第14話 言い訳
再びクレイブの心を手中に収めた彼女は、得意の泣き落としでルイーザを嵌めようとする。
「なのにっ、ルイーザ様はわたしが悪いって言うのね!?」
一度は止まりかけた涙を、再びポロポロと流してみせた。
「ご自分が婚約者の悩みに気づけなかったからといって、サリーナに嫉妬して八つ当たりするのは良くないと思います!」
そしてここぞとばかりにルイーザを貶める台詞をちゃっかりと叫ぶと、悲壮感たっぷりに泣き崩れ、男達の同情を誘う。
可憐な見た目に反してどこまでも強かで、毒のような女だ。
「そうだぞ、ルイーザ嬢っ。自分が出来なかったことをサリーナが解決したのが妬ましいからといって、彼女を侮辱するのは止めるんだっ」
泣きすぎて倒れそうになる彼女を慌てて慰めながら、頓珍漢なことを主張し責めるクレイブ。
騎士としての役目を放棄させたことを解決だと言うのか……ルイーザは一発、殴ってやりたくなる気持ちを苦労して押さえつけ、反論する。
「あら、本当に貴方のためを思うなら、国を守る騎士に自己研鑽の放棄をさせるなんてバカなことを薦め、堕落させるなんてことはしないはずですわ。貴族には特権に伴う義務と責任があるのですから。甘えは許されませんもの……それさえも彼女に誑かされて忘れてしまわれたのですか?」
「そ、そ、そんなことはっ、ないぞ!?」
「本当かしら? クレイブ様だけではなく皆様も……ひとりの女性にそのように複数で群がり、お仕事よりも彼女を優先されてはドレスだ宝石だのと散財し遊びまわられて、恥ずかしくないのですか?」
複数の男性を誑かして従え、貢がれている様は、まるで南方の国にあるというハーレムの女性版のようで……良識ある人々の眉を潜めさせるのに十分だった。
結婚前の女性には厳格に貞淑さを求めるこの国では、到底許されない振る舞いなのだ。
良識的な淑女なら、非常識な女に関わりたくないと近寄らずに遠巻きにするのも当然だろう。それに気づかなかったのは、渦中の殿方だけ。サリーナに骨抜きにされた者達だけだった。
「わ、わたし、やってませんっ。ルイーザ様が言うような、クレイブ様達をた、誑かし堕落させるなんてことっ。ううっ、なんでそんなひどいことを言うんですかぁ……」
「またそうやって心優しい彼女の気遣いを悪く解釈し、真実をねじ曲げるのか!? ありもしない罪を捏造してサリーナを悪者に仕立てあげるとはっ、この卑怯者が!」
「そうだぞ、彼女を侮辱するのはやめてもらおうっ。彼女自身が贈り物をねだったことは一度もないんだっ」
「ふんっ。君たちのような苦労知らずのお嬢さんには到底、分からないだろうね? パーティーに参加するドレス一式、揃えられないという辛さは。それくらいくらい金銭的に困窮していたことを、恥を忍んで打ち明けてくれたんだよ。僕たちはほんの少し援助しただけです」
「……ほんの少し、ねぇ」
ジョナスは力説してくれたが、その主張は到底、頷けるものではないとシルヴィアーナは思った。
――考えてもみてほしい。
ほんの少しと言いながら、ランシェル王子は国宝級の価値がありそうな、ピンクダイヤモンドまで買い与えているのである。
高位の貴族令嬢である彼女たちでさえ滅多に手が出せないような高額の装飾品を、婚約者でもない一介の子爵令嬢に贈っておいて、ほんの少しとかふざけたことを言われては堪らない。
「それほど見事な大粒のピンクダイヤモンド、わたくしもはじめて見ましたが、その贈り物でさえも……ほんの少し、ですの?」
「そ、そうだ!」
「……」
(その言い訳、さすがに無理がありましてよ)
婚約者にさえ、そのような高価な宝石は贈ったことがなかったくせに、あれを正当化してしまうとは……。
何と言っていいのものか……と、シルヴィアーナ達は殿方の自分勝手な言い分に呆れてしまう。




