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Crown of Thorns ( 日本語バージョン)

日本語バージョンです



茨の冠


登場人物 


ヘンリー

米軍に勤める通訳者。日系人。


一子

有人爆弾のパイロット。


バラクラバの男

米空軍諜報機関の者


クロイツ

なぞのドイツ人



セッティング

太平洋戦争が終わらなかった世界。

沖縄諸島、1952年十二月




第一場

  ヘンリーはハンモックで眠っている。ストーブで湯沸しが沸いている。テーブルには和風の茶器がある。ヘンリーはうなされてうめき声を出す。そして、叫ぶ。叫び声が響く。こだまが消えない間にささやきが部屋を満たす。それらは彼の夢に出る子供たちのささやき声で、徐々に近くなって彼を苦しめる。

  バラクラバを被っている「男」が登場する。静かにヘンリーに近寄る。脳天から爪先まで、黒い皮手袋も含めて黒い服を着ている。封印されたナイロンの袋からハンカチを取り出す。ハンカチを握り潰すとガラスの薬瓶が壊れる音が聞える。瓶の中身は布にしみる。「男」はハンモックの後ろに立つ。ハンカチをヘンリーの顔の真上に、精密に位置付ける。ヘンリーは苦しそうに呻く。男は立ち止る。ヘンリーを起こさずにハンカチを彼の顔に落とす。ヘンリーは呼吸混乱が発生したかのように、音を立てながら息をし始める。彼の呼吸は徐々に静まる。「男」は手振りで誰かを部屋に招く。

  白衣を着ている若い男性、「ドクター・クロイツ」が登場する。クロイツはブリーフケースを持っている。ブリーフケーズにはとある漫画キャラの(例えばポパイの)大型ステッカーがついている。クロイツは、顔がハンカチで覆われたままのヘンリーを見つめる。


クロイツ(ドイツ訛で)「ジャップは死んでないよね?」(男は頭を振る)あれをとってもいいか?(間。クロイツはハンカチを取る。油断して一瞬だけ顔をハンカチに近づけ、直ちにめまいがする)Zum Teufel!本当に強い薬である。俺らはミッテルバウでエーテルを使ったのに。効果はいつきれる?


「男」は手を上げて四本の指をだす。


クロイツ「四分だけ!じゃ、そろそろ仕事をしよう。この薬は有機物でしょう?アメリカの有機化学者の発明 」(男は頷く)なら熱はこいつを中和するはずだ 」


  ハンカチを茶碗に入れてからお湯を注ぎいれる。仕事を楽しみながら生きてきた彼は、踊りのような歩調で帰ってくる。ブリーフケースを開ける。その中には、この角度から我らには見えない装置がある。クロイツは装置から、先っぽに吸引電極がついたワイヤーを取り出してヘンリーの額につける。


クロイツ「ザ・ゲラードは準備終了だ。手下たちに刺激を起動するように言ってくれ 」


  とある投影機はヘンリーの上に旭旗のパターンを落とす。古い蓄音機で再生される「君が代」が聞えてくる。


クロイツ(装置をみる)「反応なし。皮質が休眠している。感動はない(男を見る)この人には、日本帝国への忠実がない(間)二番目の刺激を与えろ。


  旭旗は米国旗と入れ替わる。「星条旗」が聞える。


クロイツ「僅かな感情的な反応。並大抵の皮質性の活動。彼は貴方の国のことを愛しない。然し国に尽くす。それが正しいことだと教わったからだ(間)平凡な市民である 」


  電極を取り外してブリーフケースを閉じる。投影されている旗と音楽が消える。


男「なんかうさんくさいな 」

クロイツ「失礼だな。役に立つのだ、これは。アブウェーアの志願者をこの装置を使って試した 」

男「俺にはドイツ語がわからん。アブウェーアってなんだ?」

クロイツ「大した諜報部員だね、貴方は!アブウェーアとはドイツ軍の諜報機関だった 」

男「俺は太平洋戦地でしか勤めなかった(ヘンリーを見る)こいつも夢を見ているだろう?」

クロイツ「多分 」

男「彼らは皆同じ夢を見る。これはどうやって説明するんだよ?(間)女を見たのか?」

クロイツ「彼女は俺のことも相手にしない。元同盟国の人として近づいてみたんだが(頭を横に振る)俺は赤毛が嫌いだよ 」

男「彼女の髪は赤くない。なぜか彼女は髪の毛をその色に染めている 」

クロイツ「いえ。染めてなんかじゃない 」


  クロイツは出る。「男」は残る。ハンカチを取る。嗅ぐ。何の効果も感じない。ハンカチをナイロン袋に戻す。ヘンリーの顔を近く見つめる。出口のほうへ歩く。振り返って寝ている男に目をやる。ヘンリーは動く。「男」は出る。


  沈黙。空襲サイレンがなる。ヘンリーは目覚める。立ち上がろうとして跪く。腹を押さえる。


ヘンリー「夕べそんなに飲むんじゃなかったな 」


  ひょろひょろと立ちあがって茶碗から飲む。暑すぎて水を噴出す。


ヘンリー「何で熱いんだよ、畜生 」(サイレンを聴く)それを考えている場合か。シェルターに行かなくちゃ 」


  接近する飛行機の音。本当はジェット機ではないがジェットみたいな音をしている。それに、近いである!ショックウェイブが空気をかき乱す。シェルターに走る時間がないと気付き、ヘンリーはテーブルの下に隠れる。湯沸しは汽笛を鳴らす。ヘンリーは這いつくばって火を消す。飛行機が頭上を通り過ぎると音がドップラー効果によって低いベースになる。ヘンリーはテーブルの下にもぐり込む。しかし彼の両足ははみ出ている。爆発。そして、沈黙。ヘンリーは這い出て立ち上がる。彼の「二日酔い」はアドレナリンのお陰で治っておる。サイレンも沈黙している。


ヘンリー「カミカゼだ 」


(ドアはノックされる。ヘンリーはドアを開けるが大きくは開けない。)


ヘンリー「何のようですか? 」

男(外から)「心配するな。通訳者が欲しいだけ。邪魔させてもらう 」


  (間。ヘンリーは道を開ける。男は、バラクラバと手袋のままで入る。)


ヘンリー「僕は引退しています。いまどき日本語を話せる白人は沢山います。諜報部員の貴方だって日本を話せます 」

男「お前が通訳するべきものは日本語だけではない 」

ヘンリー「僕には他の言語がわかりません 」

男「疲れた顔をしているな。最近、不愉快な夢でも見ているのかい?」


  (間)


ヘンリー「違います 」

男「お前が見る夢の内容まで知っているぞ 」(椅子を引き出して座る。口を表すためにバラクラバーを引き上げる)お前は密林にいる。木はみんな歪んで木らしい形を失っている。病気的な見た目をしている。全ての木が一つの同体に融合している、一人で生きる力をなくしているみたいにさ。枝が空を隠している。お前は上を見ると目がある、お前はその視線に会って 」

ヘンリー「黙ってくれ 」

男(曖昧な手振りで)「お前はきっと勘違いしているね。別にお前のセラピストと話したわけじゃない。俺たちは医学の守秘義務を尊敬する 」

ヘンリー「ナンセンスです 」

男「彼女は何を言った? 」

ヘンリー「彼女って、誰のことですか? 」

男「ここは軍基地だろう。(手を上げて五本の指を出す)女は五人しかいない 」

ヘンリー「セラピストか?彼女は、全てがフロイト派のファンタジーだと思っています。例の。。。(痛そうな表情になる。これは簡単に口に出せる話題ではない)例の木は子宮のシンボルだそうです 」

男「然しそうではないとお前は知っている。なぜなら木には見覚えがなかったからだ。そんな木はお前の生まれ故郷カリフォルニアで育たない。勿論、真珠湾攻撃のあとぶち込まれたマンザナル・キャンプでも育たない。お前はあんな木を見たことがなかった。最初に見たのは、基地の図書室から日本の植物相に関する本を借りたときだ。さすがにフロイト博士でも、見たことのない木を人の夢に出せない 」

ヘンリー「セラピストと話さなかったとしても図書室員とは話したようですね 」

男「お前が本を借りたときは、俺も図書室にいた。お前は俺に気付かなかったけど。(バラクラバを示す)あのとき、これを履いてなかったから。で、なんだったんだあれは?」

ヘンリー「は? 」

男「木のことを聞いているんだよ、ヘンリー 」

ヘンリー「あれはクリプトメリアの木。。。日本の特産植物です 」

男「ところで、それらは病気ではない。その、クリプトメリアたちは。お前の夢に出てくるやつら。病気みたいに見えるがそうでもない 」

ヘンリー「いえ、病気でしょう 」

男「違うよ 」

ヘンリー「本の写真をみました。元気なクリプトメリアたちはあんな。。。恐ろしいものとは大違いです 」

男「元気?その話はどこから来た?俺は元気という言葉は言わなかった 」

ヘンリー「貴方は木は病気ではないといったのです 」

男「確かに病気ではない 」

ヘンリー「僕にはなぞを解ける趣味はない 」

男「それは残念だな。(間)ミューテーションだよ、ヘンリー。お前が見たのはミューテーションを被った日本の木だ。そんな木を誰も、沖縄人たちさえ見なかった。なのにやつらは人々の夢に登場している。日本人だけの夢にな。白人はそういう夢をみない。アフリカ系の人たちも見ない。見るのは日本人のみ。面白いだろう?いまさらなぞに興味がないとは言わさないぞ 」


  (沈黙)


ヘンリー「貴方は私をもてあそんでいるだけです。貴方みたいな諜報部員はそういうことがすきでしょう。これは何らかのいたずらです。(湯沸しからお茶をいれる)それらの木は僕の悪夢に過ぎません。あれだけ歪んで生き残るものがいるはずがありません。(お茶をすする)冷めています。今日はついてません 」

男「信じてくれないなら写真を見せてもいい。日本の空を飛ぶ米軍の偵察機はいつもその森を観察してる 」


  男は黒いスーツの中に手を入れて写真を取り出す。ヘンリーはパニックになって茶碗を落とす。


ヘンリー「あの写真をしまってください!僕は見たくありません 」

男「お前、何を怯えている? 」

ヘンリー「写真を見たら本物になってしまいます 」

男「誰が?」

ヘンリー「あの森です!」

男「すでに本物だよ、ヘンリー。それが問題なんだ 」

ヘンリー「然し僕にとって本物になってしまいます!」

男「なんかよくわからないが、まぁいい。お前はそうして欲しいなら。。。」(写真をポケットに戻す。ヘンリーは深呼吸をしている。間をおいて、男は立ち上がる。茶碗をもって慎重に見る)本物か、これ?

ヘンリー「違うと思います。那覇で買ったものですから 」

男「那覇にはまた店があったのか?日本からの生物攻撃で町は漏れなく汚染されたのに。

ヘンリー「去年買いました 」

男「じゃ、メイド・イン・アメリカだろう。シアトルには、こういうものを作る工場がある。勿論、輸出品として(間)俺には、本物のジャパンウェアがある。伝統的に漆塗りされたものだ。タラワで、とある日本兵のリュックにあったのだ。

ヘンリー(驚く)貴方はタラワの戦に参加しましたか?

男「そんなわけあるか!俺は諜報専門家だ。タラワが中立になったあと、日本軍の暗号書を探しにいった。然し、あの洞窟は凄まじかったぞ。どこにも血液と人間の肉の欠片がべたついていた。土産になりそうなものはほとんど取られてたんだが、俺の目に壊れた陶器がついた。皆は盗むのに値しないだと思ったに違いない。陶器はよく見ると、戦闘中には壊れたのではなかった。最初から壊れていたんだ。俺は、日本兵が壊れた食器を持ち歩いたのを不思議に思った。好古家にあれを見てもらった。そうすると、五百年前に作られたものだった。大の値打ちがあると好古家が言った。然しもう高価なものでなくなっている。俺が見つけた陶器は、1945年をもって値段の半分を失った。1946年にも、それからの毎年も値段の半分を失った。今はもうゴミみたいなものだ。誰も日本人のことを忌み嫌うから。あっ、御免な、ヘンリー。勿論、お前のことではにい 」

ヘンリー「長い戦争でしたからね 」

男「もう十一年になっているし、終わってもない。お前らは本当に手を上げるところをわからないやつらだな 」

ヘンリー「貴方の食器が値打ちを失って本当に惜しかったです。日本が降伏しないでご迷惑かけたことも不幸に思っています 」

男(遮る)「いえ、大丈夫。将来は高く売れるかも知れない。日本人が絶滅したらね 」

ヘンリー「ですがこの話と僕の関係がわかりません。僕はアメリカ人です 」

男「日系米国人たちは、日本人の心へのガイドになるはずだった。俺達は、原子爆弾を投下すると日本が降伏すると思っていた。原子爆弾を一つ、また一つ、また一つ落とした。何も起らなかった 」

ヘンリー「上陸という手がありました 」

男「あれはタラワのあとになくなった。あの島は戦闘が終わってからでも見ると俺をぞっとさせたような場所だ。タラワのあと、サイパンのあとは上陸が不可能となった。勿論、硫黄島のあとも。俺たちは正気だから 」

ヘンリー「はたしてそうでしょうか?」

男「この島のために何人のアメリカ人が死んだか知っている?」

ヘンリー「沖縄の戦では2万人の兵士が亡くなりました 」

男「日本がここの奪回を目指して仕掛けた二つの攻撃を計算に入れてない(ヘンリーに指を刺す)「お前ら」は気付いたんだろう。やつらが諦めないことに。やつらの体に流れる血にはそういう素質がない。お前の血にもだ。然しお前らは黙っていた 」


  ヘンリーはため息をつく。男から離れる。議論できないほど疲れている。茶碗を取り上げて、下に何か書いているかとチャックする。茶碗をテーブルに置く。


ヘンリー「通訳者が要るって言いませんでした?」

男「手伝ってくれるのか?」

ヘンリー「場合によってね。先ずはわけを説明してください 」

男「無理やり手伝わせることもできる。わかっているだろう、ヘンリー 」

ヘンリー「ならそうしてみてください 」


  (間。二人はお互いににらみつける )


男「わかったよ。お前の勝ちだ。俺には十一年間も待てないからな。問題は日本軍のロケット飛行機だ 」

ヘンリー「ロケットって、どっちのこと?日本は毎日ロケットを打ち上げています 」

男(怒る)「まったく。あいつらは日に日にロケットで俺達を襲ってくる。だがお前は通訳者だ。お前を誰にあわしたいと思ってるのよ?カミカゼ・パイロットの焼き焦げたナキガラとでも?」

ヘンリー「出来るなら生きた人でお願いします」

男「確かに生きている。パイロットはこの島に二ヶ月前に着陸した。墜落したんじゃない、着陸したんだ。俺達、最初は故障か何かと思っていた。然しロケットは最初からソフトランディングをするように設定されていた 」

ヘンリー「パイロットが怖気ついたかもしれません 」

男「違う 」

ヘンリー「どうしてわかるのですか?」

男「弾頭はなかったから。爆薬も、ガス爆弾も。何もなかった 」

ヘンリー「然し二ヶ月もたっています。彼を尋問しなかったのですか?」

男「尋問?誰を?」

ヘンリー「パイロットをです!」

男「パイロットは体に日本人の血が流れない人と話さないことを断言した 」

ヘンリー「積極的に取り扱えばどうです?」

男「拷問しろ、と言っているのか?」

ヘンリー「積極的に、と言っています。手段にこだわらず 」

男「そりゃだめだ。パイロットは使者と名乗っている。大使は粗末に扱わない 」

ヘンリー「使者?(疑わしく)日本はようやく平和を結ぶ気になりましたか?」

男「それはわからない、ヘンリー。使者は俺達とは話してくれない。日本人と話せろと言い張っている 」

ヘンリー「日系人の通訳者が必要なわけか。然しなぜ二ヶ月も待ったのですか?なぜ、僕を二ヶ月前に呼ばなかったですか?」

男「お前は夢を見ていたから。(間)お前のセラピストとは話してないが、彼女との最初のアポイントは十月十日だったって知っている。その日付は使者が来てから六日後だ。その日から、島中の全ての日本人はおかしな夢を見ている。あの森と例の木の夢を 」


  (沈黙)


ヘンリー「どうして?」

男「俺が知るか?こっちがお前に聞くつもりだったよ 」

ヘンリー「空軍があの怪しそうなドイツ人たちを呼び入れたのも、そのせいですか?」

男「知っていたのか?」

ヘンリー「小さな島ですから。噂くらいは流れます 」

男「その「怪しそうなドイツ人」たちはわが国のトップ精神医学者なんだ。彼らにさえこの状況は把握できない 」

ヘンリー「悪夢はなぜ見ているか知りません。然し本当に恐ろしいです。もし原因が僕の指の一つにあるといわれたら一本、一本と切り落したいくらいです 」

男「丁寧に質問したらあの日本人のパイロットが教えてくれるかもしれない 」

ヘンリー「どんな人ですか?彼 」

男「誰?」

ヘンリー「パイロットですよ!」

男「見た目は日本人にそっくりだ。赤い髪の毛を除いて 」

ヘンリー「日本人はけして赤毛を生やさない 」

男「知っているぞ、そんなことくらい(間)医者によるのごく稀な病状、何らかの皮下出血らしい。パイロットの頭皮から血が出ている。昔、あのような人がよく動物園にぶち込まれた。手伝ってくれるのか?」

ヘンリー「その前に、僕が選ばれた理由を教えてください。日系人の通訳者ならほかにもいます 」(間。ヘンリーは男を近く見つめる)僕は貴方とどこかであった事がありますか?貴方は僕のことを知っていますか?それだから貴方は僕を選んだのですか?」


  (間)


男「そうかもしれない 」(ヘンリーの肩をたたいてドアのほうへ歩く。ヘンリーは立ち上がろうとする)そのまま。お邪魔した。使者は午前二時に第三尋問室にいる。お前も来るんだよ 」


  彼が出るあいだ、舞台は徐々に暗くなる。ドアが閉まる音。一線の光が、床に置かれたクロイツのブリーフケースに当たる。男はその光の中に踏み入れる。


男「なんなんだよ、いったい 」(マスクを脱ごうとする)

クロイツ(影の中から声をかける)「やらないほうがいい。見えるから」

男「クロイツ 」

クロイツ「彼を告訴なんかして、君は不公平だったぜ 」

男「ヘンリーは別に犯罪に問われていない 」

クロイツ「日本が降伏しないことを予想出来なかった件だ。彼にはそんなことがわかるすべはなかった 」

男「彼は日本人だ 」

クロイツ「そこから少し離れてくれないか。あの機械は壊れやすい 」

男「ていうか、なんなんだこのものは?何をする機械だ?」

クロイツ「人の心を読む 」

男「そんなわけあるか?以心伝心は存在しない 」


  彼がさがるとクロイツは近寄る。


クロイツ「心を読むのは空を飛ぶようなものだ。特に難しいことではない。やりこなした人さえみて真似出来たらね 」

男「じゃ、俺はどうなるんだよ?人を尋問して秘密をはかせるのが俺の仕事なんだ 」

クロイツ「お前は廃れるのだ、兄弟(ブリーフケースを手に取る)あまり気を落とすな。沢山なものはこの戦争で廃れた。限りなく続いているから 」

男「十一年間 」

クロイツ「まだまだ続きそうだ(間)俺の。。。アメリカ人になってからの初仕事を知っている?俺は。。。あの言葉はなんだっけ?求める。俺は預言を求められた。1945年の話だ。俺のボスは日本がいつ降伏するか知りたかった。アジアの文化、アジアの考え方を勉強したドイツの心理学者は俺だけだった 」

男「で、お前はボスに何を言った?」

クロイツ「八月 」

男「八月って、どの年の?」

クロイツ「八月だけ。俺の預言は当たらなかった 」

男「じゃ、計算が間違ったんだ 」

クロイツ「違う。俺の予測には狂いはなかった。ドイツと違って、日本の軍国主義はダーウィン的構成部分に欠けた。俺らはユダヤ人とロシア人のことを猿だと思った。けだものに囲まれた猟師は、殺されることに悟ったら何をする?戦うでしょう。降伏なんて思いも寄らない。日本人はそうではなかった。彼らが褒め上げたのは人種のことではなく、国のことだった。捨て身で戦っても国を救えなくなった瞬間に彼らは諦めるはずだった 」

男「然し日本は降伏しなかった。今、あの国は。。。(頭を振る)都市も文明も、何もない。緑色の虚空だ 」

クロイツ「それでも彼らはまだ戦っている。日に日にロケットを打ち上げて。さっき診たあの男。。。あのヘンリーは、こうなるとはしらなかった 」 

男「彼も日本人だ。きっとわかっていたんだろう 」

クロイツ「いえ。彼はお前が怖かった 」

男「俺は諜報部員だから 」

クロイツ「二ルンベルクでは、アメリカ人の手で十一人のナチが処刑された。ローゼンベルク、リッベントロップ、サイズ=インクヴァルト、カイテル、エトセトラ。縛り首にされるところで彼らは全員泣き出したらしいな 」

男「そんなことはない 」

クロイツ(愉快に)「そうなの?本当か?全員ではなく、数人が泣いたとでも言うのですか?あるいは、泣いたのは一人かもしれない 」

男「答えは知っているだろう 」

クロイツ「だから言ったじゃないですか?心を読むのは難しいことではない。二ルンベルクではだれも泣かなかった。やつらは自分の人種の優秀さに確信する男達だった。全く穏やかに死を迎えた。それが、ダーウィン的構成部分である 」

男「日本に足りないものはそれか 」

クロイツ「いえ。日本はそれを持っている。然しヘンリーは持ってない。だから彼は怖がっていた 」

男「前の話と違うじゃないか 」

クロイツ「俺は、日本にはかつてダルウィン的構成部分はなかったと言った。確かに、昔はなっかた。だが現在、その成分が出来ている。多分、お前らのお陰かさ。日本はあれを持っている。俺は見たのだ 」

男「見たか。どこで?」

クロイツ「使者の目に。あの日本人の女がお前に送った視線に見た。俺に向けた目つきにも。生まれてない人々に対する救世主たる信頼。人間進化の次の段階。前にも、あの視線を見た事がある。とあるドイツ人の気違いにもその目付きがあった。彼の名前までは口にしない。然しとても有名な男だった 」 


  舞台は暗くなる。


第二場

とある尋問室。一脚の椅子がある。そこには若い女の子、一子が座っている。一子は髪が長くて真っ赤である。目を閉じている。部屋の片隅でクロイツが立っている。彼は一子をじっと見詰めている。彼は手にはもう一つのブリーフケースを握っている。このブリーフケースには別の漫画キャラクタ(例えばベティー・ブープ)のステッカーで飾っている。沈黙。クロイツはゆっくりとブリーフケースを開ける。その中から、1940年代風の大きなヘッドフォンを持ち出す。ヘッドフォンは、ブリーフケースの中にある装置に繋がっている。


クロイツ「ミッテルバウには女の子がいた。ジプシーの女の子。彼女の体には極めて珍しいアシメトリーがあった(自分の胸に手を当てる)彼女の胸。胸が異状だった。彼女がキャンプに来る前、それを誰も知らなかった。彼女の友達、フィアンセですら知らなかった。彼女は詰め物を使っていた。そんなことをキャンプの公共風呂場では隠せない。俺は奇形を報告する囚人にご褒美としてエキストラ食料をやったから。まぁ、劣等人種ってみんなは奇形だらけだが、クララは特別であった。クララ。それが彼女の名前だった。(ヘッドフォンを方耳によせる。一子から目を放せず慎重に聴きはじめる)彼女は片胸がとても小さかった。リンゴくらいの大きさだった。(間。一子は動かない)俺は先走りをしているかもしれない。ある日、キャンプには事件が起った。俺達は、囚人の宿舎にはマイクロホンを隠しておいていた。ある日、一個のマイクロホンはドイツ軍のスターリングラッドでの敗北を語る二人のユダヤ人女性を傍受した。あの時は、ユダヤ人が気を高めるため造った噂かと思った。なぜか知っている?俺たちは、俺達の軍が負けたとは知らなかったからだ!報道管制がその事実を隠していた。敗北の件は俺達が知る前にユダヤ人達が知っていた。ワイス司令官はかんかんになって、ガードたちを殴った。愚か者。勿論ガードたちの仕業じゃなかった。俺は適当に選んだ数人の女性を尋問した。噂を出所まで追跡した。クララ。彼女だった。俺のラボラトリーにいた検体。彼女は、全てを夢で見たと言った。ある日、あたしは病気になって。熱を出した。眠りに落ちた。夢の中で、あたしはあたしの弟だった。ドイツ人の士官達の靴を磨いていた。彼らは喋った。あたしはただ、ジプシーの靴磨きだったら彼らはあたしのことを気にも留めなかった。彼らはスターリングラッドという町のことを話していた。そして、冬のことを。敗北のことを。彼ら緊張してて難しい顔をしていた。(クロイツが聞く音を我らも聞く:ヘッドフォンから、ガイガー計数管のような音が出ている。クロイツはその音に反応する)これからの部分は話のオチなんだ。俺達はクララの弟を見つけた。彼はウィーンに住んでいた。本当に、二人のSSヤロウがスターリングラッドのついて話しているところを耳にしたんだ。俺は実験をした。クララの弟がちょうど午前二時で射殺されるように命じた。ウィーンの町とミッテルバウの間には時差がない。クララはラボラトリーにあるベッドで眠っていた。俺は隣で待っていた。わくわくしながら待っていた。然し午前二時が過ぎた。何も起らなかった。夢は、人間の記憶に数分にしか残らない。すぐに忘れられる。おかしな夢を見たかと聞こうと思って彼女を揺らした。彼女はまぶたを開けた。然し目覚めなかった。緊張病を発生していた。動けなくなっていた。俺は酷く悔しかったよ。俺の実験は成功していたのだ。彼女は本当に弟さんの死亡を見たのだ。然し俺は貴重な検体を無駄にしたのだ。彼女は二度と我に返らなかった。(装置からの音が強くなる)君もそのような夢を見るか?クララは本当にユニークだった。前にも言ったように、彼女の胸のサイズは極めて非対称的だった。それに彼女のヴァギナは成長してなかった。子供のものみたいだった。俺はワックスで彼女のヴァギナの形を取った。それをつねに、お守りのつもりで身に着けている。見たければ見せてもいい。とても小さなものだよ、十歳の少女のものみたいだ 」


一子は顔をしかめる。装置の音は圧倒的に強い騒音になっている。クロイツはヘッドフォンを耳から外すと音が消える。


外から誰かがゆっくりと拍手をする。「男」はヘンリーを連れて登場する。彼が拍手している。


男「今まで聞いた話の中でもっとも感動的なのはお前の話だった、クロイツ。小説家になれば?」

クロイツ「俺にはフィクションを書く才能はない 」

ヘンリー(ショックを受けている)「パイロットは女だったのか?」

男「言わなかった?そう、ロケット飛行機のパイロットは女、しかも可愛い女だ 」

クロイツ(偏見的)「可愛い?あの平らな鼻と無骨な頬を見てみろ 」 

男「当たり前だろう。彼女はアジア人だよ、クロイツ 」

クロイツ「貴方の相棒もね 」

男「俺の通訳者だ 」

クロイツ(ヘンリーに)「俺は彼女に話をかけてみた。然し彼女は俺を相手にしない。名前は一子らしい。自己紹介してくれ 」

ヘンリー「彼女の苗字は?」

クロイツ「一子 」

ヘンリー「それは苗字ではありません。一子と呼ぶと失礼になります 」

男「彼女は一子としか名乗らなかった 」

ヘンリー(一子に近寄る)「使者夫人、私はヘンリー・カタオカと申します。カルフォル二ア州フレモント市から参る二世日系人です。このたび、米国陸軍航空軍を代表させていただくことになっております。ご貴国が外交の再建を望んでいるとお聞きしました 」


(間)


クロイツ「彼女は反応を示さない。だが、戦争が開始してからもう十一年になる。日本語は時が立つにつれて進化したかもしれない。この「ヘンリー」という男の言葉が彼女に通じるとは限らない 」

男(クロイツの顔を見ずに)「通じるよ。最初についたとき喋った。俺は彼女の声を聞いた 」

クロイツ「ほほぉ 」(深い意味を込めた目付きで)で、彼女は貴方に何を言った?」

男「俺と話したわけじゃない。俺はたまたま近くにいただけだ。続けろ、ヘンリー 」

ヘンリー「私の同僚たちは、諜報部からの観察者と、カルフォル二ア大学からの専門家であるクロイツ博士です。貴女は日本人の通訳者を要求なさったのです。好意の証として貴女の要求は承知されました。その代わりに私達は、貴女の訪問の間に日本がロケット攻撃を控えることを要求いたします 」

クロイツ(ヘッドフォンを聴く)「俺達のことを気に入ってもらえなかったようだ、ヘンリー。この機械は百匹のセミみたいに鳴いている。つまり、彼女は混乱している 」

男「彼女の気持ちなんて、知るか 」

クロイツ「あなた達は嗅ぎ取らないかい?この部屋は血の匂いがする 」

一子(目を閉じたまま)その男は。。。カルコリニア人なんかじゃない 」


(間。ヘンリーはクロイツに目をやる。一子に振り返る)


ヘンリー「おっしゃるとおりです、使者夫人。彼はドイツからの移住者です 」

一子「彼は犯罪者だ 」

男「彼が話したことを我らも聞きました。クロイツ博士は貴女が会話を拒まないように、些細な戯れをしたと私は思います。所詮、彼は精神医学者ですから 」

一子「違う。全部本当のことだった 」 


ヘンリーは「男」を見つめる。男は頷ける。


ヘンリー「私達の要求を受け入れてくださるのですか?カミカゼ攻撃が一つでも起きたら交渉が台無しになるかもしれません 」

一子「受け入れよう。日本が、平和的な目的の上にロケットをうちあげる可能性はある。然し「カミカゼ」攻撃はけして起らない 」

ヘンリー「早速ですが、日本政府にご連絡下さい。通信装置を我らが提供いたします 」

一子「その必要はない。政府はすでに貴様達の。。。要求を知っている 」

ヘンリー「知っています?どうしてですか?」


(間)


男「貴女はすでに俺達の条件を知っている。無条件降伏。日本は降伏して占領される。さもなければ戦争が続く 」

一子「それらは条件ではない。催促だ。何も譲れず全てを欲しがると公証する余地がなくなる。我々としては、戦争はとっくに終わったと思っている。現在私達がやっていることは戦争ではない 」

男「貴女達のカミカゼ・ロケットは前週、一隻の船を沈めた。水兵二十五名が消えてしまった。どう見ても戦争が続いている 」

一子「戦争と言うものにはメソッドがあり、目的と終わりがある。お互を向き合う二つの島に居座って目に見えない敵を爆撃するのは。。。戦争とは呼べない 」

男「じゃ、何と呼べばいい?」

一子「ヴェンデッタよ 」

クロイツ「俺にはその言葉がわかりません 」

ヘンリー「血の復讐って意味。南ヨーロッパや中東によくある話だ。一族がほかの一族を襲う。殺害のあとを復讐の殺害が追う。一度始まったら何十年をわたって続く争いだ 」

クロイツ「なぜ、そんなことを?」

ヘンリー「わかりません 」

男「名誉だ。殺す事が名誉、生きる事が恥になるとヴェンデッタのあとは絶えない。(一子に)ヴェンデッタとは元々コルシカ語の言葉だ。日本人の人が知るとは意外だ 」

一子「私も。。。この島に来る前にその言葉を知らなかった 」

男「誰から聞いたのか?」

一子(ヘンリーを見る)「彼から聞いた。私達の条件を聞くのか?」

男「聞いてもいいが、保障は。。。」

一子「私は貴様に話していたのではない、米国人。忘れたのか?私は自分の種族にしか話さない 」


(ヘンリーは男を見る。男は肩をすくめる)


ヘンリー「私は聞きます、使者夫人。そして、条件を上官がたにお伝えします。それが私にできることの限界です 」

一子「よかろう。日本は二つの条件つきで平和を提案している。一つ。私達の島々を引き払うこと 」

ヘンリー「然し我らは日本を侵入したことがありません 」

一子「いえ。侵入したのだ 」

男「この人は別の世界からでも来たのか?アメリカの軍人は、たとえ一人でも日本に足を踏まなかったぞ 」

クロイツ「日本の上で撃墜された飛行士を別としたらね。空襲に出たきり行方不明になった数千人はどうなったのだろう? 」

男「やかましい。(ヘンリーに)俺達は日本を侵入しなかった 」

一子「ここが日本だ。(立ち上がって足を踏み鳴らす)貴様達が立っているこの場所が日本だ。この列島は私たちのものだ。取り返してもらう。ポーツマス条約の直後をもって日本の一部だった地方は返還されるべきだ 」

男「それは沖縄、フォルモサ、ボニン諸島、クリル諸島、そしてサハリン(鼻から見くびる音を立てる)ふざけたことを。。。」

一子「全ては私達のものだ 」

男「俺達はクリル諸島をロシアに渡した 」

一子「貴様らが勝手に渡したくらいでロシアのものにはならない。その諸島は200年以上も前から日本の一部だ 」

ヘンリー「私達はこのメッセージをワシントンに伝言いたします。私達が決めることでは。。。 」

男(遮る)「これがどんな反応を起こすか目に浮ぶぜ。この提案を会議は一笑に付するだろう。(肩をすくめる)まぁ、万が一、デューイ大統領は沖縄を日本の支配下に戻すかもしれん。表向きには、そうするかもしれない。然しこの列島の作戦的な重要性は大きい。アメリカはここの軍基地をけして放棄しない 」

一子ヘンリーに「日本にいる一人の米国軍海兵隊でさえ日本の主権侵害になる。その男には、米国人がここに残る限り平和にならないと伝えろ 」

男「あのな、女。この沖縄に何人の米軍人がいるとしっているか?」

一子ヘンリーに「私はこの男の質問には答えない 」

男「またそれか?どうせ答えを知らないだろう 」

一子「私達の諜報機関の推測によると、六万人 」

男「はずれ 」

クロイツ「いや、当たっているだろう。これを誰に教わった、えっ?土人たちが君たちに情報を送っているかもしれない。どうやって?短波ラジオ?瓶に入れた手紙?」

男(怒った声で、クロイツに)「はずれだ!沖縄には十万人の米軍人がいる。その六十万は地上で働いたり、レーダー基地を操作したり、日本からのガス爆弾が残した汚染を浄化したりしている。さらに三万八千人は地下に眠っている。二万人は俺達が侵略したとき死んだ。ついでに七千人が、日本が沖縄を奪還しようとしたとき死んだ。一万一千人が年月にわたって死んだ。特攻機に命を落としたやつらがいる。日本人がロケットの作り方を学んで、ロケットに人を乗せ始めてから殺されたやつらのほうが多い。この列島には三万八千人が眠っている。その中に俺の隣人も親友もいる。俺達はこの島を去らないぞ 」

一子「なら、沖縄の米国人人口がこれからも増える。地下に眠る男達に仲間が加わるたびに 」

男「けしからん!天皇は世界を原状に戻せると本当に思っているのか?俺達が勝ったぞ!俺達が勝者だ。切り札は全て俺達の手にある。海は俺達のものだ、空も俺達が支配している!」

クロイツ「君達は空域を支配している 」

男「空港、空、同じものだ 」

クロイツ「そうかね?その二つの言葉を同意語とは思えない。空域は母なる地球を包む細い気体のことだ。然し空は。。。無限である。空のほとんどすべてが真空、つまり宇宙だ。日本人はそれを航空する方法を見つけたのだ 」

男「見つけたのではない!お前らドイツ人が教えたのだ。日本に設計図、図解、ロケットエンジンに関する情報を送ったのはお前たちだ 」

クロイツ「技術の出所がどこにあろうと、日本人の少年は沖縄、硫黄島、北京までロケットを飛ばしている。君達には彼らを止められない 」

男「そうとう美味がっているのだな、クロイツ 」

クロイツ「その言葉がわからない 」

ヘンリー「楽しむという意味です 」

クロイツ「勿論。勿論楽しい。医学のものにとって、インテリにとっては絶頂の喜びである。一子さんは日本から来た使者だけではない。君達は気付かないのか?今俺達は、宇宙を飛んでから生還した最初の人間を目の前にしている。大した偉業ではないか?」

男「俺にとってはどうでもいいことだ。会議にとってもそうだろう、ジャップたちがサン・フランシスコを爆撃できるほど大きなロケットを作らない限りな 」

クロイツ「兄弟よ、人種差別用語を使うのを辞めましょう 」

男(憤怒してドアのほうへ歩く)「まったく。よりによってナチやろうに人種差別主義者と言われるとは(ヘンリーに)もう一つの条件を聞いてみろ 」

ヘンリー「使者夫人は、条件が二つあると仰りました。二番目の条件は何でしょう? 」

一子「貴様らのリーダたちが最初の条件に応答するまで、その条件は発表されない 」

男「ちくしょう。日本人がいないからって会話を拒絶して結局何も話さないじゃないか 」


(出る)


クロイツ「すかし時間が出来たようだね。彼が報告をして返事がくるまで少しはかかる(一子に)一子さん、貴女は米国人とは話さないと言ったのです。ドイツ人はどうです?(沈黙)俺は公務員でも軍人でもない。俺は科学者、知識にしか野望を持たない男である。昔は、ミッテルバウ・キャンプで仕事をしたのです。ヨーロッパの戦争が終わる前に。私の名前はクロイツです。俺のことを知っているのですか?」

一子「私は貴様のことをしらない 」


  クロイツは失望して動揺する。一子から少しはなれる。


クロイツ「知らないのですか?俺は。。。貴女なら俺のことを知っているだろうだと思っていたのに。あれだけの試験を行って。沢山のデータを放送したのですから。エンジン、燃料インジェクター。操縦羽根。誰にも盗み聞きが出来ない神秘なチャンネルから送り出した情報。俺のことを知っていたはずです、マダム 」

一子「貴様のことは知らない 」

クロイツ「個人的には知らないかもしれない。然し俺は送信したのです。そして誰かがそれを受信したのです。日本人の人。多分、女だと思う、若い少女の可能性もあるのですが。俺は彼女に、煙の柱を吹きながら空に上るロケットのイメージを送ったのです。貴女がその女だと思っていたのです 」

ヘンリー「裏切りを告白しているなら、僕の前でしないほうがよくないですか 」

クロイツ(八つ当たり)「Zum Teufel! お前の意見などはどうでもいい!お前は俺を非難できる立場か?裏切り者はお前だぞ 」

ヘンリー「貴方が言っている事がわかりません。僕はいつも国に忠実に仕えました 」

クロイツ(ぶちきれる)「国!国だと!こんな馬鹿げた話があるか!国とはなんだ?国とは誰かが勝手に地図につけた線だ。どうせなら南回帰線に、またはグリニッチ子午線に忠実を誓えばどうだ?重要なのは人種だ!そしてお前は自分の人種を裏切った 」

ヘンリー「そんなことはない。僕は戦争を一刻も早く終わらせたいと思って米陸軍に入ったのです。殺傷が終わらせたかったです。アメリカ人の命も、日本人の命も救いたかったです 」

クロイツ「違う。あの時お前は、そんなことを思いもしなかった。お前は何かを証明しようとしていた。自分にも、他人にも。その、命を救うとやらの言い訳を考えたのは後の祭り。。。太平洋に配備されて、敵の目にも仲間の目にも憎しみを見たからだ 」

ヘンリー「ねつ造を作るのを辞めてくれませんか。貴方は僕のことを知りません 」

クロイツ「知っているとも。お前自身よりもお前のことをよく知っている 」

一子「彼の言うことは正しいよ、ヘンリー。それは貴様にもわかっている。貴様は本当に何かを証明しようとしていた。然し、反対のことを証明してしまった 」

ヘンリー「使者夫人、失礼ですがあのときの事情を貴女は。。。」

一子「砂漠にある場所。トタン屋根の建物。遠く見える山。どこを見ても、あの山以外に美しいものは存在しなかった。ほかに何もなかった。貴様は山を何時間も眺める癖があった。熱のせいで砂漠の砂が揺れるように見えた。小さなつじ風が貴様の視界を通り過ぎた。それはなんという風か貴様は知らなかった。知りたかったが、聞くのが怖かった。あの風の名前を。。。」

ヘンリー「砂の悪魔 」

一子「キャンプを出るまで知らなかった 」


  (沈黙)


ヘンリー「どうして。。。どうやって知っているのですか?私はマンザナルについて誰にも話しませんでした 」

一子「そうか。その場所の名はマンザナルだね 」

ヘンリー「どうして知っているのです?」

クロイツ「あらあら。なんかロマンチックになってきたね。然し気をつけてよ、兄弟。服のしたじゃ女は、けして男が想像するような可愛い姿はしないものだ。例えばミッテルバウには、胸が一個だけとても小さい女がいた 」


  一子はその言葉に反応をしめす。クロイツは腕をくんで彼女を眺める。


ヘンリー「無礼なことを言わないで下さい。この人は使者です。なぜ彼女はマンザナルのことを知っているのです?」

クロイツ「彼女はあの場所を見たから 」

ヘンリー「ナンセンスです 」

一子「私はあの強制収容所を見た。山も、砂も、悪魔も。全てを見たのだ 」

ヘンリー「いつです?」

一子「貴様を最初に見たときだ 」


  (沈黙)


クロイツ「ミッテルバウにはとある女がいた。。。赤毛の女だった。誰にも見えないものは彼女に見えた。僕は長年にかけて彼女を研究した。戦争が終わってからも。最初は、ジプシーだからそんな才能をもっていると思い込んでいた。ジプシーは占い師として高く評判されるから。然しある八月の夜、彼女の寝言を聞いた。彼女は町に白い灰の雨を降らす、キノコみたいな雲について話していた。(ドアのほうを見る)その時、きっと性暴力の抑圧された記憶だと思った。キノコはペニスのシンボルかも知れない、と。もう昔のことだからどうでもいいか。やつは戻ってきたぞ 」


  男は部屋に入る。


ヘンリー「上は何を言ったのです?」

男「駄目だった。予想通りな。上官はこの。。。一子とやらの要求を合衆国に伝えることを拒んでいる 」

ヘンリー「どういう理由でこんなことをされるのです?越権行為ですよ 」

男「彼女は使者であることを証明してないという理由でだ。彼女が本当に天皇を代表しているかどうか定かではない 」

ヘンリー「然し確かめることができます!無線機で日本に連絡して。。。」

男「連絡して、誰かが応答する。然し誰が?天皇か?天皇の居場所は誰も知らない。今は1946年でしたら、三角形分析でシグナルが皇居から来ていることをわかって、「多分ヒロヒトからだ」と言えたかもしれない。しかし東京に原子爆弾を投下してしまった以上、皇居は放射性のほこりにたらしめられている。勿論ヒロヒトは皇居にはいなかった。今は、全ての日本人と共に、森のどこかに暮らしている 」

クロイツ(一子に)「米国人の報道は、日本には都会が残ってないと言っている。本当にそうでしょうか?」

男「当たり前だろう。もし日本に街などが残っていたらあそこにも原子爆弾を投下するぞ。日本人は皆、とっくに森に疎開している 」

クロイツ「街がなければ、ロケットはどこから来ている?どこで組み立てられている?」

男「森の中だろう 」

クロイツ(馬鹿にする)「日本人が木材やちくざいで作っていると言うのか?」

男「その通りだ 」(クロイツは驚く)ロケットは燃料としてメタノールをつかっている。俺達の偵察機はカモフラージュされた発射台から離陸するロケットを目撃した。スペクトラル分析によると、ロケットはメタノールを燃やしている 」


  (間)


クロイツ「だから?」

男「お前、工学に関しては何も知らないか 」

クロイツ「知らないよ。俺は心理学者だ 」

男「お前はミッテルバウにいたんだろう。あの糞ロケット工場に!」

クロイツ「心理学者としていたのだよ 」

男「メタノールは木精、木の精とも呼ばれる。木材から生産されるものだ。そしてロケットは、どの形でも九割が燃料で出来ているものだ 」

クロイツ「そして日本はほとんど森に覆われている。なるほど。ロケットは木材で出来ている 」

ヘンリー「サー、このドイツ人はさっき日本にデータを送り出したと述べたのです。ロケットの設計図を敵に露出した可能性があります。この人はスパイとして逮捕されるべきです 」

男(気にせず)「ミッテルバウにいたときやらかしたことなら、俺達には関係ない。その頃の彼は敵だったから。今は米国の市民になっている 」

ヘンリー「然しアメリカに忠実を持っているとは思いません 」

男「持ってないだろうな、忠実の欠片も。然しそれ自体が犯罪ではない 」

ヘンリー「然し、もし設計図を戦後に、米国市民になってから露出したとしたら?」

男(冷静に)「縛り首にする。(肩をすくめる)こいつがナチであることをすでに知っているぞ、ヘンリー。彼は四六時中監視されている。日本に連絡しようと思っても何ができると言うのだ?彼は無線設備を買うのを赦されてない。去年、とある元ナチの科学者、ウォンブラハンかウォンブラウンみたいな名前だった男が地方のラジオ・放送局に電話をかけて歌をリクエストした。FBIは彼を十分後に逮捕した。それきり彼の姿を見たものはいない。拘留中に自殺したらしい。まぁ、本当に自殺だったか知らないが 」


 (クロイツに目をやってニヤリと笑う。クロイツは笑顔を笑顔で返す )


クロイツ「自然選択だよ 」

ヘンリー「話題は科学者だった男だ。彼を間引きすると、知性が間引きされることにならないですか?」

クロイツ「天才は専門分野の外に出ると驚くほど愚かである。米軍は、ノルマンディーの上陸する前にBBCのラジオでとある詩を放送した。それはフランスのレジスタンス運動へのメッセージだった。俺もFBIだったら同じ事をした 」

男「おい、女。日本に連絡をする方法はないのか?」

一子「ある 」

男「じゃ、なんなんだよ。俺達はお前のロケット飛行機を徹底的に調べた。ラジオに似ているものは何もなかった 」

一子「なぜ、私に日本に連絡して欲しい?」

男「お前は帰国されるからだ。飛行機で九州まで運送される。部下には飛行機を真っ白に塗装して、両方に緑色の十字架もつけるようにように命令しておいた。お前は自分の民に、その飛行機を狙い落とさないように伝えるのだ 」

一子「今は何時だ?」

男「時間はどうでもいいじゃないか?ヒロヒトの安眠を気にかける場合じゃない 」

一子「やはり、夜だったか。よろしい。私が日本を代表していることは時期に証明される。町を。。。町の残骸を眺めろ。そうしたら、印があらわれるだろう 」


 (クロイツはブリーフケースを開けて、そこにある装置を見つめる)


男「はったりとしか思えないな。(肩をすくめる)まぁ、いいか。警備兵は日本人街を常にパトロールしている。珍しい事があったらすぐにわかるだろう 」

クロイツ(ブリーフケースの中を眺めながら)その前にちょっと質問したい事がある。医学者として 」

男「いいだろう 」

クロイツ「一子さん、君の民はもう七年間、放射性と共に生きてきた。何か、妙な効果を、例えば、個人性の喪失を経験した事があるのですか?」

一子「個人性?」


  (遠くから、女性の叫ぶ声)


クロイツ「ミッテルバウのラボラトリーで俺達は、放射性に浴びた検体において極めて予想外の効果を観測したのです。ある放射線量が突破されると、多くの検体は死亡した。然したまには、生き残った検体が、寄り集まることもあったのです。肉体だけでなく、心理的にも同体になろうとしているように。無理に引き離すと病症は悪化したのです(さらに一つの悲鳴が聞える)然し一緒のままなら生き残れたのです、まるで検体がそれぞれお互いの故障している部分を支えあっているように(微かに聞える子供の泣き声。わめいている百人の声、徐々に聞えてくる)一番不思議に思ったのは、この。。。融合の、精神まで及ぼした影響です。俺達が質問すると、検体たちは一気に、同一に話したのです。滅びる前に 」

ヘンリー「話す?」

クロイツ「インコ。俺達はインコを使って実験したのだ 」

男「だろうな。化学兵器もハトを使って実験したのか?」

クロイツ「兄弟、そうしたら薄情ですよ。原子爆弾を生きた町で実験するほど薄情ではないが 」

男「俺はお前の兄弟ではない(外からの悲鳴がもう無視できないほど大きくなっている)この騒ぎが日本人街から来ている。いったい何が。。。」(光が薄くなる)

ヘンリー「サボタージュか?誰かが発電所をいじっている 」

男「反乱か!」

クロイツ「違う 」

男「島のジャップどもが反逆している 」

クロイツ(椅子に座る)「違う 」

ヘンリー「どうしてそう冷静にいられるんですよ 」

クロイツ「あいつらは目覚ましただけだから、ヘンリー」

ヘンリー「あいつら?」

クロイツ「君の種族のことさ。あいつらは同じ悪夢を見て起きたのだ。同じ瞬間にね 」

ヘンリー「本当か?」

クロイツ「俺のブリーフケースの計量器は狂ったかのように踊っている。何週間も前から起っていることの繰り返しだ。だから俺はここに来た。その理由を見つけるために。原因は彼女にあると思う 」

男「使者か 」

クロイツ「皆は悪い夢を見たのさ。そして、目覚めた。同じ瞬間に電気をつけて。電力系統をオーバーロードさせた 」

男(彼の襟を掴む)「お前は何か知っているんだな!ジャップたちに何が起っている?」

クロイツ「さぁな。具体的にはわからない。俺はあいつらと同じ人種ではない。彼女に聞けば?」


  (間)


一子「あの子達は。。。幻を下された。病んでいる森。一つの塊に融合した木々。根元で遊んでいる裸の子供達は盲目で、全員体が麻痺している 」

ヘンリー「ありえない!」

男「それか?それがあいつらが見ている夢なのか?」

ヘンリー「そうです 」

男「何故だ?どうやって?」

クロイツ「彼女がここにいるからだ。彼女はある意味で中継装置だ。これは前にも見た事がある 」

男「どこで?」

一子 & ヘンリー「ミッテルバウでだ。あそこには真っ赤な髪をしている女がいた 」


(喚き声がさらに大きくなり、舞台は暗くなる)

English version follows...

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