55:浄化
『灼咬』によって赤熱化したレイルの剣が火の粉を散らしながら振るわれる、並の防具なら溶断する威力を誇る一撃をズィーガはオハンで受け止める。
火花が散り幾度も互いの武器をぶつけ合うがオハンには傷一つつかない、竜の鱗すら遥かに上回る強固な盾を以てズィーガはレイルの剣撃を捌く。
再びオハンで剣を受け止めた瞬間、右腕のカラドホルグが輝く、レイルの『崩牙』に匹敵する威力を有した虹の刃が真一文字に振るわれた。
その場で跳躍して避けたレイルにオハンが向けられ叫びが上がる、すかさずレイルも魔力を伴った咆哮を放つとオハンの叫びがかき消された。
(相殺させただと!?)
オハンの叫びを相殺したレイルは『天脚』を駆使してズィーガの背後へと回る、峰から炎を噴出させて加速させた剣をズィーガはオハンで受けるが衝撃を殺し切れずに吹き飛ばされた。
吹き飛ばされながらもズィーガはカラドホルグを振るう、レイルは即座に弾くが縦横無尽に振るわれる虹の刃は休む間もなく迫る。
「ちぃっ!」
いくら伸縮すると言っても武器は長大になればなるほど使い辛くなっていく、それは聖具であろうと例外ではない筈だがズィーガは10m近く伸びたカラドホルグを苦もなく使いこなす。
一方的に振るわれる虹の刃を凌いでいるとズィーガに火花を纏った戦槌が襲い掛かる、オハンで軌道を逸らす様に受けるとカラドホルグを弾いたレイルが距離を詰める。
ズィーガは一瞬でカラドホルグを縮めてレイルの剣を受ける、オハンで殴りつけようとするといつの間にか近くまで忍び寄っていたシャルが幾つもの鋼糸をオハンごと左腕に絡ませて動きを阻害した。
「セラ!」
レイルはカラドホルグを剣を絡める様にしてズィーガの右腕を抑えるとセラに呼び掛ける、ズィーガの視界には白い光に包まれたセラが杖を向けていた。
「“現世の戒めに囚われしものよ、理を歪めしものの鎖から解放せん、正しく回帰する魂”!」
凛とした詠唱と共に光が矢の如く放たれる、避けられないと判断したズィーガは無理矢理左腕の鋼糸を引き千切ってオハンを構えると光の矢はオハンに命中した。
「ぬ…ぐおぉっ!!?」
その直後ズィーガの体に異変が起きる、全身の神経が引き抜かれる様な痛みが走り、右腕を抑えるレイルを振り払ってカラドホルグを滅茶苦茶に振り回した。
「なんだ、これは…ぐあぁっ!!?」
最初こそ部屋中の壁を斬り裂くほど伸びていたカラドホルグの刃が短くなっていく、オハンも角が短くなっていき少しずつ小さくなっていった。
「…貴方が使う聖具は幾千の人達の魂を使ってその力を無理矢理引き出してるもの…だからその魂を解放して浄化した」
「!?」
「魂が解放されて歪みがなくなった聖具は機能を停止する、それだけの話」
「おの、れぇ…!?」
ズィーガがセラに向けて右腕を振るおうとしたが間に割って入ったレイルが剣を振るう、ズィーガはまだ左腕と繋がっているオハンで受けるが剣の鍔を引っ掛ける様にしてオハンを抑えつけると右腕を腰へと伸ばす、ズィーガが僅かとなったカラドホルグを刺そうとしてくるがレイルはそれより一瞬早く踏み込み永劫争剣を掴んで引き抜いた。
「おぉぉっ!!」
「ぬあぁっ!!」
レイルとズィーガが交差して背中合わせになる、ダインスレイヴを振り抜いた体勢のレイルの頬が裂けて血が流れた。
「…所詮は、紛い物の力か」
ズィーガの両腕からカラドホルグとオハンが分離して床に落ちる、胴を斬られ呟いた口から血を流したズィーガは糸が切れた人形の様に崩れ落ちた…。




