第21話 違和感
「ル、ルイーザ嬢、貴女は一体、何をしてるんだ!?」
床に膝をつき、助け起こそうとして初めて意識が飛んでるのに気がついたリアンが、非難するように睨み付けてくる。
「クレイブは白目を剥いているぞ……」
「そうよそうよっ。なんて乱暴な人なの!?」
信じられないと言うように叫ぶサリーナ。
「あぁ、お可哀想なクレイブさま。なんにも悪いことしてないのに、ルイーザ様の鬱憤の捌け口にされてしまって……リアン様、おねがいです。どうかサリーナに彼を診させてくださいっ」
自分もリアンの隣に膝をつくと、ギュっと両手を組んで祈るように訴える。
「もしかしてわたしの特別な能力なら、お気の毒なクレイブ様を救えるかもしれません!」
「ん? 君の能力って……はっ!? そうか、治癒魔法か!!」
サリーナの懇願を聞いて、その手があったかと気づいたらしい。
「アレは優しい君に相応しい能力でしたね。むしろこちらからお願いしなくては……じゃあ彼を頼めるかな?」
「はいっ、お任せください!」
リアンに頼まれたサリーナは嬉しそうに頷くと、クレイブの方へ向き直った。
扇が直撃してたんこぶが出来ている額に手をかざすと、集中力を高めて魔力を溜めていく。
弱々しい白い光が徐々に手のひらから溢れ、ホワンっと患部を包み込んで……。
「……んぅ……っ?」
「クレイブっ、気がついたか!?」
リアン達が見守る中、クレイブが目を覚ました。
「リアン、サリーナ嬢? 俺は……」
「あぁっ、よかったですうぅ……クレイブさまが目を覚まされてぇ」
「君は扇の直撃をうけて暫く気を失っていたんだ。サリーナ嬢が治癒魔法を使ってくれたんだよ、ね?」
「はいっ、クレイブさまのためですからっ。一生懸命頑張りました!」
サリーナがニコニコしながら答える。
「ああ……サリーナが……そう、か」
「……? はいっ、とっても心配したんですよ? サリーナに、クレイブ様を救える特別な才能があってよかったですぅ」
いつもと違ってテンションの低いクレイブをいぶかしみながらも、自己アピールは欠かさないサリーナ。
「う、うん。ありがと、な」
「いえいえっ、治癒師として当然のことをしたまでですよぉ」
リアンとサリーナは大袈裟に喜んでいるが、それに対するクレイブの返答はどこか、歯切れが悪い。
大好きなサリーナに助けられたというのに、今までのような手放しの賛辞を送っていないのも変だ。
リアンは気づいていないが、目敏いサリーナはいつもと違う彼の様子に違和感を感じていた。
それがなにであるのかまでは分からなかったが。
――勿論、それには理由があった……。




