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第11話 令嬢達の華麗なる反撃

 


 そして、彼らの蛮行をハラハラしながら心細そうに見守っている可憐で純真そうな美少女……の振りをしたサリーナ・ボートン子爵令嬢はと言うと……。



 次々と婚約破棄されていく令嬢達を見ながら、愉快で堪らないと言うように口角を上げたのだった。


 自分より遥かに身分の高い彼女達を見下すかのような、優越感に満ちた表情をしてみせる。ニタリと醜く歪んだ顔を、見せつけるかのようにシルヴィアーナ達へと晒す。



 愉悦を多分に含んだ卑しいその表情に、正面の婚約者に神経を集中させているランシェル王子達は気づけなかったようである。


 何故ならそれは、彼らの意識がサリーナに向かない瞬間を狙って行われたからだ。



 ――やはりこの女は毒を持つ花だ。油断ならない。



 口にも表情にも出さなかったが、四人の令嬢たちの心が一つになった瞬間だった。


 高位貴族の令息方を足掛かりにしてランシェル王子の側近達に近づき、着々と毒牙にかけていった()()令嬢。

 ついには王子にまで辿り着き、妙齢の女性に対する警戒心が人一倍強いはずの彼をたちまちのうちに骨抜きにしてしまったという、いわくつきの女。



 少しの荒事にも耐えられないという風情で縮こまって震えているようにみえる姿は、殿方を惑わせるための計算し尽くした仕草なのだろう。


 あと一歩で望みのものを手に入れられるという油断からか、それとも自分の方が愛されているという湧き上がる優越感を抑えきれなかったのか……この場で少々綻びをみせても構わないと判断したらしい。


 ……否、婚約破棄された直後の相手に今以上の絶望感を与えたかっただけかもしれないが……。


 晒された本性は一瞬で、すぐに俯いてしまって見えなくなったが、正面にいるシルヴィアーナ達が気づくには十分な時間だったのだから。




 表面上は淑女教育の賜物により崩れていなかったシルヴィアーナ達だが、彼女達とて年若い令嬢である。

 一生の問題である婚約の解消を一方的に突きつけられた今、全く動揺していない訳がない。


 それなりの年月を掛けて大切に育んできた婚約者との信頼関係を、ポッと出の子爵令嬢に壊された。


 一人の女に揃って心を奪われ、彼女の話だけを盲目的に信じ、こちらの話は聞こうとしない……大勢の貴族達がいる前で侮辱され、面白いはずがないだろう。


 たとえ、色恋の情はなかったとしても彼らに対して家族抱くような、親愛の情くらいは互いにあったはずなのに、それさえも捨て去るというのか。



 ――ここまで来たらもう、シルヴィアーナ達とて後には引けない。ついに、避けられない戦いの幕が上がってしまった。



 それは決して、恋に目が眩んだ頼りない殿方達とではない。


 強かに咲き誇る、毒の花のように危険な令嬢との間にである。


 シルヴィアーナ達は素早く視線を交わして微かに頷き合うと、しっかりと気合いを入れ直したのだった。




 ――令嬢達の華麗なる反撃が今、始まる。



 まずは、ランシェル王子達の婚約破棄宣言を一通り聞かされた婚約者達のなかで、一番身分が高いシルヴィアーナが口火を切った。


 表情を読み取られないよう、扇子を開いて口元を隠しながら……。


「まあ、殿下……それに側近の方々も。いきなりこのような場で何をおっしゃいますの? 非常識でしてよ」


 無駄かと思いながらも一応、嗜めてみる。


「ふんっ! 貴女の悪事を白日の元に晒すためにやむを得ず取った処置だ。こうでもしないと、いくらでも言い逃れをしようとするだろうからな」


「殿下のおっしゃる通りですよ。公爵令嬢という身分を笠に着て、子爵令嬢のサリーナにした嫌がらせの数々、ご存知ないとは言わせません!」


「忌々しいことに、僕達の婚約者が貴女の悪事に手を貸したことは分かっています。アンジュリーナ達を使って他の令嬢達をも煽動し、何の落ち度もないサリーナ嬢の評判を地に落とすような真似をしたでしょう? 今更、無かったことには出来ないのですよ」


 ランシェル王子に追随して、リアンやジョナスも非難の声をあげる。


 突然始まった婚約破棄宣言に続いて、自らの婚約者を貶める発言をはじめたランシェル王子達を、パーティ会場にいる招待客らも呆気にとられた様子で見つめている。




「何のことでしょう? わたくしもここにおられる皆様も、全く心当たりがございませんわ?」


「心当たりがないだと!? 醜い嫉妬心と権力欲からサリーナ嬢に私達に近づくなと迫ったことを忘れたか!?」


 シルヴィアーナの言葉に王子が声を荒らげる。


「あら、わたくしは別に彼女に嫉妬しておりませんし、権力欲なども特にありませんのに……」


「嘘をつくな!」


「はぁ、真実なのですが……まあ、よろしいわ」


 それ以上言っても無駄なことはシルヴィアーナには分かっていたので、苦々しく思いながらもここは早々に訂正を諦める。





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