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60:神罰の天使


レイルが子供の頃、村にあった正教の教会で教典を読み聞かせてもらった時の事を思い出す。


ぼろぼろの教典にある挿し絵を見ながらレイルは壮年の神父に尋ねた事があった。


「どうしてこの天使様には名前がないんですか?」


子供だったレイルは炎に包まれた天使の挿し絵を示す、他の挿し絵には名前と思われる文字が書かれていたがその絵にだけ書かれてない事に疑問を覚えたのだ。


「ふむ…それはな、この天使は人に恐れられる天使だからだ」


「?、天使様なのに恐ろしいんですか?」


普段読み聞かされていた天使とは違う表現にレイルは首を傾げる、天使は恐ろしいものと戦う事はあっても天使が恐ろしいとは教えられてなかったからだ。


「まだここは読み聞かせてなかったからな…」


そう言って神父はその天使の逸話を読み上げる、世界中の人々が堕落して悪行の限りを尽くしてしまった時があり、神はそれに怒って罰を与える天使を遣わせ堕落した人々を焼き滅ぼしたという話だった。


「生き残った人々はその天使の恐ろしさを語ったが天使の名前は分からなかった、他の天使の様に人に名乗る事はなく罰を執行し続けたらしいからの」


「罰を与える天使様…」


「もしかすると名前はあったのかも知れんな、だが神の使いの中で明確に人々の敵となった天使だからこそその名前すら恐ろしくて伝えられなかったのかも知れぬ、人とは恐ろしいものほど正しく見えず分からなくなるものだからな…」


神父はそう言って幼いレイルに笑いかけた…。







―――――


「バニシエル…罰の…天使」


レイルは呟きながらも昔聞いた話と絵を思い出す、燃え盛る炎の剣を持つ恐るべき天使、描かれた以上の神々しさと圧倒的なまでの存在感を放っていた。


「そう、君の“轟天裁火(ソドム)”と“轟火裁剣(フラムベルジュ)”のモデルとなった炎は私の炎…そしてこの界枝焼剣(レーヴァテイン)なんだよ」


バニシエルはゆっくりとレイル達に歩み寄る、その度に床が熱で紅くなり、レーヴァテインの切っ先が床を溶かす。


「レーヴァテインは人々に罰を与える為に神が私に与えたもの、だから神が施した封印もないし私は生み出された天使の中でも最も力を与えられし存在だ、最初から人が勝てはしないんだよ」


バニシエルは左手をレイル達に向ける、その手のひらに光の玉が浮かび上がった瞬間エルグランドはレイル達を庇う様に前へ出た。


「“焦嵐裁火(ゴモラ)”」


詠唱と共に爆炎が吹き荒れる、エルグランドの仮初めの体は爆炎をまともに浴びて吹き飛び、シャルとローグは吹き飛ばされてその場からぴくりとも動けなくなってしまう。


「君では私には勝てないよ、所詮君の炎は私の炎を模したものだ…模倣(コピー)では原本(オリジナル)に勝りはしないんだよ」


「黙れ!」


レイルが黒刃を翻して斬り掛かる、バニシエルが発する炎熱を意に介さず竜の力を限界まで引き出して叩きつけた。


「なるほど、その竜の武具と君自身の竜の力が炎の中でもこれだけの活動を可能にさせているのか」


「ぐうぅ…っ!?」


「無駄だよ、炎はぶつかり合えばより熱く激しく燃える方が勝る、君の炎では私の炎には届かないよレイル」


「なら…お前を超える炎を…っ!」


「やめておくんだね」


バニシエルは数合打ち合った直後に剣を払ってレイルの溝尾に掌底を打つ、そして手のひらから爆発が起きてレイルを下がらせる。


「如何に竜の力を使えると言っても所詮は人だ、それ以上の炎に君の体は耐えきれず崩れるだろうね」


「…なら、私が貴方の炎を!」


氷獄王(サタン)”を発動させたセラが四方から氷の嵐をバニシエルに向けて放つ、氷の嵐とバニシエルの炎がぶつかる。


「確かに私の炎を弱めるという方法は正しい、だが私に届くものではないな」


バニシエルが翼を拡げレーヴァテインを振るう、刃から噴き出した荒れ狂う炎の嵐は氷の嵐を押し返していく。


「分かっただろう?君達では私に勝てない、君達がまだ死んでいないのは私が加減してるからに過ぎない、それでも…」


「従う気はない!」


全身から溢れ出す魔力を身体強化と剣へと注ぎ込んで剣を振るう、交差するレーヴァテインと剣から熱波と衝撃波が巻き起こった。


「お前の目的の為に師匠は死んだ!無関係な人達が巻き込まれた!自分の為に自分の都合の良い世界にしようとするお前に従うものか!!」


「…残念だよ」


互いの剣が甲高い音を立てて弾かれる、炎の中でバニスは激情を眼に宿して剣を振るうレイルを悲しみが浮かぶ眼で見つめた。


「君は私の予想を三度も覆した、一度目はバスチールに勝利した事、二度目はゼルシドと戦って生き残った事、最後にクロムバイトに勝利した事だ…私はそんな君の事を評価していたんだよ」


バニシエルがレーヴァテインを構える、刀身の吹き荒れる炎か収束していき刃が白熱化していった。


「断られるとは分かっていたが君には私の目的の力になって欲しいと思っていた…本当に残念だよ」


神速の速さで突きが繰り出される、レイルは咄嗟に剣を盾にするが…。


「こふっ…」


レーヴァテインの切っ先は剣を砕き、レイルの心臓を貫いて背中に突き出した…。

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新作書き始めました、良ければご覧ください。 侯爵次男は家出する~才能がないので全部捨てて冒険者になります~ https://ncode.syosetu.com/n3774ih/
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