呈していた会場内の殿方達も、存在感を主張するあまやかな胸元には完敗のようで、引き寄せられるかのように熱い視線を向けている。
それに対して女性陣の方は冷静に、子爵令嬢にしては豪華過ぎるほどの、まるで一国の王女のような装いに注目していた。さて、今回はどこの誰にねだって貢がせたドレスなのだろうか、と。
会場中の視線を独り占めできていることを敏感に感じ取ったサリーナは、一瞬、優越感に満ちた顔をしたものだ。感嘆や羨望の眼差しを向けられているものだと信じて……。
――自分が貴族令嬢としてではなく、まるで商売女に向けるような視線を送られ値踏みされているなんて、まるで気づけなかったのである。
最新話までお読みいただきありがとうございます。
今回で主要な登場人物たちが出揃いました! 断罪劇まで後少し、お付き合いいただければと思います。
――読者の皆様へ――
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