表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/35

第4話 覚悟



「しっかりなさって、アンジュリーナ様。きっと今日でもう、この煩わしさから解放されますことよ」



 そんな友人を励ましているのは、ルイーザ・ヴァレンチノ辺境伯令嬢。彼女もまた、美しい令嬢だった。


 ルビーのような光沢のある髪に、強い輝きを放つ大きなエメラルドの瞳が印象的で、辺境地を治める家に相応しい意思の強さを持っていた。ちなみに、四人の中では一番背が高い。


 ヴァレンチノ辺境伯領は宝石の産出地でもある。


 髪飾りやネックレス、イヤリングやブレスレットなどの装身具は全て、彼女の髪色に合わせて選ばれたと思われる大粒のルビーだった。


 今宵のドレスがシンプルなデザインだからこそ、年若い令嬢が重ね付けしても上品に纏まっている。




「そうですわね、ルイーザ様。ここまで来ましたら、覚悟を決めるしかないですわね」


「ええ、わたくしたちの中ではアンジェリーナ様が一番、被害を受けておられますし、辛いお気持ちは分かりますが、気をしっかり持ってくださいませ。ちなみにわたくしはもう、見限りました」


「わたくしもです。信じたいと思う時期は、とうに過ぎてしまって……。ですが、あの方々の婚約者である以上、まだこの煩わしさが続くと思うと、ぼやきたくもなりますわ」


 ため息混じりに呟かれたダフネの言葉に、ここにいる四人全員が賛同するように頷く。


 婚約と言う家同士の大切な契約を軽視し、真実の愛に目覚めただの、恋愛は自由だなどとふざけたことを宣い、堂々とサリーナに群がる姿を見せつけられるのは不愉快だった。


 そもそも、婚約者を蔑ろにする殿方に、寛容になれる令嬢などいないだろうが……。


 それでも婚約者としての義務感から、突如として社交界に現れた、()()のような女性に吸い寄せられる婚約者達を諫めもしたし、引き止める努力もしてきたのである。


 例えそのことで、より鬱陶しがられ、関係が悪化するのが分かっていたとしてもだ。




「皆様のお気持ちはこのシルヴィアーナ、よく分かりましてよ。わたくしたちはあの方々の婚約者として、とても努力したと思いますもの。ですが、その努力が今夜、無駄になりそうなことは先程お話しした通りですわ」


 令嬢たちもそれぞれ手のものを使って、婚約者と浮気相手のサリーナの身辺調査をさせていたのだが、その中でもシルヴィアーナが雇った密偵が手に入れてきた最新の情報は、出来るなら信じたくない類のものだった。



「あの情報をいただいた時には、本当に驚きました。その場限りの軽口だと思いたいところですが」


「分かりますわ。まさかあのような計画を立てているとは……信じられません。おそらく、あの()()令嬢に良い格好を見せたいがため、なのでしょうけれど」


「ええ、本当に。殿方たちの胸の内一つですが……どのような結末になるのかは、この夜会が終わる頃には分かることでしょう」


 巻き込まれるのを避けられない。でも、出来るだけ被害は小さくしたいものだ。



「この期に及んでも、まだ、幼馴染みとしての情が捨てきれないわたくしは……弱いですわね」


「アンジェリーナ様のお優しさを否定するつもりはありませんわ。ですが彼らは本来、この国の中核を担う立場の方なのです。夢ではなく、現実を見ていただかなくては」


「シルヴィアーナ様のおっしゃる通りですわ。これ以上の手助けは殿方のためにもよくありません」


「……そう、ですわね」


 悲しげに目を伏せると、アンジェリーナは少し考えてからこう言った。


「では、わたくしは彼が熱に浮かされて、例の計画を行動に移さないことを祈っておりますわ」


「ええ。わたくし達のためにも、是非そうなって欲しいですわね」


「はい、ルイーザ様」


 アンジェリーナに、僅かだが笑顔が戻った。同じ立場で話し合ったことで、気持ちが落ち着いたようだ。


「それにほら、噂をすればあちらに。お見えになられたようですわよ」


 一人の令嬢が、スッと扇で指す方向に全員で目をやると、パーティー会場の入り口付近が騒がしくなっているのが見えた。



 ――この日の主賓の登場だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ