17:壊滅(エルメディアside)
どっかで見た剣術
信じがたい光景だった。
戦士班達は制裁が放つ圧に押されて動く事が出来ず、魔術士班達はまともに攻撃を受けて半ば壊滅状態となっており数人がなんとか無事といった所だった。
精鋭と言える黒騎団がただ一人に崩壊させられるという悪夢の様な状況にリカルドは追い込まれていた。
「おいおい、まさかこれで終わりか?この程度で帝国最強とか言われてんのか?相手が剣士なら遠距離の攻撃手段がねぇとか思いこんでこのあり様な奴等がそんな呼ばれ方してるなんざ笑い話にもなりゃしねぇぞ」
制裁があからさまな侮蔑を込めて言葉を投げかける、立ち振舞いはこちらを侮っているのがありありと分かるがリカルドを始めとして誰も不用意に仕掛けようとする者はいなかった。
(これが奇跡…まさしく理不尽が具現化した様な存在だ!)
「戦いの最中に…」
リカルドが思わず固唾を呑むと同時に仮面が視界に広がり…。
「余所見してんじゃねぇぞ!」
体重を乗せた飛び膝蹴りがリカルドに放たれる、大剣の腹で受け止めるがあまりの重さに地面を削りながら後退してしまう。
「てめぇらも!」
制裁が地面が爆発したのかと錯覚する踏み込みで他の団員に斬り掛かる、即座に盾が構えられるが…。
「魔剣術『絶閃』」
剣が魔力で黒く染まり、振り下ろされると盾ごと団員を斬り裂いた。
(魔銀の盾を斬り裂いただと!?)
魔銀は鋼以上の硬性と靭性を兼ね備えた希少な金属であり、魔力を込める事でより強度が増すという特性を持っている、その魔銀から作られた盾を斬り裂くなど信じがたい光景だった。
「…全員に命ずる!撤退せよ!一人でも良い!生き延びてこの事を国に伝えるのだ!!」
リカルドの叫びに固まっていた団員達は従って蜘蛛の子を散らす様に逃げる。
「おいおい、戦いの最中に敵に背中向ける馬鹿がいるか」
制裁がそう言いながら剣に魔力を込めて団員に斬り掛かろうとすると…。
跳躍したリカルドが大剣を大上段から制裁に叩き込んで土煙が上がる。
「だ、団長!」
「行け!こいつは私が相手をする!!」
団員は沈痛な表情をして頷くと走っていく、それを見届けながらも手にした大剣に力を込めるがそれ以上押し込めなかった。
「へぇ、ちょっとはやるじゃねえか」
土煙が晴れると左腕に大剣を食い込ませて止める制裁の姿があった。
「私の一撃を腕で止めるとは、化物め…」
「はっ、誇って良いぜ?お前はそれなりに強い方だ」
大剣の刃が半ばまで食い込み血が流れるがそれ以上は望めないと判断したリカルドは飛び退いて大剣を構え直す。
自分では勝てない、そう理解しながらも全力を以て戦う覚悟を決めると全身に魔力を纏う。
「黒騎団団長“黒獅子”リカルド・ガーラム…参る!」
放たれる気迫に制裁は仮面の下で口角を上げた。
―――――
「まぁ、こんなもんか」
制裁がそう言いながら心臓を貫かれたリカルドから剣を引き抜く、血を払って肩に担ぐと仰ぐ様に空を見た。
「ふふ、お疲れさ…」
その背後から声がした瞬間、剣が振られて声の主の首を斬り落とした。
「…酷いですわ、労おうとした人を斬るだなんて」
その声と共に斬られた部分の肉が盛り上がって生々しい音を立てて形作っていくと女性の顔、アステラが不満を漏らした。
「お前は一回殺した程度で死にはしねぇだろうが、失せろ」
「そうもいきませんわ、今回は主の命で貴方と共に王国に向かえと言われたので。」
「あぁっ!?」
「貴方の邪魔をする気はないのでご自由に暴れてくださいな、私は信徒達と共に参りますので」
「…ちっ、俺の邪魔をしたら死ぬまで殺す」
黒騎団壊滅の報が届いたのはこの日から一日経ってからだった…。
次回、若干砂糖あり




