62:魂の語らい
ふと目を覚ますと荒涼とした大地にレイルは立っていた、見上げると空は火の様に紅く染まっており生命の気配を感じられないその光景を見ながらレイルはぽつぽつと自身に起きた事を思い出す。
「俺はバニシエルに心臓を貫かれて…死んだ筈」
「否、まだ死んではおらぬ」
貫かれた筈の胸に触れて傷がないのを確認すると後ろから声が掛けられる、振り向くとエルグランドが最初にレイルと相対した時と同じ姿でそこにいた。
「エルグランド、もう大丈夫なのか?此処はどこなんだ?」
「此処は内なる世界、心の中とでも思えば良い」
「心の中…?」
「そうだ、正確に言えば永劫争剣の中に心臓を貫かれ離れかけた汝の魂を移した、この空間はダインスレイヴの中でもあるし汝の心の形とでも言うべきものだ」
エルグランド曰く、“顕獣疾駆”が解けて剣を砕かれた直後にダインスレイヴへと魂を移し、その時にレイルの魂も移したのだそうだ。
「だとしても死んでないってどういう事だ?」
「子細は分からぬが汝が死んでないのは確かだ、此処を出れば現実に戻り目を覚ますだろう」
「ならすぐに…」
「だが」
すぐに行動に移そうとしたレイルをエルグランドが言葉で制する。
「今戻っても奴には勝てぬ」
「!」
「あれは全盛の我でも届いたか分からぬ存在だ、あれと戦うのは神と戦うに等しき無謀なものだろう」
「…」
「レイル、汝の目指すものは理解している、だが常人ならば歩む事すら出来ぬ道を歩んできた汝が歩みを止める事を誰が責められようか」
まるで言い聞かせる様にエルグランドはレイルに言葉は紡ぐ、レイルは遮る事なく黙って聞き続けた。
「逃げるべきだ、生きたいと願うのは恥ではない、目の前に死があると理解して進む必要はない、死を恐れる事は当たり前の事なのだ」
「…確かに死ぬのは怖いし逃げたくもある」
「ならば…」
「すまないなエルグランド、俺は逃げない」
レイルは静かに、だがはっきりと自らの答えを口にするとエルグランドは口をつぐむ。
「死ぬのは怖い…だけど俺はもうそれより怖いものがあるんだ」
レイルは拳を握りしめながら思い浮かべる、自身を心の底から愛して支えてくれたセラの事を、命と引き換えにレイルを助けて意志を託して逝ったゼルシドの事を、ここまで背中を押してくれた人達の事を…。
「もう失うのも、失ってから逃げるのもごめんだ…逃げてまた大切なものを失って生きれるほど俺は強くないんだよ」
レイルはそう言って踵を返そうとする、エルグランドは出る方法を探しに行こうとするレイルに問いかけた。
「行くのか?勝ち目がないと分かっていても…」
「ああ」
「…レイル」
エルグランドに呼ばれてレイルは再び振り返る、するとエルグランドは意を決した眼でレイルを見た。
「ひとつだけ奴に届くかも知れぬ方法がある」
「え?」
突然の提案に思わず声が零れる、エルグランドはそれに構わず言葉にした。
「我とひとつになるのだ、レイル」