第34話 側近失格
「そんな貴方様だからこそ、お得意の魔法の腕を生かして欲しかった、真っ先に異変を察知し、側近として殿下をお守りするべきだった……と。そう、シルヴィアーナ様はおっしゃっているのですわ」
「異変……ですって? 魔法が絡んだ異変?」
ランシェル王子を危機に晒したと言われ、慌てて周りを見渡し魔力の流れを確認するも違和感はない。
いつも通りで、どこにも害意など無いように感じる。
「ジョナス?」
「殿下、僕には何のことだか……」
「まだ、お分かりにならないようですわね?」
「アンジュリーナ嬢……」
全く心当たりがないと首を捻るジョナスを見て、アンジュリーナは扇で口元を隠すと、ふうっ、と呆れたようにため息をつく。
(あの方とは大違いですわ。努力家の彼に、ジョナス様ほどの天賦の才の一端でもあればと、何度思ったことでしょう……無い物ねだりをしても、仕方がないと分かってはいるのですが……)
確かにジョナスは稀少な四属性魔法の使い手で、魔力量も多い。
魔物や兵士相手に力押しで魔法をぶっ放すだけならそれでいいのだろうが、彼は殿下の側近だ。
人の精神に働きかけるような繊細な魔術に精通していないのは、側近失格ではないだろうか。
見抜くためには地味な経験が必要なのに、その技量を磨いて来なかったのだろう。
分かりやすく派手な成果を好む彼は生まれながらの恵まれた力に溺れ、その隙をサリーナに付け込まれた事がこれでハッキリとした。
アンジュリーナは、今回の件で魔術捜査の協力してくれた優しげな微笑を浮かべる人を想った。
努力家で誠実な仕事ぶりの彼の評価がジョナスより低い事に理不尽さを感じ、複雑な気持ちになりながらもターゲットと向き合う。
「ボートン子爵令嬢はまだ、立てないようですわね」
剣聖の威圧スキルを浴びた後、腰が抜けたのかみっともなくへたり込み、リアンに介抱されているサリーナを見据えて言う。
「だって、怖くって。わたし……」
そう言って震えながら俯く。
ただ状態を確認しただけで、まるでいじめられたかのようなこの怯えようである。
露骨にか弱く繊細な令嬢の振りをされ、いつもの手口だと分かっていても気に障るしイライラしてしまう。
「アンジュリーナ嬢、彼女を怯えさせるようなことは……」
「わたくしが何をしたとおっしゃるのです? 何もしておりませんし、言ってもいませんわよね? ただ、彼女の状態を確認させていただいただけですわ」
そして反射的に何でも庇おうとする己の婚約者にも、うんざりだ。
あまりにも腹立たしくて表情だけは神妙に、皮肉交じりの言葉を投げ掛ける。
「床に座り込んだままでは、ジョナス様の大切なお姫様の体が冷えてしまいますでしょう? わたくしが心配してお声をかける事が、そんなにいけないことですの?」
「あ、いや、その……」
いつもは黙って言い返さない彼女から正論を説かれ、バツが悪そうに目を反らす。
「別に、貴女の気遣いを非難したわけでは……」
落ち着かなさげにモゴモゴと言い訳をするものの、彼女に謝罪しようとはしないジョナス。
彼からの軽い扱いに慣れてはいるものの、それでもチクリと胸の奥が痛んだ。




