58:聖具の正体と真実
(馬鹿な…)
レイルの剣から声が響くと同時に燐光が剣を包む、剣から響くエルグランドの声は驚愕に震えるいる様だった。
(聖具が所有者と認め本来の力を発揮しているだと?有り得ぬ、聖具は神が世界を脅かす存在が顕れた時の為に生み出しその力を発揮するもの!貴様が脅威とみなされど聖具が貴様を所有者と認めるなど有り得ぬ筈だ!)
エルグランドの声が響き渡る、バニスは笑みを浮かべながら諭す様に告げた。
「君の言う事は間違ってないよエルグランド、確かに聖具の用途はそういったものとして神がこの世界に送り込んだものだ、だが聖具…いや神器を生み出したのは君達が知る神が生み出したものではないんだ」
バニスはそういうとレイルの腰にある永劫争剣とローグの破天雷槌を指し示す。
「君達は疑問に思った事はないかい?魔王や世界を脅かす存在が顕れた時、その対抗措置としてこの武具は力を発揮する…だが対抗措置ならば何故ダインスレイヴが強力な呪いを宿している?ミョルニルは何故使う度に所有者を焼く?ただの対抗措置として生み出されたなら封獣縛鎖や地裂虹剣みたいにその様なデメリットは必要ない筈だ」
ならば何故か、一度言葉を止めたバニスは密告者の如く口を開いた。
「神器は今に存在する神が生み出したものではない、遥か昔に存在した神々によって造られた旧世界の遺物なんだよ、今の神は遺された神器に封印を後付けして再利用してるのさ」
―――――
「封印を、後付け…?」
「そう、正教の教典に記されてすらいないほどの遥か昔、この世界には人族だけでなく様々なものが存在した…森人、土人、獣人、そして大いなる力を持つ神々や魔性がね」
バニスが手のひらに炎を生み出す、炎の輝きが増すと空間をレイル達が見た事もない生物や人とは違う容姿をした者達が浮かび上がった。
「だが彼等は消え去った、大いなる力を持つ神々を始めとした者達による戦争が起きた、戦火は瞬く間に拡がって多くの種族と命が滅び去ったんだ」
周囲の光景が変わる、荒れ果てた世界で様々な容姿をした者達が武器を手に殺し合っており、大地を覆い尽くすのではないかと思うほどの屍が散乱していた。
「やがて神々や力持つ者達ごと旧世界は滅んだ、だが一柱だけ生き残った神がいた、神は僅かに生き残った人族と共に新たなる大地を生み出して覆い尽くし世界を創り直したのさ」
「世界を…創り直す…」
「そう、そして神器とは旧世界の神々が造ったもの…神は世界を創り直す前にそれを回収してその力を封じ聖具として利用したという訳だ」
バニスは語り終えると界枝焼剣をレイル達に向ける、そして紅蓮の刀身を翳しながら再び口を開いた。
「このレーヴァテインには神が他の神器に施した封印はない、だから所有者として認められればその力を発揮する事が出来るという訳だ」
(ならば神の封印がない神器を何故貴様が持っている!?我すら知らぬ事象を把握する貴様は何者だ!?)
「既に肉体が滅びた君に答える必要があるかい?どちらにせよ君達では私には勝てないという事実だけは変わらない」
バニスがレーヴァテインを振るう、今までとは比にならない熱量と勢いで炎の枝がレイル達に迫った。
「エルグランド!!」
(っ!)
レイルが叫ぶと同時に“顕獣疾駆”でエルグランドを顕現させて炎の枝を弾く、レイルは燃え盛る様に輝く眼でバニスを見据えた。
「今までだってお前の様に聖具を使う相手と戦って来た」
レイルはエルグランドに飛び乗って剣を構える。
「お前もそうだってだけの話だ、こっちだってやる事は変わらない」




