17:信頼
上位種(噛ませ)
「「「ぐあぁぁぁぁっ!!」」」
オーガが咆哮を挙げて一番前にいたレイルに襲いかかる、三本の巨木の様な腕が振り下ろされる。
轟音と土煙が巻き起こるが直前で“天脚”を使って跳躍したレイルはオーガの背に乗ると…。
「邪魔だ」
“崩牙”でオーガの首を斬り裂き、崩れ落ちる前に背を蹴ってオーガ達の中心に降り立つ。
オーガ達がレイルに視線を集中させた瞬間、氷の礫がオーガ達の顔にぶつかり凍てついていく。
その間にシャルがワイヤーをオーガ達の足に絡めていき、互いに引っ張り合ってもつれ倒れる。
「気をつけて、オーガは頭か心臓を潰さないと再生するの」
「了解した」
斬った時の感覚から“疾爪”では骨まで斬れないと判断したレイルは崩牙でオーガを斬り裂いていく。
「仮にも上位種であるオーガをこんな簡単に倒せるとはね…」
「動きが止まってればこれくらい…」
言い掛けたレイル達が周囲の気配に気付く、すると物陰から教団員が一人また一人と現れる。
それは見る間に変異していきオーガやハイオークといった魔物に姿を変えていくとレイル達を囲う様にして近づいてくる。
「…ざっと二十ぐらいか」
「体裁なんてクソ喰らえって感じねぇ…」
思わず舌打ちしたくなる衝動を抑えて動きを見ていると…。
「レイル、リリアっていう人の場所は?」
「?、あの教会だ」
「ん、分かった」
セラの問いに答えるとセラが杖をそちらに向けて構える。
「“求めるは咎人の戒め、絶凍地獄・第一円”」
次の瞬間、氷の嵐が杖先から放たれて教会の前まで立ちはだかっていた魔物達を凍らせ吹き飛ばしていく。
「此処は私とシャルが引き受けるからレイルは行って」
「だ、だが…」
「頼まれたんでしょ?」
レイルの言葉を遮ってセラは続ける。
「急がないと手遅れになる可能性がある、彼女がこうなって私達の前に立つかも知れない」
「!!」
「だから、行って」
セラは魔物達から目を逸らさずレイルに告げる、譲る気はないと背中で言っていた。
「分かった」
レイルはすぐに走り出し、“天脚”と体捌きで埋まりかけていた包囲の穴を潜って教会に着くと一言だけ残していく。
「頼んだぞ」
扉を開けてレイルは中へと入っていった…。
「ん、頼まれた」
―――――
「いやぁ、流石に二人はキツイ気がするわねぇ」
痺れ針や目潰しなど暗器を駆使しながら牽制していたシャルはそう言いながらセラの隣に戻る。
「オォォォォッ!!」
「…しまっ!?」
その牽制を潜り抜けてハイオークがセラに迫り、拳を振り落とそうとした瞬間…。
「大丈夫」
ハイオークの足下から氷柱が幾つも飛び出て串刺しにする。
「わぁ…」
「私はレイルにはまだ敵わないけど強くなった、それに多数を相手に戦うなら…」
セラの魔力が高まる、それに呼応して冷気が増していき周囲に霜が下りていく。
魔物達が体を震わせる、それは周囲の気温が急激に下がったからかそれとも…。
「私はレイルに負けてない」
目の前の氷禍の魔女が自分達より上だと無意識に認めてしまったからだろうか…。
―――――
教会に入ったレイルは魔導具を頼りに走る、すると礼拝堂の本来像が置いてある場所に下り階段があった。
「地下通路か」
飛び下りる様に階段を下ると広い通路が広がっており、見張りであろうゴブリンがこちらに気付いて騒ぎ始めた。
「ギャギャギャ!!」
「ギィギィ!!」
二匹のゴブリンが小さい体を駆使して上下からレイルに迫る。
「『飛翼』」
レイルがそう呟くと体から魔力を放出したレイルの動きが加速する、加速した状態で迫っていたゴブリンをすれ違い様に斬り捨てる。
「…問題なさそうだな」
“飛翼”は“天脚”の発展として生み出した技だ、シャルがレイルと戦った際に行った魔力放出による加速から発想を得て放出を一瞬ではなく維持する事で推進力を得る事が出来る。
(アレッサの話が本当ならこの技に頼らなくちゃならない…)
間もなく相対するであろう奇跡の存在に気を引き締めてレイルは奥へと進んでいった…。
次回リリアside




