20:独眼巨人
上位種は大体再生能力を持ってます
「独眼巨人!?」
知らされた魔物の名に全身が驚く、それほどまでにキュクロプスという魔物は特殊な魔物だった。
ダンジョンの魔物は基本的に外には出てこない、稀に大量繁殖などで溢れる時はあるがそれは魔力の乱れの影響を受けやすい浅い層で起こるもので神話層の魔物が地上に出てきた事など一度もないのだ。
「…どちらにせよキュクロプスとなれば並の兵と冒険者では相手にならん」
ゾルガがそう発すると席を立つ。
「エリファスは城に残って防備を固めろ、キュクロプスが陽動の可能性は大いにある」
「了解」
「レイル達は私と一緒にキュクロプスを討伐を頼む、良いかな?」
ゾルガの言葉に三人は頷くと城を出る、外に出ると何かが崩れる音が響き渡った。
「城壁が!?」
遠目からでも分かる程に上がった土煙と一部が崩れ落ちた城壁を確認したレイルは猶予は既にないと判断して魔力を練り上げる。
「将軍、二人共、俺が先に行って足止めする」
そう言い残すと『天脚』と『飛翼』を発動して空を駆け、崩れ落ちた城壁へと向かった。
―――――
レイルが辿り着くと魔術士と弓兵達が城壁の割れ目から体を乗り出したキュクロプスを攻撃していた。
キュクロプスは降り注ぐ魔術や矢を意に介さず城壁の一部を掴むと兵士達に向けて投擲する、砲丸の様に放たれた瓦礫は凄まじい音を立ててぶつかり周囲を破壊する。
もはや戦線は崩壊しており迎撃は疎らとなっていた。
「ルオォォォォォォォォォッ!!!」
キュクロプスが咆哮を上げて脚を上げて降り下ろそうとする瞬間、レイルは『崩牙』を発動させて横っ面に叩きつける、続けざまに斬り裂いた頬に向けて『天脚・衝』を放つとキュクロプスは血を撒き散らしながらたたらを踏んでぐらつく。
「逃げろ!早く!」
レイルが叫ぶと兵士達は我を取り戻して逃げていく、それを確認するとキュクロプスに向き直って見上げる。
オーガの二倍近くの6mはある体躯に筋骨粒々を体現したかの如き肉体は硬質な皮膚で覆われている。
頬から血を流しながらキュクロプスは眼に憤怒を宿すと城壁に手を掛ける、すると瓦礫が手に集まっていき戦鎚となって手の中に収まった。
「キュクロプスの武具錬成か…」
神話層の魔物は竜の様に特殊な魔術を行使するのが多く、キュクロプスは周囲の物から武器を造り出す力を持っていると伝えられていたが実際に目にする事になるとは思っていなかった。
空気を震わせながら戦鎚が振り下ろされる、レイルが避けると地面が砕かれて爆発したかの様に瓦礫が礫が吹き飛んでいく。
その巨体からは想像が出来ない程戦鎚が振り回される、唸りを上げる戦鎚は周囲の建物や触れた物全てを破壊する嵐となってレイルに襲い掛かる。
破壊の嵐を潜り抜けながらレイルは時折『疾爪』を放つがキュクロプスの皮膚に弾かれてしまう。
(…ならっ!)
横薙ぎに放たれた戦鎚を跳躍して避けると同時にすれ違い様に『崩牙』で柄を斬ると戦鎚の頭が明後日の方向へと飛んでいく。
柄だけになった事で重心が崩れてつんのめった瞬間にキュクロプスの頭部まで跳び上がると切っ先に魔力を集約させる。
「竜剣術『穿角』!」
絶貫の一撃をキュクロプスの眼に向けて放つ、キュクロプスは即座に体を捻るが完全には避けれず剣は鎖骨の辺りに突き刺さると柄を両手で持って魔力を込める。
「竜剣術『飛翼刃』!」
剣の峰から魔力が噴き出してキュクロプスの鎖骨から下腹部まで斬り裂いていく、黒い血が吹き出して流れるとキュクロプスが咆哮を上げて新たに戦鎚を造り出してレイルに振り下ろす。
再び距離を取って逃れるとキュクロプスは牙を剥き出しにして睨み付けると戦鎚を両手に持って力任せに振るいながらレイルに迫る。
振り回される戦鎚を避けていると一際振りかぶった瞬間レイルは再び距離を詰めようとしたが…。
「ルオォォォォォォォォォォォォッ!!!」
「ぐっ!?」
キュクロプスの突風の様な咆哮が放たれてレイルに襲い掛かる、すると一瞬だけ体が糸が巻きついたかの様に動きが止まってしまう。
(しまっ…!?)
一瞬の硬直を突いて戦鎚が放たれる、戦鎚がレイルを打ち砕こうと解き放たれた瞬間…。
「“白き顎の災厄”」
キュクロプスの脚に氷柱の牙が噛みついて体勢を崩し、硬直したレイルを飛び出した影が抱えて離れると戦鎚は虚しく空を切る。
「…あっぶなぁー!?」
「…間に合った」
レイルを抱えたシャルがセラの所まで戻るとセラはジト目でレイルを見る。
「…説教は後にする、今は」
杖を構え直すとセラはキュクロプスに向き合う。
「あれを倒すのが先決」
その周囲には霜が下りていた…。
この安心感




