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65:竜人対天使


それは輝く刀身をした剣だった、鍔や装飾は永劫争剣(ダインスレイヴ)と変わらないが禍々しい黒一色ではなく太陽と月の光を形にしたような黄金と白銀となっており、光に包まれた刀身には神代の呪文が刻まれていた。


「馬鹿な…」


バニシエルが呟く、信じられないものを見たという驚愕を露にしてレイルと光輝神剣(クラウソラス)を見つめた。


「クラウソラス?旧世界で失われた神器、あらゆる存在が求めた全ての聖剣の祖、神の王にしか手に出来なかった至高の刃を手にしたというのか!?」


声を荒げるバニシエルと対称的にレイルは静かにクラウソラスを下段に構える、そして雷を纏うと踏み込んだ。


レイルの姿が消える、だが瞬きの間にレイルの蹴りがバニシエルの腹に放たれる。


「あがっ!?」


「うるさい」


雷を纏った蹴りは純白の鎧をひしゃげさせてバニシエルの腹に衝撃を伝える、遅れて音が響くとバニシエルは思わず腹を抑えて膝をついた。


(見えなかった…だと?)


バニシエルの頭の中が今起きた事を認識できず思考が乱れる、レイルの動きが見えなかったのもそうだが並の竜よりも遥かに高い強度を誇る自身が痛みで膝をついたという事実が頭を混乱させていた。


「立てよ天使様」


頭上から声が掛けられる、自身を生み出した神にしかされなかった事を人だったものにされている。


「翼を斬り落として、地に引き摺り落としてやる」


言葉が投げ掛けられると同時にバニシエルは界枝焼剣(レーヴァテイン)を振るっていた。










―――――


クラウソラスの光刃とレーヴァテインの炎刃が衝突する、激しい閃光を生み出しながら刃が交差した。


バニシエルがレーヴァテインをレイルの首に向けて振るう、レイルはクラウソラスで刃を滑らせる様に受け流すと刃を翻してバニシエルに袈裟斬りを放った。


バニシエルの鎧を紙の様に裂いて皮を斬る、するとレーヴァテインから炎が枝葉の様に広がってレイルに襲い掛かった。


するとレイルは炎の枝に構わず踏み込んでバニシエルに斬り掛かる、思わぬ動きに一瞬だけ挙動が遅れたバニシエルは翼を広げて飛び上がるも浅く斬られた。


対してレイルは炎の枝に体を刻まれたにも関わらず翼を広げてバニシエルを追う、雷速で迫ったレイルは大上段からクラウソラスを振り下ろした。


「ぐっ!?」


バニシエルはクラウソラスを受け止めた瞬間、腹に再び衝撃が襲う、レイルの尾がバニシエルの腹に突き立てられていた。


「くっ…、“焦嵐裁火(ゴモラ)”!」


バニシエルは零距離から炎の嵐を放って距離を取る、レイルと距離が出来たバニシエルはふと気付いた。


(傷が治らない!?)


バニシエルの斬られた傷が塞がらない、普段であればこの程度の傷は既に痕もなく治っている筈なのにその兆しすらなく血が流れ続けていた。


(クラウソラスの力か!ダインスレイヴの不癒の呪いは不死殺しの祝福だったのか!?)


バニシエルがそれに気付いた直後に頭上から雷槌が叩きつけられる、見れば左手を翳したレイルの手から生じる雷がいつの間にか展開されていた雷雲と繋がっていた。


「まさかエルグランドの魔術を会得したのかい!?」


「託されたんだ、色々とな」


レイルは次々と雷を降らせていく、ひとつひとつが城を砕く威力を秘めた雷をバニシエルは翼とレーヴァテインを駆使して捌いていく。


レイルは再びバニシエルに向けて飛翔する、バニシエルに向けてクラウソラスを突き出すとバニシエルは翼をはためかせて後退した。


クラウソラスの切っ先はバニシエルに届かず止まる、しかし切っ先に黒球が現れると周囲のものを引き寄せた。


「これはクロムバイトの!?」


バニシエルも黒球の引力に引き寄せられるとレイルの左拳が頬を抉る、更に突き刺さった拳が雷を放ち始めた。


「“轟天裁火(ソドム)”!!」


レイルの拳から雷火が噴き出す、噴き出した轟雷と爆炎はバニシエルを吹き飛ばして壁に叩きつけるだけに留まらなかった。


叩きつけられた壁を砕いてバニシエルは更に吹き飛ぶ、直線上にある街の家屋をぶち抜き魔物達を巻き込みながらバニシエルは防壁に叩きつけられてようやく止まった。


レイルは翼を羽ばたかせながら防壁の近くまで飛ぶ、土煙と瓦礫の中で防壁に寄りかかるバニシエルを見つけるとクラウソラスを構えた。


「く…く……」


バニシエルの口から漏れ出る声にレイルは動きを止める、バニシエルは体を震わせると突然顔

を上げた。


「はは…はははははははははははははははははははははははははははははは!!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」


笑う、気が触れたかの様に高らかに笑うバニシエルにレイルは警戒を強めながらもそのおぞましさに体を震わせた。


「…何がおかしい?」


「ハハハハ、知れたからだよ!」


バニシエルは立ち上がりながら頬を擦る、殴られた痕から火で炙られた様な傷になっているがその程度で済んでいるのはバニシエルが炎の天使だからこそだった。


バニシエルが頬を撫でると傷が塞がっていく、レイルはそれを見てクラウソラスでないと決定打にならないと判断した。


「この痛み…背筋を走る寒気…終わりがすぐ傍にあるという感覚…あぁこれが、これが恐怖というものか!!」


バニシエルが天を仰ぐ様にして叫ぶ、まるで真理に辿り着いた探究者の様に。


「なるほど!人が愚かになるのも納得だ!こんなものが身近にあるなど!これほど恐ろしいものを遠ざけぬまま生きるなど気が狂いそうになる!あぁ神よ!貴方はこれを知っていたから人を滅ぼさなかったのですね!!」


バニシエルの周囲に炎が舞う、その光景は狂人の最期の様にも神話の一節の再現の様にも見えた。


「恐怖に怯え!愚かな間違いを犯しながら!それでも懸命に生きるその姿!あぁやはり!やはり人というのは愛おしい!!」


バニシエルの背から新たな翼が生える、炎と光を放つ三対の翼が周囲の瓦礫を吹き飛ばした。


「だからこそ導かなければ!だからこそ成し遂げなければ!人と人が争わず手を取り合う世界を!貴方が絶望した人の過ちを繰り返さない為にも!!」


バニシエルが飛翔する、レイルと同じ高さまで来るとバニシエルは新たな鎧を纏って相対した。


「ありがとうレイル、君のお陰で生まれて初めて私は痛みを知った、恐怖を知った…今ならばより効率的に合理的に人を導く事が出来るだろう…だけど君には死んでもらう」


「…俺が怖いからか」


「そうだ、竜を友とし最強の神器に認められ死の淵から這い上がる君はこの世界で唯一私を殺せる存在だ、君を倒さなければ私の理想を実現させる事は出来ないと断言出来る」


バニシエルがレーヴァテインを構える、レイルも構えたクラウソラスに魔力を注いでいった。


「決着をつけようじゃないか!レイル!!!」


魔都の空で竜人と天使の戦いが始まった…。

めんどくせえなコイツ

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新作書き始めました、良ければご覧ください。 侯爵次男は家出する~才能がないので全部捨てて冒険者になります~ https://ncode.syosetu.com/n3774ih/
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