第15話 証拠
「それに貴族社会に疎く、不名誉な噂を流されたサリーナ嬢には、私達しか頼れる者がいなかったんだ……」
「年頃の令嬢達から冷遇されていたのは、貴女方のせいでしょう? 彼女は令嬢方と仲良くしようと、自分から何度も話しかけていた。努力していたんだ。そんな健気な彼女を孤立させる原因を作った癖によくもそんな事が言えるっ」
ランシェル王子を始め、三人の取り巻きからも次々と責める言葉が出てくる。
四人いる令嬢達の中で一番身分の高いシルヴィアーナには、特に当たりが強かった。
「あくまでもわたくしが噂を流した黒幕だと……決めつけるのですね? そこまではっきりと仰るからには、確たる証拠でもあるのでしょうか?」
「彼女の口から直接聞き、実際に令嬢方に話しかけてもいつもサリーナが泣かされる事になっていたのをこの目で見た。十分な証拠だっ」
「殿下のおっしゃる通りです」
ランシェルの言葉に深く頷きながら、リアンが追従する。
「確かに貴女は直接、我々の前で彼女に何か仕掛けたというわけではないのでしょう。だからといってそれが免罪符になるとは思わないことです。社交界の華と呼ばれるほど影響力のある貴女なら、ご自分に都合のよいように噂を操作し、裏から令嬢たちを煽動することなど造作もないこと!」
「……」
念のために聞いてみると、ほぼ予想通りの主張である。
自信たっぷりに答えてくれたが、やはり証拠などなかったらしい。
サリーナの涙にほだされて、ただの推理と憶測、思い込みの類いで出来上がった中身のないふわふわした内容を、感情的に繰り返しているだけであった。
「……つまり、確たる証拠はない、と言うことでよろしいわね? わたくしを何が何でも悪者にしたいのはそちらの方なのではありませんの?」
「何を言う!? 自分の行いを棚に上げてシラを切るつもりかっ、見苦しいですよ!」
「ふんっ。いいだろう。そんなに言うなら、黒幕である犯人の名を、いまここで上げてみろ!!」
ランシェル王子がシルヴィアーナに向かってビシッと指を差し、そう怒鳴りつけた。
「そんなもの、ボートン子爵令嬢に決まっておりますでしょう? 考えるまでもないことですわ」
王子の無作法ぶりに頭の痛くなる思いをしながらも、きっぱりと犯人の名を叩きつけてやった。
「な、な、ななっ、なっ、な!?」
シルヴィアーナの指摘に王子は言葉が出ない様子だ。
「言うに事欠き、何てことを!! サリーナ嬢に謝れっ」
「ううっ。ひど過ぎますっ、シルヴィアーナさま! どうせわたしだけがランシェル様と打ち解けることが出来て、仲良くしていただいているのが気に入らないんでしょう?」
涙で濡れた目で正面に立つシルヴィアーナを見上げながら、切々と訴える。
「ご自分が政略のための形式的な婚約者で、全然愛されていないからといってサリーナのせいにしないでくださいっ。羨ましいからって悪者にしないでぇ!! わぁぁぁぁっ」
身も世もなく泣き喚くサリーナ。
まぁ彼女の場合は都合が悪くなるとすぐ泣き出すのでこれは予想通りだが。
見た目だけは華奢で可憐な美少女なだけに泣く様も絵になるが、相変わらず底意地が悪い女だ。
シルヴィアーナに毒を吐きまくっている。
これに気づけない辺り、王子達もどうかしているとシルヴィアーナは思った。




