5:40年前の真相
ド◯えもんみたいに便利だなこの竜
「数千の、命…?」
ぽつりと呟かれた言葉が場に響く、少しの間沈黙が支配するがエルグランドが再び語る。
(あの聖具には数千の人の魂が封じられていた、全てが強い負の思念に染められた魂でな…おそらくは人を供物として捧げその命と魔力を糧に魂が循環へと還る事を禁じている)
「それが、淀みになる訳か…」
(然り、だが解せぬのはそれを実現させるだけの術とそれだけのものをどうやって集めたかだ、如何に人族が数が多いと言えど一度に数千の命が消えれば気付かぬ筈がないだろう)
「…気付かせなかった、というべきなのかも知れませんな」
ぽつりとライブスが呟きながらエルグランドに問いを投げる。
「エルグランド殿、40年前に魔王が現れたのはご存知ですか?」
(否、500年前に封じられて以降外界とは隔絶されていた故な)
「であればそこから話しましょうか、今から40年前に魔王が現れ、人族と魔物による戦争があったのです」
(戦争だと?)
「はい、現れた魔王は魔物を暴走させる力を持っており歴史上でも類を見ない程多くの命が失われました」
(その様な事があったか)
「えぇ、そして貴方の話を聞いてふと思い至ったのですが…聖具を持つ者、私達が奇跡と呼ぶ者達が姿を現したのは戦争が始まってから一月程経ってからなのですよ、偶然と片付けるには些か無理がありますかな?」
(…なるほどな、理論上は可能だ)
ライブスが告げた事実にエルグランドは唸る、そして徐に口を開いた。
(聖具を目覚めさせるのも淀みを生み出すのも生半可な術では出来ぬ、それこそ世界中の人族が祈りを捧げるだけの祭壇が必要になるが…。
世界を祭壇に見立て、人の負の思いを呪詛とすれば可能だ)
それを聞いたセラとグリモアはハッとした顔をして考え込む。
「…魔物や教団員による殺害を儀式の手順に置き換えて?それによって生じる恐怖や負の感情を祈祷とするなら…」
「確かに可能ですが、余りにも…」
(どうやら気付いた様だな)
魔術に通ずるセラとグリモアの様子を見たエルグランドは二人の脳裏に浮かんだ答えを口にする。
(汝達が言う40年前の戦争の目的が聖具を貶め手にする為の素材集めと精練だとすれば辻褄が合うだろう)
―――――
「あの戦争は、その為に起こされたと言うのか…」
エルグランドが告げた真実にウェルク王はぽつりと呟く、その手はきつく握り締められていた。
「奴等の武器造りの為だけにあの戦争は!多くの命は失われたと言うのか!?」
肘掛けを叩きながらウェルク王は叫ぶ、それほどまでに取り乱す程おぞましい真実だった。
人魔大戦の傷跡はそれ程大きなものだった、世界中で起きた魔物の暴走群は村や町だけではなく小国すら滅びるきっかけとなり、今はウェルク王国やエルメディアといった大国が主体となって動く事によってようやく形を取り戻してきた所なのだ。
だが今でもその傷跡は残っており、海を隔てた幾つかの他国との国交が途絶えたままになっているのが現状だった。
「…すまぬ、取り乱してしまった」
ウェルク王はそう言って落ち着きを取り戻すとエルグランドに向き直る。
「エルグランド殿、貴重な情報を教えて頂き感謝する」
(礼ならレイルに言うが良い、我をこの場に引き合わせたのは他ならぬこの者だ)
「うむ、彼がいなくては真実を知る事は出来なかったであろうからな」
そう言ってレイルに目を向けると厳かに言葉を紡ぐ。
「レイルよ、お主がもたらした情報と功績は計り知れぬ程大きなものだ、それを踏まえた上でなおこの様な事を頼むのは厚顔無恥も良いところだが…」
一呼吸置いて、真摯に言葉が紡がれる。
「お主のその力を貸してくれ、バニス教団を滅ぼすには古竜を討ち、奇跡に勝る力を持ったお主が必要なのだ」
告げながらウェルク王の顔は苦渋に満ちていた、自身の力不足と至らなさを悔いながらも国の為にレイルに過酷な事を強いるのに思うところがあるのだろう。
レイルはウェルク王の眼を見て理解する、王もまた大切なものを失った痛みを知っているのだと、だからこそレイルは宣言する。
「…謹んでお受け致します」
大切なものを踏みにじられる痛みを繰り返さない為にも…。
前置きが長い(自戒)




