59:真名
「私の話を聞いて戦意を失わないか」
エルグランドが極光のブレスをバニスに向けて解き放つ、バニスが界枝焼剣でブレスを斬り裂くと足下から“白き顎の災厄”が迫る。
四方から迫る白い牙をバニスは炎の魔術を展開して防ぐとローグが肉薄して戦槌を薙ぎ払う。
唸りを上げて振るわれる戦槌をバニスは流れる様な動作で避けていく、更にシャルもローグの陰から刀で斬り掛かっていくがバニスはレーヴァテインを駆使して二人の攻撃を防ぐ。
「君達の力は相当なものだ、私の力にならないかい?人と人が争わない世界を創る為に有効に活用出来る」
「ふざけんな!」
バニスの勧誘にローグは戦槌を振るって否を突きつける、強い憤りを剥き出しにして嵐の様に攻め込む。
「何が争わない世界だ!相手を人から魔物にすげ替えただけだろうが!争う相手が変わった所で誰かが死んで苦しむ事は変わらねえ!てめぇは自分のやる事とやってきた事を綺麗事で取り繕ったただのクズだ!!」
ローグが全力で戦槌を床に振り下ろす、振り下ろされた衝撃で床が砕け、その振動と衝撃でバニスの体が宙に浮いた。
「私も貴方の力になる気はこれっぽっちもないわ」
宙に浮いたバニスにシャルが猛毒が塗られたダガーを突き出す、ダガーの切っ先は寸分違わずバニスの心臓に向けて迫るが…。
「分かってはいたが…残念だな」
バニスは左手でダガーを掴んで止める、素手で掴まれた猛毒が塗られた刀身は瞬時に赤熱化して音を立てて溶けた。
「がっ!?」
「かふっ!?」
ダガーを突き出した体勢のシャルの腹に蹴りが入れられ吹き飛ばされる、ローグは足下から出現した炎の枝に斬られ傷口を焼かれた。
「うお…らぁっ!!」
全身を焼き刻まれながらもローグは戦槌をバニスに投擲する、火花を撒き散らしながら回転して飛来する戦槌をバニスは受け止めた。
「なんでも思い通りになると思うなよ」
「む…っ!?」
ローグがそう言い残して倒れた瞬間、バニスの頭上から雷が降り注ぐ、エルグランドがバニスの頭上に展開した“天を裂く者の正体”が絶え間なくバニスを中心に雷雨を落としていた。
「レイル!」
「ああ!」
エルグランドが声を上げるとレイルが剣に魔力を込める、セラはそっとレイルに触れると膨大な魔力をレイルへと供給してレイルが作り上げる刃を更に強大にしていく。
これまでの中でも飛び抜けた密度と規模を誇る黒刃を作り上げたレイルはバニスに向けて駆ける、そしてその途中で魔術を発動して巨大な炎の刃へと変換した。
「“轟火裁剣”!!!」
雷雨に縫い止められたバニスに炎剣を振り下ろす、バニスの体に炎剣が触れた瞬間に炎が周囲に拡散して熱波を周囲に撒き散らした。
「終わりだ…っ!」
「ここまでやるとは…君は私の予想を大きく超えてくるね」
炎の中で声が響く、そこには炎の刃を掴み止めたバニスが深い笑みを浮かべながらレイルと向かい合っていた。
「“轟天裁火”を魔力で作り出した刀身を軸に発動させ、高熱と威力を刃へと集中させたか…凄まじい威力だが所詮は模造の炎だ」
バニスの全身から炎の嵐が吹き荒れる、それはレイル達を吹き飛ばすだけに留まらず頭上に展開されていた雷雲すら霧散させた。
「君達の健闘に敬意を示そう、そして本来の力と姿を使わせる君達に私が何者かを明かそうじゃないか」
炎が一点を中心に収束していく、そして少しずつその姿を顕にしていった。
「私は悪徳に染まりし人々に絶望した神の怒りと哀しみのあまり流れ落ちた涙より生まれし者」
炎が鎧と衣となってその身を覆う、純白の鎧と衣は一切の不浄を許さないと物語る様に汚れなく。
「人への愛と憎しみより生まれ、神より最も力を与えられし存在として悪徳に染まりしソドムとゴモラの地を焼き尽くせし者」
純白の翼が拡がる、白く輝く翼は周囲に燃え盛る炎の中ですら強く意識してしまうほどの存在感を出していた。
「真名をバニシエル、“神の罰”たる者バニシエル…浅ましく愚かで愛おしき人族を咎める為に降り立ちし者なり」
太陽の様に輝く炎と光を纏ってバニシエルは無機質な笑みを浮かべた…。
ようやくラスボス




