56:対面
倒れ伏したズィーガが死んでいるのを確認したレイル達は集まって互いの状態を確認し合う。
「ローグ、大丈夫?」
「ポーションで回復できる範囲だ、問題ねえ」
「レイル君はどう?」
「傷自体は治ってる、まだ余力はあるから問題ない」
「…“正しく回帰する魂”も問題なく発動した、次はもっと早く撃てる」
「なら準備を整え次第、先に進むべきだと思うが大丈夫か?」
レイルの言葉に三人は頷き、準備を整えたレイル達は部屋の奥にある階段へと向かった。
―――――
大きく長い階段を登っていくとやがて巨大な扉がレイル達の視界に姿を現す、レイル達が傍まで近づくと扉は大気を震わせながらゆっくりと開いていった。
「歓迎されてるみたいだな」
ローグが吐き捨てる様に言うのを聞きながらレイル達は周囲を警戒しながら進む、燭台に照らされた廊下を進むとやがて開けた空間に出た。
外の構造から見たら有り得ないほど広い部屋は壁に石柱が並び神殿を思わせる造りは荘厳さを感じさせるが最奥の玉座に座る者から放たれる魔力が感傷に浸る隙を与えない。
「ようこそパンデモニウムへ、ここまで来た君達に称賛を送るよ」
玉座に座っていたバニスは立ち上がると微笑を浮かべながら拍手する、乾いた音が響く中レイルが剣を握り直すとバニスはそれを手で制する。
「まあ待ちたまえ、まずは話そうじゃないか、殺し合うのは話してからでも遅くないだろう?」
「教団を作り上げ散々命を奪ったお前がそれを言うのか?」
「必要な事だったからね」
「貴様…!」
「分かった、ではひとつだけ言わせてくれたまえ」
身体強化を発動しかけたレイルを見てバニスは指を立てて告げた。
「ありがとう、君達のお陰で良いデータが得られたよ」
「何?」
「下でズィーガと一緒に出てきただろう?あれは私が作り出したものでね、君達との戦いで得られたデータを元に調整すればようやく作り出せそうなんだ」
バニスは言葉を区切ると笑みを深めながら続けた。
「魔物の力と人族の知能と繁殖能力を有した魔王を超える人族の脅威、言うなれば魔族とでも言うべき存在をね…」
―――――
「魔族…?魔王を超える脅威ですって!?」
シャルが信じられないとばかりに声を上げる、バニスは笑みを崩さず口を開いた。
「そう、人族に匹敵する知能と魔物の強靭な肉体を持つ人族の敵対種族…魔族を生み出すにはどうしても参考になるデータが足りなくてね、君達のお陰でそれが得られたから感謝を伝えたかったんだ」
「ふざけるな!」
レイルが雷を纏いながらバニスに迫り剣を振り下ろす、だがバニスはいつの間にか手にした剣でレイルの剣を受け止めた。
「竜の力を使っている訳じゃないのに凄まじい威力だ、今の君は全盛期のゼルシドに匹敵するかも知れないね」
「…っ!師匠も!これまでの事も!魔族を生み出す為の実験だったって事か!?」
「魔族を生み出すのは手段のひとつに過ぎないさ、私の目的の為にね」
「目的だと!?人族を根絶やしにでもするつもりか!?」
鬼気迫る勢いで剣を押し込むレイルにバニスはにやりと顔を歪める、そしてその見た目からは想像がつかないほどの力でレイルの剣を押し返した。
「“焼き焦がせ、界枝焼剣”」
その言葉を引き金にバニスの剣から炎が噴き出す、噴き出した炎に吹き飛ばされたレイルは床を削りながら着地する。
「私の目的は人族を滅ぼす事なんかじゃないさ」
バニスは複数の炎の蛇が巻きついたかの様な炎の剣を振るう、距離を取っても感じ取れるほどの高熱を放つ剣を握りながら告げた。
「私はね…人と人が手を取り合う世界を見たいだけさ」




