願い
シムゥンはしばらく鏡に映った自分の姿とジオを交互に見ていた。
イオがそんなシムゥンに説明する。
「この者は、邪神様をなんとか修復して作りました。でも魂が宿ることはなかった……」
イオは涙ぐんでいた。
「ようやく念願叶いました。こうして邪神様が復活したのですから」
イオはシムゥンの肉体に邪神の魂が宿ったと確信していた。
「たぶん違う」
ぼそりとシムゥンが言う。
「え?」
「だから、さっきの詠唱やってってば」
イオは喜び、魔法使いたちに詠唱を唱えさせるのだった。
詠唱が響く中、シムゥンは鏡に映る自分を見ていた。
他人のような、自分のような……?
ジーラは不安げにシムゥンを見ていた。
「大丈夫」
シムゥンはジーラの手を握り、にこりとする。
小声でささやくと、また鏡を見る。
詠唱は続いていた。
* * *
詠唱が頭の中に響く。
それは心地いい響きだ。
これは邪神に力を与えるための詠唱。
シムゥンは力がみなぎるのを感じていた。
邪神に力を与えるもので、力がみなぎるということは……?
いろいろ混乱もしていた。やがて、思い出した。
かつて、たぶん生まれる前、ジュピターという名の青年だった。
彼は邪神と崇められ、魔法使いたちの信仰の対象にすらなった。
その正体は魔法が強いシミュレーションドールであった。
ジュピターは壊れたが、壊れる前に生まれ変わりの呪文を唱えていたこと。
生まれ変わりなんて信じていなかったが。
――もしも、生まれ変われるなら……
そんな淡いかすかな期待を胸に。
もし生まれ変われるなら、次は人間がいい。
出来れば健康で。家族に囲まれて……
そんなことを願った。
そうしてシムゥンは生まれた。
ジュピターの願い通りだったのだ。
* * *
「もう、いいよ」
シムゥンは、詠唱を唱える魔法使いたちを止めた。
「邪神様」
台座の上に座るシムゥンに魔法使いたちは膝まづく。
その場にいるみんなシムゥンの肉体に、邪神の魂が宿っていると信じ切っていた。
――違うんだけどな。
シムゥンはむっとしていた。




