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64:手にしたのは


光に手を伸ばしたレイルは気づけば荒涼とした大地に戻っていた、周囲を見渡しても誰の姿はなかったがレイルの頭の中には漠然とだが自身のではない記憶や経験があった。


自身の右腕を見ながらレイルはその記憶を思い浮かべる、その中にはエルグランドが残したものがあった。


「最初から全て託すつもりだったのか、エルグランド…」


エルグランドの記憶から彼の意志を知ったレイルがぽつりと零す、そして他にも託されたとのだと感じながらレイルは右手を翳した。


レイルの右手に光が集まると光は剣の形になって手中に収まる、剣を握ると()()()()()飛び立った。








―――――


「はぁ…はぁ…けほっ」


セラの周囲に突き刺さる氷塊がバニシエルの炎熱によって溶かされていく、持ちうる魔力を使い切った事と戦闘の負傷によって動く事が出来なくなっていた。


「凄まじいね、顕現魔術を暴走させてここまで駆使できるだなんて」


バニシエルがセラの近くまで降りると炎を纏いながら歩み寄る、周囲に展開された冷気を炎で消し去りながら界枝焼剣(レーヴァテイン)を突きつける。


「だが残念な事に私には届かなかった、君は私が見てきた中でも屈指の強さを持っていたが君一人ではここまでが限界だ」


レーヴァテインの刀身に巻きつく炎が燃え上がってセラの頬を撫でる、自分はもうすぐ殺されるという事をセラはどこか他人事の様に認識した。


(魔力もない…体も思う様に動かせない…意識も朦朧とする…)


セラは朧気な意識の中で思考する、頭の中に走馬灯が駆け巡って自身のこれまでの事が浮かんでは流れていった。


どん底で絶望した世界でフラウに救われた、誰も信じられない中でシャルロッテと出会えた、そして行き詰まっていた時にレイルと出会い、レイルに救われた。


今の状況はレイルに救われた時と似ていた、違うのは目の前にいる天使によって助けてくれた人が殺されている事だろう。


死にたくない、だけどもう自分に打てる手はない、シャルもローグも動ける状態じゃない、分かっていても既にいない大切な人の背中が思い浮かぶ。


振り上げられたレーヴァテインが熱風を生み出してセラの髪を揺らす、煌々と輝く灼刃に照らされて涙と共に心の声が流れ落ちた。


「助けて…レイル」


レーヴァテインが振り下ろされる…。













「分かった」


バニシエルが振り下ろしたレーヴァテインが床を斬り裂く、バニシエルの背後にいる者がセラを抱えていた。


「え…?」


来ると思っていた衝撃が来ず、気づけば暖かい腕の中に抱えられている状況に思わず困惑の声が出てしまう。


セラの目に抱えている者の姿が映る、最初に見えたのはたなびく鈍色の髪にこめかみから生えた白い角だった。


腕と足は黒く硬い鱗に覆われた竜のものでセラの足を支えているのは尾、そして全身を包む様にして鈍色の猛禽の翼が背にあった。


だがセラには分かる、口から牙が覗いていも、頬にまで鈍色の鱗が浮かび上がっていても見間違える筈がなかった。


「間に合った、というべきか」


「レイル…!」


誰よりも愛しい人の名をセラは言葉にした。









―――――


レイルはセラの状態を見ると徐に口を噛む、流れた血を口の中に溜めるとセラを引き寄せて口を重ね合わせた。


「んっ…!?」


突然の事に驚くセラに構わず血をセラの喉へと流し込んでいく、セラは思わずレイルの胸元を掴んで握りしめるがすぐに力を緩めて流し込まれた血を飲み込んだ。


口の中にあった血を全て飲ませるとレイルは口を離してセラを降ろす、そしていつもと変わらない声で告げた。


「シャルとローグを手当てしてくれ、それと…頼んだ」


セラがこくりと頷くとレイルは振り返ってバニシエルと相対する、バニシエルは興味深いと言外に告げる様に眼を輝かせていた。


「なるほど、永劫争剣(ダインスレイヴ)の不死の呪いか…まさか君が所有者として認められていたとはね、しかも死をきっかけにして竜の力がより高まったのかな?君は本当に私の予想を超えてくるね」


「…お前は人をなんだと思ってる?」


「…?今更それを聞く理由は分からないが」


バニシエルは首を傾げながらも答えた。


「人は愚かで浅ましくて…見る堪えないほど醜く愛しいものだよ」


「…そうか」


レイルは一言呟くとダインスレイヴを構える、そしてバニシエルに再び言葉を紡いだ。


「だったら見ろ、これはお前が言う人達が繋いで、託してくれたものだ」


ダインスレイヴの黒い刀身が輝く、放たれる光の眩しさにバニシエルは思わず手で光を遮る。


…かつて旧世界にも平和な時があった、偉大なる神の王が神剣を以て荒ぶる魔性の存在を打ち倒し世界を守っていた。


だが神の王が死に、争いが世界中で巻き起こるとその神剣は輝きを失って行方知れずとなった、施された祝福は呪いとなり、かつて世界を照らした刃は争いの闇によって黒く染まり堕ちて永劫争剣(ダインスレイヴ)となってしまった。


だが全てが失われた訳ではなかった、剣を手にした者達の光を求める想いが剣の中へと宿っていき連面として繋がれていった。


そして繋がれた想いはかつての光を呼び覚ます。


「全てを照らし斬り開け!“光輝神剣(クラウソラス)”!!!」


最強と謳われた神器がレイルの手に握られた…。

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新作書き始めました、良ければご覧ください。 侯爵次男は家出する~才能がないので全部捨てて冒険者になります~ https://ncode.syosetu.com/n3774ih/
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