16:ただ一人に(エルメディアside)
メンテ明けの投稿です
王国の東に隣接するエルメディア帝国には帝国騎士団という屈強な騎士団が存在する。
皇帝に認められた者のみ所属できる直属の近衛騎士が集まった“白騎団”
国の治安維持や警備等を主とした“蒼騎団”
魔物や盗賊退治などや砦、関所の防衛を主にする“紅騎団”
そして全員が白銀級冒険者以上の実力を備えた少数精鋭の皇帝の懐刀とも言える帝国最強の“黒騎団”
中でも黒騎団団長、リカルド・ガーラムは“黒獅子”と謳われ、ウェルク王国の“風狼”ゾルガと並ぶ武勇を誇るとされる程の武人として名高い者だった。
―――――
エルメディアとウェルク王国の境にある深い森、大聖堂の跡地があるとされるそこで失踪者や怪しい者を見たと報告があった為、調査員が派遣されたが一人として帰ってこなかった。
何かあると判断した皇帝は虎の子の黒騎団を派遣させた、例えもぬけの殻だとしてもバニス教団に繋がる何かがあるのではないかと…。
「ぎゃっ!?」
「ごふっ!?」
「だ、団長…っ」
黒い鎧を纏った黒騎団の騎士達がひとり、またひとりと倒れていく、ある者は首と胴が別れ、ある者は魔術で強化された鎧ごと叩き斬られて潰えた。
辺りには森の中を何かが駆け抜け、木々を跳ぶ音が響き、その度に団員達はおののいていた。
「探知はまだか!?」
団長であるリカルドはおののいている団員達を諌めると野伏と魔術士達に声を掛けるが…。
「…ないのです」
「なに?」
「団員達が殺される瞬間は確かに魔力を感じるのです、ですが次の瞬間には消えているのです…。
敵は我等に探知できない程魔力を放出してない、もしくは漏れない様に制御してるとしか…」
魔術士班を纏める班長が震える声で報告する、次の瞬間また悲鳴が上がり、見れば団員の鎧を貫いて黒い刃が飛び出していた。
引き抜かれた刃の持ち主は姿を捉えられる前に木々の闇の中へと姿を消す、もはや迷う暇はなかった。
「全員円陣を組め!野伏班と魔術士班は陣の中心で援護と防御魔術を使え!戦士班は互いの周囲を確認しながら森を突破するぞ!」
リカルドの号令に従って団員達は陣を組むと森を進む、その間も刃を首に突き立てられた様な殺気と寒気に全員が背を震わせていた。
周囲の警戒を行いながら森を出る、森の浅い所まで来ていた事が幸いしたのか日が落ちる前に森を出れた。
森から離れて団員達を確認する、各々が暗く沈んだ顔をしていたがそれぞれの班長が報告を上げる。
「戦士班は11、魔術士班が8、野伏班に至っては3か…団の半分がやられたか」
最初は先行して道を進んでいた野伏が殺された、団より少し離れていたがすぐ声が届く距離であったのに死体が見つかるまで分からなかった。
野伏の死が伝わる前に行進が止まって困惑していた団員達が斬られた、白銀級の実力を持つ者達が警戒していたのに奇襲を成功させたのだ。
そこからは突然の事態に冷静さを取り戻す前に団員達は斬られていった、その全てが一太刀で殺されていた。
「…帝都に戻るぞ、まずは近くの関所まで…っ!?」
歯を食い縛りながらそう命じようとした瞬間、森から影が飛び出してくる。
影は黒騎団から少し離れた場所に着地する、そしてゆらりと立ち上がってその姿を明らかにした。
それは黒い外套を纏った者だった、体格から男だとは分かるが黒い服を身に纏い、その上から所々千切れた外套を羽織っている。
なによりも顔には無貌に耳元まで剥き出しの牙の意匠が施された仮面を着けており、手に握られた禍々しい剣がその存在の異様さを物語っていた。
「ひぃふぅみぃ…まぁそれなりに減らせたか」
首を回しながら剣を肩に置いた男にリカルドは大剣を引き抜いて構える、団員達もそれぞれ武器を構えた。
「貴様が我等を襲撃した者か」
「あぁ?馬鹿かお前?こんだけ分かりやすい状況でそんな分かりきった事を聞いてんじゃねえよ、敵に決まってんだろ馬~鹿」
「…貴様は何者だ、何故我等を襲撃した?」
あからさまな侮辱に乗る事なく誰何を問う、隙を見せれば即座に斬り掛かるつもりだったが立ち振舞いに反して微塵も隙がなかった。
「…まぁ良いか、別に口止めはされてねえしな。
俺は今は“制裁”の奇跡って呼ばれてんだ、とりあえずはこれで充分だろ?」
「!」
それを聞いてリカルドは驚愕する、ウェルク王国から奇跡に関する情報を得ていただけに目の前にいる存在の危険さを瞬時に理解した。
「戦士班掛かれ!魔術士班は大魔術の準備をせよ!命に代えても奴を殺せ!!」
リカルドの号令に団員達が動く、リカルドは先陣を切って“制裁”に斬り掛かった。
制裁はなんなくそれをかわすが息つく間もなく他の団員が攻撃して反撃を防ぐ、巧みな連携を駆使して制裁をその場に繋ぎ止める。
(傲ったな!この開けた地形であれば如何に腕が立とうと剣士一人に負けん!)
例え相手が魔術を使えたとしても発動の隙を与えない、今は戦士班が包囲して逃げる間もない。
あと少しで魔術士班が大魔術の構築を終える、そう判断したリカルドは団員と同時に攻撃を放った。
討った、そう思った瞬間…。
「魔剣術『環断』」
制裁が円を描く様に剣を振るうと斬撃が放たれ攻撃を相殺してしまった、そしてその場で引き絞る様に剣を構えながら跳躍する。
「魔剣術『黒時雨』」
そして振るわれた剣から無数の斬撃が放たれて詠唱を行っていた魔術士と弓矢を構えていた野伏達に降り注ぐ。構築していた大魔術は発現する事なく霧散してしまった。
「…で、次は?」
再び降り立った制裁は無感動な声でリカルドにそう問い掛けた…。
些か長かったので2話に分けました




