第16話 自業自得
「そうですよっ。殿下の寵愛を受けるサリーナ嬢を、嫉妬に狂った貴女が排除しようと動いた結果なのでしょうが……その事がどれだけ彼女を苦しめ悲しませたか分かりませんか?」
痛ましいげに声を震わせ、サリーナを庇うリアン・ブラッドリー公爵令息。
つい先程、シルヴィアーナから嫉妬などしていないと聞かされたことついては、都合良く忘れることにしたようだ。
サリーナをいじめる主な理由として彼女の嫉妬心をあげていたことから、不利になると判断したのだろう。
随分と身勝手な主張である。
「優しい彼女は誰も責めなかったんですよ。僕たちが問い詰めてようやく、躊躇いながら貴女達のことを教えてくれたんだ」
「そうだぞっ。俺達が側にいて守ってやらなければ、彼女に冷たい貴族社会では、今もきっと居場所がなかったはず。一人きりで耐え忍んでいたんだろう……こんな風に貴女達に傷つけられながらなっ」
リアンに続きクレイグ・バラミス侯爵令息も、いかにサリーナが健気で純真無垢な令嬢かということを力説してくる。
――ちっ、馬鹿馬鹿しい。
どこの世界に、次から次へと男達を誑し込み渡り歩く純真無垢な令嬢がいるというのだ。
目を覚ませと揺すぶって怒鳴りつけてやりたくなる。
「困りましたわね……事実を指摘しただけですのに。何度も言いますが、ボートン子爵令嬢の悪い噂は虚偽でも何でもありませんのよ?」
婚約者のいる殿方に馴れ馴れしく振る舞い顰蹙を買っていたのも、取り巻きの殿方を複数引き連れてパーティーやサロンに乱入し迷惑をかけたのも、紛れもない事実である。
厳格な身分制度を軽視し、男女の倫理観をも無視し、場の雰囲気を壊すクラッシャーを喜んで迎え入れる者などいない。
つまりは彼女の行動が原因で、自業自得なのである。
――それはサリーナが今夜、シルヴィアーナ達四人の婚約者を奪い取って堂々とパーティーに同伴したことでも明白ではないか?
今までと違うのはせいぜい、取り巻きの殿方の身分と参加する夜会の格式が高いものになったというだけだろう。
「信じられないことに、これでも噂のほんの一例ですのよ。沢山の方々が彼女の被害にあっておられるんですもの。わたくしとて全部は把握出来ておりません」
やれやれ困ったものだとため息をつきながら言う。
「そんなの嘘よっ」
「いいえ。嘘つきは貴女ですわ、ボートン子爵令嬢」
無礼にも公爵令嬢であるシルヴィアーナの言葉を遮り、被せ気味に噛みついてきたサリーナに向かって冷たく言い放つ。
「だってそうでしょう? 意図的に悪い噂を流すもなにも、貴女が女の武器を使ってなさっていたふしだらな行動の数々、わたくし達には刺激的過ぎて発想自体がありませんでしたもの。そうね、例えるなら……口に出すのも憚られますが、まるで客引きの酌婦のようなものなのかしら?」
「そ、そんなことっ、してないったら!」
顔を真っ赤にさせて、サリーナが叫ぶ。
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